内科学 第10版 「小舞踏病」の解説
小舞踏病(急性散在性脳脊髄炎)
概念
A群連鎖球菌感染後に生じるリウマチ熱の主症状の1つで,免疫学的機序で生じる不随意な舞踏運動であり,Sydenham舞踏病ともよばれる.
原因・疫学
A群連鎖球菌感染による免疫反応と考えられている.菌体成分とヒト組織との交叉抗原性が指摘されており,患者血清中の菌体成分に対する抗体がヒトの尾状核や視床下核と特異的に交差反応したとする報告がある.おもに小児期から思春期にみられ成人ではまれである.先進国では抗菌薬使用の広がりによって急性リウマチ熱が減少し,小舞踏病も少なくなっている.
臨床症状
神経学的には舞踏運動といわれる,急速で不規則な動きが,一般には手先から始まり,顔面,舌,体幹部,両下肢に広がる.覚醒時には持続するが睡眠で消失する.ときに片側性に出現する.声の変化,顔のしかめ,握力の動揺,巧緻運動障害,書字拙劣,筋力低下,筋トーヌス低下がみられる.強迫性障害,注意欠損・多動性障害などの精神症状を伴うことがある.リウマチ熱の主症状として,心炎,多関節炎,輪状紅斑,皮下結節などが生じるが,これらはA群連鎖球菌感染による咽頭扁桃炎の数週後に起こり,舞踏運動が出現する1~8カ月後には消失していることが多い.
診断・鑑別診断・検査成績
特異的な検査マーカーはなく,舞踏運動を主とする臨床症状から本症を疑い,連鎖球菌感染による咽頭扁桃炎の先行,心エコーによる心弁膜異常がとらえられれば支持的である.小舞踏病は感染の数カ月後に発症するので,その時点では上気道からはA群連鎖球菌は培養できず,ASLOなどの血清抗体もすでに感染前の状態に戻っていることが多い.通常,脳画像や髄液に異常はみられない.全身性エリテマトーデスに伴う舞踏病,Huntington病,Wilson病,チック,Tourette症候群,家族性良性舞踏病,発作性舞踏アテトーゼなどが鑑別にあげられる.妊娠や経口避妊薬の服用によって同様な不随意運動を生じる例も知られている.
治療・予後
予後は一般に良好で徐々に改善し3~4カ月で完治する.A群連鎖球菌感染が再発する場合には抗菌薬による予防を行う.舞踏運動に対して,バルプロ酸,フェノバルビタール,ハロペリドールが用いられる.副腎皮質ステロイドのパルスおよび漸減療法,血漿交換療法,大量ガンマグロブリン療法の有効例が報告されている.[犬塚 貴]
■文献
藤川 敏:リウマチ性舞踏病.小児科臨床,60: 2069-2074, 2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報