物理学で考える対称性は物理現象の保存量と関係している。たとえば物体が回転運動する場合に角運動量が保存されることから、この対称性がわかる。この場合、回転運動を、ある座標系での回転操作と考えると、時空における回転対称性が角運動量という形で不変量になっていると考えられる。この考え方を進めると、さまざまな物理現象を対称性が保たれているか否か、という視点でみることができる。つまり力学がガリレオ変換(絶対時空を想定したニュートン力学)に対してではなくローレンツ変換(光速度一定)に対して対称性が保たれている(不変である)と考えると、アインシュタインの特殊相対性理論になる。この考え方を素粒子に適用して、パリティ変換(パリティparity:P、物理的に鏡映状態をつくる変換)と荷電共役変換(チャージコンジュゲートcharge conjugate:C、粒子を反粒子にする変換)を続けて行う変換操作を考えると、それに対応する不変量としてCP対称性(CとPの変換を連続して行っても素粒子の変化に違いはない)が考えられる。しかし1964年に中性K中間子の崩壊の観測で、このCP対称性が破られていることが発見された。小林誠、益川敏英(ますかわとしひで)にノーベル賞をもたらした小林・益川理論はCP対称性の破れを説明するためのクォークの三世代理論(この理論ではクォークは6種類存在する)である。また宇宙論的には、ビッグ・バン後の現在の宇宙で物質が反物質より多量に存在する理由として、CP対称性の破れが重要視されている。
対称性はまた相転移とも関係する。相転移とは物質などが温度・圧力などにより結晶構造などの対称性を変化させることである。たとえば水分子が低温では氷のような結晶状態(固体)であり、0℃で融解して水(液体)になり、100℃で蒸発して水蒸気(気体)になるような状況である。この相転移は強磁性体での自発磁化の破れでも起こる。強磁性体の自発磁化とは、外部から磁場をかけなくても内部の磁気モーメントがそろった状態(対称性が高い)である(その状態がエネルギーの低い基底状態になっている)。この状態で温度が上がると、各磁気モーメントがかってな方向を向き、全体の磁気がなくなる。このような状況を自発的対称性の破れとよぶ。この自発的対称性の破れの考え方を素粒子に適用した南部陽一郎(なんぶよういちろう)がノーベル賞を受賞した。南部はなにもないものと考えられている真空が相転移を自発的に起こし、ある対称性を失うことを想定した。その考え方をイギリスのP・W・ヒッグスは物質に質量を与えるヒッグス粒子(またはヒッグス場)に発展させた。
[山本将史 2022年4月19日]
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