ヒッグス粒子(読み)ひっぐすりゅうし(英語表記)Higgs boson

翻訳|Higgs boson

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒッグス粒子」の意味・わかりやすい解説

ヒッグス粒子
ひっぐすりゅうし
Higgs boson

素粒子統一理論から予想される粒子で、あらゆる物質の質量を生み出す機能をもつとされる。神の粒子とよばれることもある。自然界の基本的な力には、強い力、電磁力、弱い力、重力の四つの力がある。電磁力は二つの素粒子間に光子を交換することによって、弱い力はウィークボソンの交換によって媒介されるが、統一理論はこの二つの力を統合することに成功した。この理論はゲージ対称性にもとづいてつくられているが、その場合、交換する粒子の質量はゼロとなる。ところが、現実にはウィークボソンは陽子の100倍の質量をもつ。そこで、ゲージ対称性を見かけ上破ることによって質量を発生させるヒッグス機構が考案された。真空中にはヒッグス粒子がつまっており、素粒子はこのヒッグス粒子との衝突によって摩擦をおこし、それが質量を発生させたと考える。現段階ではあくまでも仮説であるが、もしヒッグス機構が正しいとすれば、ヒッグス粒子とよぶ新粒子の存在が予想されることになり、その発見がこれからの素粒子物理学の最大の課題とされる。

[広瀬立成]

 2012年7月、CERNはヒッグスとみられる新しいボソンを発見したことを発表。翌2013年には「質量の起源理解につながるヒッグス機構の発見」の功績で、ヒッグスとアングレールノーベル物理学賞を受賞した。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒッグス粒子」の意味・わかりやすい解説

ヒッグス粒子
ヒッグスりゅうし
Higgs boson; Higgs particle

ヒッグス場に付随する粒子。ヒッグスボソンともいう。現代物理学によれば,光子に対応する電磁場電子に対応する電子場などのように,すべての粒子にはそれに対応するがある。ほかの粒子の場は複数の成分をもつが,ヒッグス場はスカラー場と呼ばれ,その値は成分一つで表され,方向がない。それはスピンが 0であることを意味する。また全空間で 0でない値をもっており,それが理由となってほかの粒子(電子やクォークなど)に質量を与える。粒子によって質量が違うのは,それぞれヒッグス場との相互作用の強さが異なるからである。このメカニズムヒッグス機構といい,1964年にイギリスエディンバラ大学のピーター・ヒッグスにより提唱された。そして,ワインバーグ=サラムの理論などにより,今日の素粒子の標準理論のなかに一つの要素として取り入れられた。ヒッグス場の存在を実験で確認するには,それに付随する粒子であるヒッグス粒子を発見する必要がある。ヒッグス粒子は短命であり短時間でほかの複数の粒子に転換する。2012年7月,ヨーロッパ原子核研究機関 CERNの大型ハドロン衝突型加速器 LHCで実験を行なっていた科学者が,ヒッグス粒子が転換した結果と思われる現象を発見したと発表した。それによれば,ヒッグス粒子の質量は 125~126GeV(ギガ電子ボルト),水素原子の約 130倍であった。

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