左袒(読み)サタン

デジタル大辞泉 「左袒」の意味・読み・例文・類語

さ‐たん【左×袒】

[名](スル)《「袒」は衣を脱いで肩をあらわにする意で、中国、前漢の功臣周勃しゅうぼつ呂氏りょしの乱鎮定しようとした際、呂氏に味方する者は右袒せよ、劉氏りゅうしに味方する者は左袒せよ、と軍中に申し渡したところ全軍が左袒したという「史記」呂后本紀の故事から》味方すること。
「何としても上方の者に―する気にならぬ」〈福沢福翁自伝
[補説]「左担」と書くのは誤り。

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精選版 日本国語大辞典 「左袒」の意味・読み・例文・類語

さ‐たん【左袒】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 「袒」は着物をはだぬぎにする意 ) 左の肩をはだぬぎにすること。
    1. [初出の実例]「為言者左袒、為行者右袒、則吾不已而左袒焉耳」(出典:業鏡台(1394‐1428頃)送在先上人帰尾之松山序)
    2. [その他の文献]〔儀礼‐士喪礼〕
  3. ( 中国、前漢の功臣周勃(しゅうぼつ)が呂氏(りょし)を討とうとした時、呂氏につく者は右袒せよ、劉氏(りゅうし)につく者は左袒せよといったところ、軍中すべて左袒したという「史記‐呂后本紀」の故事から ) 味方すること。同意して肩をもつこと。賛成すること。
    1. [初出の実例]「吾未必左袒河汾永康、竊服其忠厚云」(出典:童子問(1707)中)
    2. 「所謂七子輩を初めすべて李王に左袒(さタン)せしほどの人」(出典:授業編(1783)六)

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故事成語を知る辞典 「左袒」の解説

左袒

味方することや、賛成することのたとえ。

[使用例] 人たる者は常に同位同等の趣意を忘るべからず。〈略〉右は百姓町人に左袒して思うさまに勢を張れと云う議論なれども[福沢諭吉学問のすすめ|1872~76]

[由来] 「史記りょこう紀」に描かれたエピソードから。紀元前二世紀、前漢王朝を樹立したりゅうほう死後皇后の呂氏の一族実権を握り、天下を奪おうとしました。劉氏を守ろうと考えたしゅうぼつは、呂后が亡くなったのをきっかけに、巧みに軍隊の指揮権を掌握。兵士たちに向かって、「呂氏の為にする者は右袒せよ、劉氏の為にする者は左袒せよ(呂氏に味方する者は右の肩を肌脱ぎにせよ、劉氏に味方する者は左の肩を肌脱ぎにせよ)」と呼びかけたところ、全員が左袒しました。彼らの活躍によって呂氏の一族は滅ぼされ、前漢王朝は無事に存続することになったのでした。

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普及版 字通 「左袒」の読み・字形・画数・意味

【左袒】さたん

左の片はだを脱ぐ。また、同意する。〔史記、文帝紀〕夫(そ)れ呂太后の嚴を以て、呂を立てて三王と爲し、擅(せんけん)專制す。然れども太尉、一(王の偽節)を以て北軍に入り、一呼して士皆左袒し、劉氏を爲(たす)け呂にき、卒(つひ)に以て之れを滅ぼす。

字通「左」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「左袒」の意味・わかりやすい解説

左袒
さたん

左の肩を肌脱ぎにすること、転じて、賛意を表すことや味方になることをいう。袒は着物を肌脱ぎにする意。中国、漢の高祖劉邦(りゅうほう)の死後、后(きさき)の諸呂(しょりょ)が権力をほしいままにし、その一族を王として漢の天下を奪おうとしたため、太尉周勃(しゅうぼつ)が丞相(じょうしょう)陳平と謀って、軍に「呂氏のためにする者は右袒せよ、劉氏のためにする者は左袒せよ」と令したところ、全軍左袒したと伝える、『史記』「呂后紀」の故事による。左袒、右袒に特別の根拠はなく、右袒を賛意の表現とした例もある。

[田所義行]

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世界大百科事典(旧版)内の左袒の言及

【肩】より

…ここで左肩をはだけるのは悲しみの姿態である。一方,中国では左肩を脱ぐことを袒(たん)または左袒といい,吉事にも凶事にも行ったが,前漢の将軍周勃が呂氏一族の乱を鎮めようとしたとき,軍中に令して呂氏のためにする者は右袒し,劉氏のためにする者は左袒せよと言ったところ,全軍皆左袒した(《十八史略》)ことから,それは味方することを意味するようになった。また,謝罪のため右肩をあらわにすることを肉袒という。…

※「左袒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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