岡井隆(読み)おかいたかし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「岡井隆」の意味・わかりやすい解説

岡井隆
おかいたかし
(1928―2020)

歌人。名古屋市生まれ、慶応義塾大学医学部卒業。1946年(昭和21)『アララギ』入会、1951年近藤芳美(よしみ)らと『未来』を創刊塚本邦雄(くにお)らと前衛短歌運動の旗手となり、現実を鋭く見つめた思想表現の叙情化に努めた。歌集『土地よ、痛みを負え』(1961)が、その初期の代表作。『鵞卵亭(がらんてい)』(1975)から、短歌がもつ韻律の美しさを生かし、のびやかに現代人の内面を抉(えぐ)るようになる。さらに『神の仕事場』(1994)あたりから、文語に口語文体を調和させるなどして、表現そのものを楽しむような、柔軟な作風を繰り広げる。終始その定型詩の可能性を模索し、試行を続けてきた存在として、新しい世代に与えた影響は大きい。歌集『斉唱』(1956)、『臓器(オルガン)』(2000)、評論集『韻律とモチーフ』(1977)、回想録『前衛短歌運動の渦中で』(1998)など。

[篠 弘]

 原子炉の火ともしごろを魔女ひとり膝に抑えてたのしむわれ

『『岡井隆コレクション』全8巻(1994~1996・思潮社)』『『前衛短歌運動の渦中で――一歌人の回想』(1998・ながらみ書房)』『『臓器(オルガン)』(2000・砂子屋書房)』『『吉本隆明をよむ日』(2002・思潮社)』『『岡井隆全歌集』全4巻(2006・思潮社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「岡井隆」の意味・わかりやすい解説

岡井隆
おかいたかし

[生]1928.1.5. 愛知,名古屋
[没]2020.7.10. 東京,武蔵野
歌人,詩人,文芸評論家。医師として働きながら第2次世界大戦後の前衛短歌をリードし,安保改定問題をめぐっては政治と文学の問題を受け止めた実験的な歌を数多く発表し,歌壇新風を吹き込んだ。父母はともに歌誌『アララギ』を発行する短歌結社アララギの会員。17歳で作歌を始め,1946年アララギに参加。慶應義塾大学医学部在学中の 1951年,近藤芳美らとともに歌誌『未来』を創刊。卒業後の 1956年,北里研究所付属病院に勤務しながら第一歌集『斉唱』を発表。その後,作風を変えて塚本邦雄,寺山修司らとともに前衛短歌運動を展開した。1970年代の一時期歌壇を離れるも,のちに復帰し,国立豊橋病院に勤務しながら歌集『鵞卵亭(がらんてい)』(1975),『禁忌と好色』(1982,迢空賞)などを発表。退職後の1989年には『親和力』(1989)を発表し,斎藤茂吉短歌文学賞を受賞した。社会派歌人として活動したが,1993年に宮中の歌会始選者,2007年宮内庁御用掛となったことで論争が起こった。その他の作品に『岡井隆全歌集』(2007。藤村記念歴程賞),『注解する者』(2010。高見順賞),詩集,評論など多数。1996年紫綬褒章受章。2009年日本芸術院会員,2016年文化功労者選定。また死没日をもって従四位叙位,旭日中綬章追贈。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「岡井隆」の解説

岡井隆 おかい-たかし

1928- 昭和後期-平成時代の歌人。
昭和3年1月5日生まれ。昭和21年「アララギ」に入会。26年近藤芳美らと「未来」を創刊。30年ごろより塚本邦雄らと前衛短歌運動をおこし,歌集「斉唱」で注目をあびる。58年「禁忌と好色」で迢空(ちょうくう)賞。平成7年現代短歌大賞。12年「ヴォツェック/海と陸」ほかで毎日芸術賞。17年「馴鹿(トナカイ)時代今か来向かふ」で読売文学賞。内科医としてながく病院につとめ,平成元年京都精華大教授。19年皇室の和歌指導をおこなう宮内庁御用掛となる。同年歴程賞。21年芸術院会員。22年「注解する者」で高見順賞。23年「X(イクス)―述懐スル私」で短歌新聞社賞。愛知県出身。慶大卒。

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百科事典マイペディア 「岡井隆」の意味・わかりやすい解説

岡井隆【おかいたかし】

歌人,評論家,医学博士。名古屋市生れ。慶応大学医学部卒。土屋文明に師事。1951年,近藤芳美を中心とする《未来》創刊に参加。1960年代には,塚本邦雄らとともに前衛短歌運動の中心的存在とされた。1962年《土地よ痛みを負え》,1978年《海底》,1983年《禁忌と好色》(迢空賞),1990年《親和力》(斎藤茂吉短歌文学賞)などの歌集があるほか,斎藤茂吉などに関する評論も数多い。《岡井隆全歌集》全2巻。

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