歌人。滋賀県生まれ。神崎商業学校卒業。『水葬物語』(1952)、『装飾楽句(カデンツア)』(1956)、『日本人霊歌』(1958。現代歌人協会賞受賞)、『緑色研究』(1965)、『感幻楽』(1969)を経て、『約翰伝偽書(ヨハネでんぎしょ)』(2001)に至る24冊の歌集を刊行。喩(ゆ)とイメージを武器として危機時代の人間の魂を呼び覚ます高度に美学的な手法を完成。とくに第17歌集『波瀾(はらん)』(1989)以後、顕著になった戦争の記憶の作品化は、20世紀「遺書文学」の傑作として注目された。
国体につひに考へ及びたる時凍蝶(いててふ)ががばと起てり 『黄金律』
たとえばこの『黄金律』(1991)の「凍蝶」は、シベリアに抑留されて絶命した兵士のイメージを連想させるが、天皇の名を耳にしたとたん、彼らが「がば」と起(た)ちあがる幻想によって、死者をも支配する「国体」観念の恐ろしさにメスを入れることができた。思想的背景に、ヨーロッパ前衛芸術への理解と、キリスト教への関心があった。「現代の定家」を自負する作者の鬼才は、小説、評論、映画、シャンソンの領域にも及び、絢爛(けんらん)たる文体とともに、余人の追随を許さぬ独自の美学的世界を確立した。1990年(平成2)紫綬褒章(しじゅほうしょう)受章。
[菱川善夫]
馬を洗はば馬のたましひ冴(さ)ゆるまで人恋はば人あやむるこころ
『『塚本邦雄湊合歌集』(1982・文芸春秋)』▽『『波瀾 歌集』(1989・花曜社)』▽『『黄金律 歌集』(1991・花曜社)』▽『『塚本邦雄全集』全15巻・別巻1(1998~2001・ゆまに書房)』▽『『約翰伝偽書 歌集』(2001・短歌研究社)』▽『『日本人霊歌 歌集』(短歌新聞社文庫)』▽『岡井隆著『辺境よりの註訳――塚本邦雄ノート』(1973・人文書院)』▽『塚本邦雄・寺山修司対談集『火と水の対話』(1977・新書館)』▽『安森敏隆著『幻想の視覚――斎藤茂吉と塚本邦雄』(1989・双文社出版)』
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