ある地質時代に、ある地域で噴出あるいは貫入し、共通のマグマに由来すると考えられる一群の火成岩は、化学組成や鉱物組成が多様ななかにも共通の特徴があって、他の時代や他の地域のものと区別される。このように共通の特徴をもつ一群の火成岩は、一つの岩石区をなすという。20世紀初頭、イギリスのハーカーは、太平洋地域の新生代火成岩は大西洋地域のものに比べて、ナトリウムNa2Oに富み、後者はカリウムK2Oに富む傾向があるとし、それぞれが岩石区をなすと考えた。一方、アメリカのボーエンは、いろいろな岩石区が生ずるのは、玄武岩質マグマの結晶分化作用によっていろいろな岩石が生成するときに、条件が少しずつ異なるためであろうと論じた。しかし、イギリスの地質調査所の技師たちは、スコットランドの新生代火成岩には二つのグループ、つまり二つの岩石区があり、それらは互いに異なった本源マグマから生ずることを明らかにした。一つはソレアイト質マグマの結晶分化作用によって生ずるもので、他はアルカリ橄欖石玄武岩マグマ(かんらんせきげんぶがんまぐま)から生ずるものである。前者は後者に比べてシリカSiO2にやや富み、アルカリに乏しい。結局、岩石区は、もともと玄武岩質本源マグマにいくつかの種類があり、それぞれが結晶分化していろいろな火成岩ができると、それらの間に共通な特徴がみられるようになる、というのが最近の考えである。
[橋本光男]
地球上の火成岩の化学組成は多様である。特定の地域と時代に限って,そこに産出する火成岩群をみたとき,岩石名としては多種であっても,他とは異なる共通の化学組成上の特徴をもつことがある。この場合に他の地域や時代の火成岩群とは見分けがつくので一つの岩石区という概念で一括して扱う。ジャッドJ.W.Juddが定義した(1886)。一つの岩石区の火成岩のうち,その成因までも関係のありそうなものは,火成岩アソシエーションと呼ぶ。岩石区の地域の広がりや時代の長さは,場合によってまちまちである。例えば現存する地球上の海洋プレートの表面は,ほとんどソレイアイト玄武岩でできているという共通の特徴があり,面積で全地球の70%,年代で2億年にわたる大きな岩石区になる。また伊豆箱根地域の第四紀火山岩は,島弧の火山岩のなかでも特にアルカリが少ない,言い換えるとソレイアイト系列の岩石が多いという特徴をもつ狭い岩石区である。
執筆者:宇井 忠英
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