最新 心理学事典 「家族療法」の解説
かぞくりょうほう
家族療法
family therapy
【家族システム理論】 家族療法の基盤には,家族とは単なる数人の人びとの寄せ集めではなく人びとが有機的に関係し合って,全体としてまとまって一連の機能を果たしているシステムととらえる家族システム理論がある。この理論では,個人,家族集団,コミュニティ,国家などは,それぞれが一つのシステムであると同時に,生態システムのサブシステムでもあり,それぞれのシステムは,システム内,システム間で相互作用している生物-心理-社会的な存在とみなされる。家族システム理論によれば,個人や人びとが表現している症状や問題は,個人の生理的・生得的障害として治癒される場合もあるが,多くの問題は,個人の成長・変化と環境の変化,あるいは複数の人びとの異なったものの見方や行動の相互影響過程で生じており,それらの円環的・循環的相互作用は症状や問題の発生にも治療のプロセスにも適用できるとする。家族の中で問題や症状を示している人は,IP(identified patient=患者とされた者)とよばれ,関係やシステムの変化の必要性を本人とその人を取り巻く家族やほかのシステムに発している人と理解される。したがって,家族療法では,必要に応じて個人面接,親子・夫婦面接,家族合同面接,そして家族にかかわる他の人びと(親戚や教師,職場の上司など)を加えた面接などが行なわれる。
【家族療法理論】 家族療法は家族システム理論を中軸として開発されてきたが,第1世代とよばれる初期の理論モデルは,観察者としてのセラピストの家族システム理解を中心に構築されている。代表的なものとしては,家族を多世代にわたる歴史的関係の集団として理解しようとする多世代理論,家族を同居メンバーが作る構造(力や役割関係)としてとらえる構造理論,家族システムはメンバー間のコミュニケーションから理解できるとするコミュニケーション理論がある。各理論は,ジェノグラム(家族関係図),ジョイニング,治療的ダブルバインド(リフレーミング)など,心理療法全体に貢献した技法を開発している。第2世代理論には,ポストモダニズム・社会構成主義の考え方が取り入れられ,セラピストは科学者,専門家,観察者の位置からではなく,システム(個人や集団)の主体的で自由なあり方をともに再発見し,強化し,創造する仲間として参与する立場を強調する。代表的なものには,解決志向療法(短期療法),認知行動療法的家族療法,ナラティブ・セラピーなどがある。 →集団療法
〔平木 典子〕
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