晶出分化作用ともいう。化学組成の均一なマグマから化学組成の異なる種々の火成岩が生ずることをマグマの分化と呼ぶ。特に,結晶作用によって,もとのマグマとは異なる化学組成の岩石が生ずることを結晶分化作用という。マグマの分化は温度の降下に伴う結晶作用によって生ずるという考えは,20世紀初頭からイギリスのハーカーA.Harkerなどによって唱えられていたが,特に,ケイ酸塩溶融体の実験的研究にもとづいてアメリカのボーエンN.L.Bowenが強く主張した1920年ころから,火成岩成因論の主流となり現在に至っている。なお,ハーカーやボーエン以前には,マグマの分化は,マグマが液体である間に起こると考える研究者が多く,ソレーSoretの効果,液体不混和,ガスによる運搬,マグマの混合,マグマの混染などが分化をひき起こす原因であろうと考えられていた。このうちソレーの効果とは,マグマの中で部分によって温度が異なる場合,マグマの中で物質の拡散移動が起こり,マグマの組成が部分によって異なるようになることである。液体不混和とは,高温では均質な液体であるマグマが,温度降下に伴って,水と油のようにたがいに混合しない2種類の液相に分離し,それぞれの組成をもった火成岩をつくることである。
マグマは多成分系に属する複雑な化学組成のケイ酸塩溶融体である。温度の降下につれて,しだいに結晶作用が進行する。早い時期に結晶した鉱物が重力の作用などでマグマの中を沈降してマグマ溜りの底部に集積すれば,その底部にはもとのマグマとは異なる,より塩基性の化学組成をもつ岩石ができあがる。早期に結晶した鉱物を取り除かれた残りのマグマの化学組成は,もとのマグマの化学組成にくらべてより酸性になっていく。この場合,マグマから晶出した結晶がマグマと化学反応を起こすと,その反応の程度や時期によって,結晶の組成もマグマの組成もいろいろに変化する。これを分別結晶作用fractional crystallizationと呼んでいる。ボーエンは,マグマというものは結晶作用の際に結晶と液との間に種々の反応関係を示す反応系であると考え,晶出する結晶と残液との間に種々の程度に分別が起こり,そのために反応の進行の程度に違いを生じ,このことがマグマの分化作用の最も本質的に重要な原因であると主張して,これを反応原理と呼んだ。
地殻を構成する多種多様の火成岩は一つの本源マグマから結晶分化作用によって生じたものであるというボーエンの主張をもう少し具体的に述べることにしよう。玄武岩質の本源マグマが地下の深所でゆるやかに冷却すれば,カンラン石,輝石,Caに富む斜長石などが結晶し,それらはしだいにマグマ溜りの下部に沈降し集積する。そのためにマグマ溜りの上部の残液は,しだいにSi,Na,Kなどに富んでいく。すなわち,マグマの残液の組成は,安山岩質になり,さらに流紋岩質になる。こうして玄武岩-安山岩-デイサイト-流紋岩という火山岩の多様性が生ずる。また同じマグマが深成岩となれば,斑レイ岩-セン緑岩-花コウセン緑岩-花コウ岩という系列を生ずる。本源マグマから結晶したCaに富む斜長石は,後に残液と反応し,しだいに組成が連続的に変化してNaに富むようになる。このように,鉱物の組成が連続的に変化するものを連続反応系列をなすという。また本源マグマから結晶したカンラン石は,後に残液と反応して輝石になることもある。輝石は角セン石に,角セン石は雲母になることもある。このように不連続的に鉱物の種類が変化してくるものを不連続反応系列をなすという。そして最後に正長石と石英が,残液から晶出する。いったん結晶した鉱物と残液との間の反応は,十分に行われる場合とそうでない場合とがある。十分に行われない場合には,早期に結晶した鉱物が,そのまま末期まで残ることもある。反応が十分に行われるか否かによって,マグマの組成の変化する方向が異なり,このようにして多様な岩石を生ずる。ボーエンはこのように主張したのである。
地球表層部で観察するかぎり,火山岩では玄武岩が最も大量に産出し,デイサイトや流紋岩の産出は少ない。このためボーエンの主張は火山岩については成り立つものと考えられていた。1939年ウェージャーL.R.WagerとディアW.A.Deerの2人は東部グリーンランドのスケアガード層状貫入岩体のマグマの分化を研究し,ボーエンの学説とはかなり異なる結果を発表した。すなわち本源マグマに結晶分化作用が起こると,マグマはMgOに乏しくなりFeOやFe2O3に富んでくるが,Na2OやK2Oはなかなか増加せず,SiO2もかえって減少する。本源マグマの95%が固結してしまうまでこの傾向は続き,最後の5%が固結する間に,残液は急激に酸性になってくる。このように結晶分化作用による火成岩の進化は,玄武岩-安山岩-デイサイト-流紋岩という系列とは異なった道筋を通るのではないかと考えられるようになった。このため,結晶分化作用だけでなく,マグマの同化作用,異種のマグマの混和,液体不混和などを主張する研究者が出てきている。さらに,深成岩では火山岩とは逆に,斑レイ岩やセン緑岩の産出が少なく,花コウセン緑岩や花コウ岩が大量に産出する。このためボーエンの主張は深成岩については成り立たないかもしれないと考える研究者も多い。
地球上の火成岩は主としてその化学組成によって,アルカリ岩系列,ソレアイト系列,およびカルクアルカリ岩系列に区別される。ボーエンはこれらの系列も,ただ一種の玄武岩質本源マグマの結晶分化作用によってできると考えていた。それらの各系列の中での化学組成の変化は,マグマの結晶作用のときの分別結晶作用によって説明できる場合が多いが,これらの系列の間の差は,分別結晶作用では説明することはむずかしいと現在考えられている。むしろ,各系列のマグマが発生するときの条件の差を考える必要があろう。
現在では,本源マグマは一つではなく,いくつかの本源マグマが存在すると考えられている。カンラン石玄武岩マグマと呼ばれる本源マグマからはアルカリ岩の系列(玄武岩-粗面安山岩-粗面岩-アルカリ流紋岩)が生じ,ソレアイト質マグマと呼ばれる本源マグマからはソレアイト系列の岩石とカルクアルカリ岩の系列(玄武岩-安山岩-デイサイト-流紋岩)とが生ずる。そのほか1960年に久野久(1910-69)は本源マグマとして高アルミナ玄武岩マグマを提唱し,これから高アルミナ玄武岩系列の火山岩が生ずると主張した。その後,中央海嶺から噴き出し大洋底全体に広がる深海性ソレアイトabyssal tholeiitoがエンゲルA.E.J.Engelらによって発見され,通常のソレアイトにくらべてK2Oに乏しいことも明らかにされた。深海性ソレアイトは地球上に最も大量に出現する火山岩である。
これら複数個の本源マグマは地殻深部および上部マントルにおいて部分溶融の過程で生ずるが,それぞれの本源マグマを生ずる深さ(圧力)が異なり,また揮発性成分の有無と種類によっても,生ずる本源マグマの性状が異なる。たとえば20~30kbar程度の圧力の下で,無水条件下ではアルカリ玄武岩質の本源マグマを生じ,CO2の分圧が高いと強アルカリ質の本源マグマを生じ,過剰のH2Oがある場合にはソレアイト質の本源マグマを生ずる。
執筆者:諏訪 兼位
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
マグマの冷却過程では必ず結晶作用が起こる.最初に晶出する結晶は結晶作用が起こるときの条件によって異なるが,一般に,マグマの成分とは違った結晶が晶出する.したがって,マグマから結晶成分が取り去られることになる.このような過程で起こる分化作用を結晶分化作用という.すなわち,結晶がマグマ中に均一に浮遊していれば,できた岩石の組成はマグマと同一となる.しかし,一般には結晶はマグマより比重が大きく,長い時間にはマグマの下部に沈降する.したがって,マグマの下部では沈降した結晶に富む岩石が生じ,上部ではその逆となる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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