個々の労働者の賃金がどのような賃金支払項目の組合せから成り立っているか、各賃金項目はどのような算定方法によるのかを示すもので、給与体系ともいう。賃金支払項目は大別すると、所定労働時間に対する基準内賃金と、超過勤務などに対して支払われる基準外賃金(諸手当)とに分けられる。賃金の大部分は基準内賃金によって構成されており、しかも、その圧倒的部分を基本給が占める。したがって基本給の算定方法が賃金体系の型を規定する。基本給の算定には、年齢、勤続年数、学歴などの属人的要素を中心とするもの(属人給)、職務、能力、勤務成績などの仕事的要素を中心とするもの(仕事給)、それらを総合勘案するもの(総合給)の三つがある。そして、賃金体系は、このうちの一つを採用する単一型体系と、それらを組み合わせて採用する併存型体系の2種類に分類される。ちなみに、基準内賃金には、この基本給以外に勤務手当、生活手当などが含まれる。そして、これらの各構成項目を具体的に金額で示したものが賃金構成である。各賃金支払項目の選定とウェイトづけはそれぞれの企業によって異なり、それに応じて賃金体系も企業ごとに異なった形をとる。
賃金体系という用語は日本独特のもので、西欧では用いられていない。西欧にもさまざまな付加的給付があるが、通常、賃金とは別のものとして区別されている。これに対して、わが国では、賃金のもとに一括されており、こうした賃金慣行が賃金体系なる用語を生み出す根拠となっている。
賃金支払項目が増大し、複雑な賃金体系をとり始めたのは、第二次世界大戦中から終戦後にかけての時期である。その背後には、戦時インフレ、終戦後の労働組合による賃上げ要求に対して、基本給は可能な限り据え置き、家族手当などの臨時諸手当の増額・新設によって対応してきた賃金政策があった。これに対し、1946年(昭和21)10月、電産(日本電気産業労働組合)が、理論生計費算定方式を基礎に組み立てた賃金体系(電産型賃金体系)を提起し、以後、広範な普及をみた。この賃金体系は、戦前以来の年功賃金体系を最低生活保障を軸に修正した生活給体系で、資本の恣意(しい)性を極力排除するなど労働者の利益を反映したものであった。しかし1960年代以降、職務給、職能給の導入とともに変質が進み、多様な形態をとりつつしだいに仕事給体系への移行が進んだ。しかし仕事給とリンクした資格制度が実際の運用では年齢・勤続年数など属人的要素に依存してきたこと、賃金改訂にあたって生活へ配慮せざるをえなかったことなどもあって、年功的要素は存続し続けた。1990年代以降、年功制度の本格的な見直しの気運が高まるなかで、賃金においてもこれまでの年功的要素をできるだけ取り除き、職務遂行能力など仕事的要素を徹底させる方向での見直しが進められている。
[横山寿一]
『高木督夫・深見謙介著『賃金体系と労働組合』上下(1974、75・労働旬報社)』▽『高年齢者雇用開発協会編『高齢化時代に適合した賃金体系モデルに関する調査研究報告書』(1995・高年齢者雇用開発協会)』
企業内(官公庁等を含む)の個人別従業員の賃金決定の基準および企業内賃金格差のさまざまな分布=企業内賃金構造を総称する用語である。したがって,賃金体系は企業によって千差万別である。
賃金体系をまず支払項目別に整理してみると,大きく〈所定内賃金(基準内賃金)〉と〈所定外賃金(基準外賃金)〉とに分かれる。前者は労働協約や労働基準法にもとづく所定労働時間に対応して支払われる賃金部分のことで,後者は所定時間以上労働したときに支払われる部分である。つぎに,〈所定内賃金〉は〈基本給〉と〈業績給(能率給)〉と〈諸手当〉(家族手当,住宅手当等)の三つのグループに大別される。ふつう業績給を採用していない産業や企業では,基本給+諸手当というかたちをとり,鉄鋼や造船業のように業績給を採用している企業では,基本給+業績給+諸手当という組立てをとっている。賃金体系は第1にこのような賃金支払項目の構成をもっている。そのなかで,最も重要な意味をもっているのは基本給で,所定内賃金の圧倒的大部分を占めるとともに,諸手当,一時金,退職金などの算定基準をともなっており,欧米のような超企業的〈横断賃率〉ではなく企業内賃率という性質を備えている。年功賃金の骨格をなしているのも,実はこの基本給にほかならない。年功的基本給とは,学歴・年齢・勤続年数・成績・人事考課などの基準で,決定,格付けられたものであり,官公庁,民間大企業の男子労働者に最も典型的な賃金慣行である。その出発点は新規学卒者の学歴別初任給であり,定期昇給額の勤続年数による積重ねで組み立てられている。定期昇格制度は,勤続年数による自動昇格のほかに,人事考課による査定昇格が含まれているから,人事考課制度も基本給管理の一構成部分である。
基本給の決定基準と制度の運用で,企業内賃金構造は,複雑で多層な分布と格差を示すことになる。第1に,出発点の初任給は学歴別であるが,学歴のちがいは同時に,配置される職務・職掌のちがい,昇進ルートのちがいと連結している。またしばしば女子はスタートから男子と格差がつけられる。第2に,基本給の額は勤続年数の長短で大きく異なる。新規学卒入社者(標準労働者)と中途採用者との間には当然格差がある。勤続年数は企業内経験年数と同義語であり,企業内教育(OJT)が徹底して行われている以上,従業員の仕事の技能,熟練の伸長度と対応しているから,年功的基本給も仕事との対応関係をもっている。にもかかわらず,高度成長期以降の生産の機械化・自動化のインパクトで,〈職種の職務への細分化〉が生じ,年功的昇給・昇進管理を補充・補強する必要が生じ,職務給や職能給と年功的基本給との接合が普及しはじめた。
→賃金
執筆者:高橋 洸
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…電産の前身,電産協が1946年の産別十月闘争によって獲得した賃金体系のことで,以後約10年間,日本の最も代表的な賃金体系として広く普及した。日本資本主義史上,労働組合の手で作成された唯一の賃金体系であることに歴史的意義がある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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