ヒッグス粒子(読み)ヒッグスリュウシ

デジタル大辞泉 「ヒッグス粒子」の意味・読み・例文・類語

ヒッグス‐りゅうし〔‐リフシ〕【ヒッグス粒子】

Higgs particle素粒子質量を与える役割を担う素粒子素粒子物理学標準模型、特にワインバーグサラム理論の中でその存在が予言され、長年にわたり探索が続けられたが、2012年7月にCERNLHC加速器で未知の新粒子が見つかり、翌年ヒッグス粒子であると発表された。1964年に素粒子の質量獲得モデル(ヒッグス機構)を提唱した英国の物理学ヒッグスの名にちなむ。H粒子。
[補説]ビッグバンによって宇宙ができた直後、素粒子には質量がなく光速で飛び交っていたが、宇宙が膨張・冷却する過程で真空の性質が変化した。この変化は真空の相転移とよばれ、ヒッグス粒子が凝縮して真空に満ちることで素粒子が動きにくくなった。ヒッグス機構によると動きにくさの度合いは、素粒子の質量の大きさを表し、軽い素粒子ほど動きやすく、重い粒子ほど動きにくいとされる。CERNのLHC加速器に設置されたATLASCMSなどの検出器でヒッグス粒子の探索が行われ、2012年7月、質量125~126GeVの範囲にヒッグス粒子と思われる新しい粒子を発見。さらに2013年3月にはスカラー粒子(スピンが零のボース粒子)であることが確認され、新粒子はほぼ間違いなくヒッグス粒子であると発表された。同粒子の存在を提唱したヒッグスは、おなじく素粒子が質量を獲得する理論を独立して発表したベルギーアングレールとともに、2013年にノーベル物理学賞受賞

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒッグス粒子」の意味・わかりやすい解説

ヒッグス粒子
ひっぐすりゅうし
Higgs boson

素粒子の統一理論から予想される粒子で、あらゆる物質の質量を生み出す機能をもつとされる。神の粒子とよばれることもある。自然界の基本的な力には、強い力、電磁力、弱い力、重力の四つの力がある。電磁力は二つの素粒子間に光子を交換することによって、弱い力はウィークボソンの交換によって媒介されるが、統一理論はこの二つの力を統合することに成功した。この理論はゲージ対称性にもとづいてつくられているが、その場合、交換する粒子の質量はゼロとなる。ところが、現実にはウィークボソンは陽子の100倍の質量をもつ。そこで、ゲージ対称性を見かけ上破ることによって質量を発生させるヒッグス機構が考案された。真空中にはヒッグス粒子がつまっており、素粒子はこのヒッグス粒子との衝突によって摩擦をおこし、それが質量を発生させたと考える。現段階ではあくまでも仮説であるが、もしヒッグス機構が正しいとすれば、ヒッグス粒子とよぶ新粒子の存在が予想されることになり、その発見がこれからの素粒子物理学の最大の課題とされる。

[広瀬立成]

 2012年7月、CERNはヒッグスとみられる新しいボソンを発見したことを発表。翌2013年には「質量の起源の理解につながるヒッグス機構の発見」の功績で、ヒッグスとアングレールがノーベル物理学賞を受賞した。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒッグス粒子」の意味・わかりやすい解説

ヒッグス粒子
ヒッグスりゅうし
Higgs boson; Higgs particle

ヒッグス場に付随する粒子。ヒッグスボソンともいう。現代物理学によれば,光子に対応する電磁場電子に対応する電子場などのように,すべての粒子にはそれに対応するがある。ほかの粒子の場は複数の成分をもつが,ヒッグス場はスカラー場と呼ばれ,その値は成分一つで表され,方向がない。それはスピンが 0であることを意味する。また全空間で 0でない値をもっており,それが理由となってほかの粒子(電子やクォークなど)に質量を与える。粒子によって質量が違うのは,それぞれヒッグス場との相互作用の強さが異なるからである。このメカニズムヒッグス機構といい,1964年にイギリスエディンバラ大学のピーター・ヒッグスにより提唱された。そして,ワインバーグ=サラムの理論などにより,今日の素粒子の標準理論のなかに一つの要素として取り入れられた。ヒッグス場の存在を実験で確認するには,それに付随する粒子であるヒッグス粒子を発見する必要がある。ヒッグス粒子は短命であり短時間でほかの複数の粒子に転換する。2012年7月,ヨーロッパ原子核研究機関 CERNの大型ハドロン衝突型加速器 LHCで実験を行なっていた科学者が,ヒッグス粒子が転換した結果と思われる現象を発見したと発表した。それによれば,ヒッグス粒子の質量は 125~126GeV(ギガ電子ボルト),水素原子の約 130倍であった。

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百科事典マイペディア 「ヒッグス粒子」の意味・わかりやすい解説

ヒッグス粒子【ヒッグスりゅうし】

電弱統一理論が成立するために必要な粒子で,中性でスピンがO。電弱統一理論は実験的に正しいことが確かめられているが,この理論では電弱相互作用(相互作用)を媒介する粒子として4個の粒子が導入されている。電磁相互作用の媒介粒子の光子は質量Oであるが,弱い相互作用の媒介粒子のウィークボソンの質量はOではない。もともと質量がOであった粒子に,有限の質量を与える過程でヒッグス粒子が現れる。英国の物理学者P.W.ヒッグスがこの理論的メカニズムを導入した。また現代物理学は,ビッグバンで宇宙が生まれた瞬間,素粒子は質量を持たず,光の速度で飛び回っていたと考えられ,直後に素粒子が質量を得て動きが鈍り,物質に満ちた今の宇宙となったとするが,ベルギーのF.アングレールはその仕組みを最初に提唱。ヒッグスはその仕組みの主役としてヒッグス粒子の存在を予想したのである。この2人は1964年に別々に論文を発表した。ヒッグス粒子は発見されていないが,この予想に基づき,欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型加速器LHCで実験が続けられた。CERNは2013年3月〈ヒッグス粒子の発見はほぼ確実になった〉と発表,2013年のノーベル物理学賞がヒッグスとアングレールに授与された。基本粒子がすべてそろったことで,物理学の標準理論が完成したとされる。CERNの実験には多くの日本人研究者が参加している。

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