一個人の和歌集を統括的に取り扱う意識から生まれた呼称。ふつう近世以前の歌集についてのみいう。古くは家の集(いえのしゆう),家集(かしゆう)といい,また,集(しゆう)とも呼ばれ,勅撰・私撰和歌集のような多人数の歌を集めたものと区別される。現存する私家集は近世期まで加えれば膨大な数に上る。これが,自撰,他撰により,さまざまな階層の人々の多種多様な編纂動機,形態,内容をもっていることが,勅・私撰集などの規範性と相違する,私家集の大きな特徴といえる。すでに《万葉集》には,その編纂資料となった《柿本人麻呂歌集》や《高橋虫麻呂歌集》などが見え,個人名を付した歌集が存在していたことが推測できる。平安時代に入ってからは種々の家集が作られ,ついに《三十六人集》のような私家集の集大成もみられるようになった。これら家集の多くは,個人の背後に〈家〉を強く意識したもので,その家の社交的記録の要素ももつ。また,詞書と和歌と相まって,《伊勢集》《篁(たかむら)物語》のような恋物語的なものや《成尋阿闍梨母集(じようじんあじやりははのしゆう)》のような日記,紀行的なものなどは,物語や日記,紀行文学などへ発展する萌芽を内蔵している。和歌史の展開に応じて,院政期のころから,私家集は文芸本位の傾向が顕著となり,鎌倉時代にかけて,《散木奇歌(さんぼくきか)集》(源俊頼)や六家集と呼ばれる《長秋詠藻》(藤原俊成),《山家(さんか)集》(西行),《拾遺愚草》(藤原定家),《秋篠月清(あきしのげつせい)集》(藤原良経),《拾玉集》(慈円),《壬二(みに)集》(藤原家隆)など,質量ともに優れたものが生まれた。《金槐和歌集》(源実朝),《建礼門院右京大夫集》もまた,当時の特異な家集である。
執筆者:青木 生子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
近代の術語であるが、近世以前の個人の歌集をいう。古く家集(いえのしゅう)または集(しゅう)とよばれ、撰集(せんじゅう)のような多人数による歌集の打聞(うちぎき)と区別される。家集とは、記録日記を家日記(いえにっき)、家乗(かじょう)と称したのと同じく、「家」の意識から出たものである。『万葉集』の左注に『柿本朝臣人麻呂歌集(かきのもとのあそみひとまろかしゅう)』『笠朝臣金村歌集(かさのあそみかなむらかしゅう)』などの記載があり、個人の歌集は『万葉集』編集以前に存在していた。これは中国六朝(りくちょう)時代の詩集の「別集」(個人の詩文集)に倣って編集されたものと思われる。「家集」の呼称は、『田氏家集(でんしかしゅう)』『菅家集(かんけのしゅう)』など9世紀の漢詩文の集に始まった。歌集としても、9世紀末ごろから、勅命によって自歌を集成(『大江千里集(おおえのちさとしゅう)』など)、子孫に伝えるため自撰(『紀貫之集(きのつらゆきしゅう)』自撰本など)、あるいは家族が故人の歌風を継承するため他撰(『頼基朝臣集(よりもとあそんしゅう)』など)、または権門(けんもん)・後宮(こうきゅう)の社交記録として編集(『御堂関白集(みどうかんぱくしゅう)』『大斎院御集(だいさいいんごしゅう)』など)したりした。このように自他撰の別はあるが、その始めは個人の背後に家風を強く意識したので、「家集」といわれた。
10世紀末ごろからの和歌の社会的な広まりとともに、著名歌人の集が詠歌の手本として他撰され、また創作的欲求に基づく多くの自撰家集も成立した。院政期(11世紀後半)に始まる和歌への文芸的自覚は、いわゆる三十六歌仙の家集を集めた『三十六人家集』などを編成させ、また『散木奇歌集(さんぼくきかしゅう)』(源俊頼(としより))のような公開を意図した生涯の秀歌撰を自撰させた。鎌倉時代に入り『長秋詠藻(ちょうしゅうえいそう)』(藤原俊成(しゅんぜい))、『山家集(さんかしゅう)』(西行)、『拾遺愚草(しゅういぐそう)』(藤原定家(ていか))、『秋篠(あきしの)月清集(げっせいしゅう)』(藤原良経(よしつね))、『壬二集(みにしゅう)』(藤原家隆(いえたか))、『拾玉集(しゅうぎょくしゅう)』(慈円)などの大家集が編集され、後世「六家集」と称された。以後、近世公家(くげ)社会までこの意識は受け継がれ、自らあるいは家人の手により編集された。
家集は本来的に私的な編纂(へんさん)物であるため、直接の目的、形態はさまざまであり、整然と部類されたもの、雑纂あるいは編年形態をとるもの、日記的なもの、定数歌を集成したものなど、その体裁はまちまちである。
[橋本不美男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新