職能給とは,従業員が保有する職務遂行能力を対象として,能力評価によって格付けし,職能等級ごとに賃率を設定する賃金支払方式であり,職務観念が希薄な日本の企業で,職務給に代わるメリット・システムとして発達した。職務遂行能力をとらえる方法としては,職能分類制,能力序列(資格)による格付け,年数(勤続年数,経験年数等),技能資格,実技テスト,資格試験などが併用されている。ちなみに,日経連(日本経営者団体連盟)が指導している〈職能資格制度〉では〈職務を基礎とした遂行能力の段階区分に応じて職能資格を設定し,従業員一人ひとりの職務遂行能力の発揮度,期待度に応じて職能資格に格付ける。また職務遂行能力の伸長度に応じて職能資格を歩ませる(昇格させる)システム〉とされている。1969年日経連が打ち出した〈能力主義管理〉の一環として,職能給体系が大企業を中心に急速に普及しはじめた。それは(1)画一的・年功的基本給の修正,(2)従来の職務給の職能給化という二つの方向で進展しているが,定期昇給を基礎とした年功的基本給と職能給を組み合わせたいわゆる併存型が多い。
今日の職能給は職能資格制度にセットされており,職能資格そのものも,かつてのように企業内の従業員の地位や身分を表示するだけのものではなく,採用,配置,昇進,昇格,配置転換,教育・訓練,能力開発などの人事管理のシステムに組み込まれている点に基本的な特徴がある。とくに注目されるのは,減量経営を追求している企業にとって,旧来の年功的基本給の勤続年数を重視した昇給・昇進管理基準がもたらす中高年層と高学歴層の〈相対的〉高賃金というデメリットを除き,昇給・昇格基準を〈職務遂行能力〉に置き換え,賃金コストを抑制し,選別機能を一段と強化するためには,〈職能給化〉はきわめて有利なてこにほかならないという点である。この点は定年延長とからんだ〈年功賃金見直し〉の動向とも関連している。さらに高度成長期に導入された職務給が,減量経営による要員の少数化,精鋭化,流動化にも,また職務拡大,職務充実,職務交代などを含む多能工化,小集団活動の組織化にもなじまないこと,職務格付けの固定化,職務昇進のポストと機会の減少などにより,労働者の関心を企業に引き寄せることが難しくなってきたことから,急速に職能給のメリットが浮かび上がった。つまり,職務給にくらべて,職級を大きくくくることができ,能力の上昇に応じた弾力的な昇給・昇進管理が可能であり,かつ中高年層肥大化や,配置転換に対応しやすい効用がそれである。したがって,職能給は低成長下の大企業の賃金管理戦略の基軸ともなっている。
→賃金
執筆者:高橋 洸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
労働者の職務遂行能力を基準として決められる賃金で、職務給とともに仕事給の主要な形態をなす。職務を遂行する能力のとらえ方によって次の二つのタイプに分けられる。一つは、職務遂行能力を仕事の種類ごとに分類(職掌分類という。たとえば作業職、事務職、監督職、管理職など)し、各職掌ごとに能力段階を設け、それに賃金を対応させるものである。いま一つは、職務遂行能力について能力序列を設け(たとえば事務系統については参事―副参事―主事―書記―書記補、技術系統では技師長―技師―技手―技手補―工手―工手補)、その序列に従って賃金を決めるものである。企業における能力主義管理の強化に伴って拡大を遂げ、さらに、近年、職務の流動化、作業範囲の拡大、配転・応援などの「合理化」に対応しうる体制づくりの一環として、いっそう強力に推進されつつある。しかし、能力評価が恣意(しい)的、主観的にならざるをえないこと、賃金の差別化・格差拡大を生み出すことなど問題も多い。
[横山寿一]
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