インド仏教における居士の原語はグリハパティgṛhapatiで,その原意は富裕な資産家を意味する。初期仏教の時代,マガダ国を中心に鉄の使用が盛んになり農耕器具の発達により豊かな農産物が各地へ売買されるにいたり,富裕な商工業者の資産家が出現した。彼らは四姓(カースト)の中ではバイシャ(庶民階級)に属し,初期仏教は主として彼らの精神的支柱として熱心に信仰されるにいたった。つまり初期仏教では居士とは,熱心に信仰し修行する在家の富裕な資産家を意味した。仏教教団はそのはじめから,出家の男(比丘),女(比丘尼)と在家の男(優婆塞),女(優婆夷)の4者から構成されていたから,居士は在家の優婆塞の中に含められるが,単なる在家信者とはニュアンスを異にするのである。
紀元前後に成立した大乗仏教は,諸部派の出家者も参加したであろうが,主として在家者が中心であり,その教義も従来の部派仏教の出家中心主義と異なり,在家を中心としたものといえる。この時代にいたると,居士仏教は在家仏教とほぼ同じ意とみなされるがそれでもやはり,居士は知識のある指導者的在家の意味あいが深い。大乗経典の中で居士として有名な人物は《維摩経》の主人公の維摩であり,釈尊の直弟子の著名な出家者たちが,在家の維摩居士により空の立場から痛烈な批判を浴びるという内容である。また大乗経典にはしばしば,良い家柄の男女を意味する善男子(クラプトラkulaputra)・善女人(クラドゥヒトリkuladuhitṛ)の語がみられ,これらの在家者が大乗仏教の主たる担い手だったことが推察される。
執筆者:加藤 純章
宋代より明・清時代にかけて盛況を呈した有識者主体の在家仏教を指す。居士とは古来,道を修め徳を備えながら仕えない在野練達の士つまり処士と同義語であるが,維摩居士のように仏道に志す在家の意味が強められてくる。清の彭際清撰《居士伝》に従えば,居士仏教を後漢までさかのぼらせることはできようが,寺院僧尼に宗教活動の主体があった唐代以前をこの範疇に入れるべきではない。もともと大乗仏教が徹底普及すればするほど在家仏教に移行せざるをえないが,義解中心より実践重視の宋代以後は居士たちの活動が盛んになる。とりわけ征服王朝下に呻吟する知識人には,一種のレジスタンス運動として仏教研究や信仰に沈潜する者も多くみられた。宋代すでに廬山の慧遠を慕い念仏結社の浄土会を組織した宰相文彦博はじめ杭州蓮社の王衷,秀州白蓮社の張掄などのほか,張商英に代表される仏教学者が輩出し,この傾向は明・清時代へと拍車がかかった。
執筆者:藤善 真澄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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