顔に目が一つしかない単眼者。〈ひとつまなこ〉ともいう。両眼のうち一つを盲(めしい)にした片目も,のちに一つ目とされ,両者は混同されるようになった。
一つ目の古い事例では,《古事記》や《古語拾遺》の中の天目一箇命(あめのまひとつのみこと)や,《出雲国風土記》《今昔物語集》などにみえる人を食った一つ目の鬼があげられる。《今昔物語》には〈面ハ朱ノ色ニテ,円座ノ如ク広クシテ目一ツ有リ〉とある。民俗の中には,一つ目小僧,一つ目入道,山鬼(さんぎ),山父(やまちち),一目連,セコゴなどが一つ目の存在として登場し,雷神や山の神なども一つ目であるという伝承が伴う。一つ目の神や妖怪はしばしば一本足であるともいわれている。
一つ目伝承は,神や人が片目を突いたことにより,特定の植物を禁忌とする伝承,鎌倉権五郎をまつった各地の御霊者にちなんだ片目や片目魚伝承,天目一箇命やひょっとこなど鍛冶師の伝承などと結びついて語られる。一つ目などの不具神は,世界各地の神話でコスモスの創出や維持に重要な役割を果たしているが,日本の一つ目の神や妖怪も〈こと八日(ようか)〉や4月8日(卯月八日)など年や季節の折り目に多く出現し,此世と異界,生と死など対立する2項間の媒介や移行を体現した存在となっているようである。なお,不動明王のように右眼を開き左眼を閉じた姿は,日と月の両原理の形象化ともされ,一方で現世を他方で冥界を見通すものとされている。この片目つぶりは顔貌の急激な変化と眼球の消去によって降魔の呪力をもつものともされる。
執筆者:飯島 吉晴
ギリシア神話のキュクロプスは西洋の一つ目の典型で,火と鍛冶の神ヘファイストス(ローマのウルカヌス)に職人として仕えた。彼らの荒々しい性質は,洞窟に住み人を食うという理性や法に従わぬ怪物として具体化されるが,同時にこれは火を中心とする自然の創造力と破壊力との象徴と考えられる。大プリニウスは彼らを実在の種族とみなし,人身御供を習慣としたことを《博物誌》7巻に述べている。また同書にはアリマスピArimaspiなる種族が挙げられ,グリフォンの守る地中の黄金を盗み掘る単眼族と説明されている。このように鍛冶,人食い,人身御供,地下の富などと関係づけられた一つ目は,神に仕える者として聖別された不具者や,冥界に通じる条件として目をつぶした巫女など,本来は片目であった人々の伝説化とも考えられる。超自然力や叡智の持主を片目の神とする例では,北欧神話のオーディンがある。この神は嵐を象徴する荒ぶる精霊たちの頭目ともいわれ,叡智を秘めたルーン文字を得る代償に片目をミーミルの泉に置き去る。
一方,一つ目をあくまで単眼とする見解もあり,太陽の形を模したものとも,また動物の目玉模様や蛇の目と関連づける人々がいる。たとえばR.カイヨアは目玉模様にめまいを起こさせる効果があると主張しており,この視点によればキュクロプスの原義が〈円い眼〉であることの意味がやや明確になる。なおヒトや動物には単眼奇形が存在し,文字どおりの一つ目が古代人に知られていた可能性は高い。
→片目
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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