解剖学者、人類学者。越後(えちご)(新潟県)長岡藩の小金井良達(よしみち)と幸(ゆき)との間に生まれる。大学南校を経て1880年(明治13)に東京大学医学部を卒業、それより4年半、ドイツに留学して解剖学、組織学を学んだ。帰国後、日本人としては初代の東京大学解剖学教授となり、1893年に日本解剖学会を創設して、解剖学の発展に尽くした。
人類学の分野では、主として縄文時代人およびアイヌの骨学的研究を行った。縄文人は日本の先住民であり、アイヌはその子孫であるという、いわゆるアイヌ先住民説を唱えたが、縄文人やアイヌは他のいかなる人種とも異なるとして、人種孤島説に到達した。日本人類学会の創設者坪井正五郎は、当時、縄文人がアイヌの伝説に登場するコロポックルであったと主張していたが、小金井は人骨の実証的研究によって、坪井説の誤りを証明した。現在、アイヌ先住民説は、多少の修正を要するものの、大筋においては正しいと考えられている。妻は森鴎外の妹で翻訳家、小説家、歌人の小金井喜美子。
[埴原和郎 2018年11月19日]
『星新一著『祖父・小金井良精の記』(1974・河出書房新社/河出文庫、上下)』
明治〜昭和期の解剖学者,人類学者 東京帝大名誉教授。
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
解剖学者,人類学者。新潟県長岡出身。1880年東京大学医学部を卒業。ドイツに留学し,86年東京大学医学部解剖学教授となる。留学中は感覚器の組織学を専攻したが,帰国後は骨学,人類学を専攻。88年と89年の夏,北海道を旅行し,アイヌの生体計測と骨格資料の収集を行った。その成果は,93-94年に《東京帝国大学医学部紀要》第2冊第1,2編に独文で発表され,人類学における古典的文献のひとつとなっている。このアイヌ研究を基礎として,当時有力であった,日本石器時代人=コロボックル説を鋭く批判し,日本石器時代人=アイヌ説を唱道した。主要な論文はすべて独文で発表されたが,和文の著書に《日本石器時代住民》(1904)がある。和文論文のほとんどは,《人類学研究》(1926)と《人類学研究続篇》(1958)に再録されている。縄文時代人における風習的抜歯の発見や,齲歯(うし)(虫歯)の統計的研究でも知られている。なお夫人喜美子は,作家森鷗外の妹で,歌人,翻訳家として名を残した。
執筆者:山口 敏
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…これはアイヌがホモ・サピエンスの原型に近い形態特徴を保持しており,人種分化の過程をあまり経ていないことを意味するのであろう。 北海道アイヌの骨格を最初に詳しく調査し,アイヌと本州縄文人とが互いに著しく類似することを発見した小金井良精は,アイヌが日本の縄文時代の先住民であり,のちに海外から渡来した日本人によって北へ追われたのであろうと考えた。しかし小金井に続いて日本各地の古人骨資料をさらに数多く調査した長谷部言人,清野謙次らは,アイヌばかりでなく日本人もまた,基本的には縄文時代人に由来したものであることを明らかにした。…
…すなわち人類学者坪井正五郎は1887年,石器時代の日本列島に住んでいたのは,このコロボックルであると発表し,さらに彼らはエスキモーに近い人種であったが,アイヌに追われて姿を消したと説いた。当時の学会では日本の石器時代人はアイヌであるとする,P.F.vonシーボルト以来の学説が主流を構成しており,この説に立つ白井光太郎,鳥居竜蔵,小金井良精らと坪井との間で,はげしい論争が展開された。〈コロボックル論争〉あるいは〈アイヌ・コロボックル論争〉と呼ばれるこの論戦は,アイヌ説の圧倒的な優勢の中で,1913年坪井の急逝のため,最終的な結論を得ぬまま中断された。…
…
[縄文人]
坪井正五郎はアイヌ神謡に登場するコロボックル(フキの下の小人を意味する)こそが縄文文化の担い手であり,やがて北方に追放されてしまったとする。小金井良精は,縄文時代にはアイヌが先住していたが,移住者によって北海道に押しこめられたというアイヌ先縄文説を唱えた。清野謙次は,アイヌと現代日本人の共通の祖先が長い混血の歴史を経て形質上の変化を遂げてきたとする原日本人説を示した。…
※「小金井良精」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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