デジタル大辞泉
「左」の意味・読み・例文・類語
ひだり【左】
1 東に向いたとき北にあたる方。大部分の人が、食事のとき茶碗を持つ側。左方。「四つ角を―に曲がる」⇔右。
2 左方の手。ひだりて。「―が入って四つに組む」⇔右。
3 右手より左手の利くこと。左利き。「―の代打」⇔右。
4 野球の左翼。レフト。「―越えホーマーを打った」⇔右。
5 急進的な思想傾向があること。フランス革命後の議会で、急進派が議長席から見て左側に議席を持ったことから出た語。左翼。「―に傾いた思想」⇔右。
6 酒を好んで飲むこと。また、その人。左党。左利き。
7 歌合わせ・絵合わせなどで、左側の組。⇔右。
8 官職を左右に分けたときの左方。日本では通常、右より上位とした。「―の大臣」⇔右。
[類語]左手・左側・左方・レフト・左・左翼・左翼手
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
ひだり【左】
- 〘 名詞 〙
- ① 正面を南に向けたときの東側にあたる側。人体を座標軸にしていう。人体では心臓の通常ある側。また、東西に二分した時の東方。
- [初出の実例]「汝(いまし)は右より廻り逢へ、我は左(ひだり)より廻り逢はむ」(出典:古事記(712)上)
- ② 令制で、官職を左右対称に区分した時の左方。通常日本では右より上位とした。
- [初出の実例]「例の左あながちに勝ちぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)匂宮)
- ③ 歌合せなど、左右に分かれてする勝負事で、左方。
- [初出の実例]「ひだりはらむといふ言二つありみぎはやまざくらといふことまく」(出典:延喜十三年亭子院歌合(913))
- ④ 舞楽の分類で左楽をさしていう。唐楽。
- [初出の実例]「左の楽屋にまかりてうけ給はりしぞかし」(出典:大鏡(12C前)六)
- ⑤ ( 古代中国では左より右を尊いものとしたところから ) 不正なこと、左道(さとう)をさしていう。〔名語記(1275)〕
- ⑥ からだの中央から左側にある手足や器官。
- [初出の実例]「こんどは、ひだりをもって七はいおまいれ」(出典:虎明本狂言・鱸庖丁(室町末‐近世初))
- ⑦ 「ひだりきき(左利)①」の略。
- [初出の実例]「今様宗旦流と云ものは、必左にするとも云、〈略〉宗旦が左なる故に、勝手にまかせたるを、見とりにしたるあやまり也」(出典:随筆・槐記‐享保一一年(1726)正月二八日)
- ⑧ ( 大工や石工などが左手は「鑿(のみ)を持つ手」であるところから「飲み手」にかけた語という ) 酒。また、酒を好んで飲むこと。酒好き。左党。左利き。
- [初出の実例]「右で取り左は底のぬけ財布」(出典:雑俳・雲鼓評万句合‐寛延三(1750))
- ⑨ 急進的、革命的な思想傾向があること。また、その人。左翼。
- [初出の実例]「ジード、フェルナンデス等の左への転向のことは、すでに読者諸君も承知の筈である」(出典:いはゆる行動主義の迷妄(1935)〈大森義太郎〉)
- ⑩ 「ひだりまえ(左前)」の略。
さ【左】
- 〘 名詞 〙
- ① ひだり。ひだりの方向。
- ② ( 縦書きの文章では、次のことが左側にあるところから ) 次に述べるような、文章や事項。
- [初出の実例]「Sa(サ)ニ モウシアゲソウロウ シナ」(出典:和英語林集成(初版)(1867))
ひだん【左】
- 〘 名詞 〙 「ひだり(左)」の変化した語。
- [初出の実例]「歌合あり、ひたむのかたむだに参る」(出典:類従本治暦四年庚申禖子内親王歌合(1068))
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
普及版 字通
「左」の読み・字形・画数・意味
左
常用漢字 5画
(異体字)
2画
[字音] サ
[字訓] ひだり・たすける
[説文解字]
[金文]
[字形] 会意
(さ)+工。は左の初文、手の象形。工は巫祝のもつ呪具。右は(さい)、すなわち祝を収める器をもつ形。左右は神を尋ね、その祐助を求めるときの行動を示す。ゆえに(尋)は左右を重ねた形。左右は援助を意味する語となる。〔説文〕五上に「手相ひ左助するなり」とし、会意とするが、左と右との字形の関係について説くところがない。
[訓義]
1. ひだり、左に呪具の工をもつ、ひだりの方、ひだりする、ひだりの手。
2. たすける、左に呪具をもち助けを求める。のち佐を用いる。
3. 右に対して下、右尊左卑の観念からさげる、くだる、おとる、うとんずる、しりぞける、いやしい。
4. もとる、たがう、あやしい、よこしま。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕左 ヒダリ・ホトリ・タスク/左右 トニカクニ・タスケ・タスク 〔立〕左 タスク・ヒダリ・イヤメツラ・ホトリ・ヒウカシ・トサマ・コカタ 〔字鏡集〕・左 ニシ・ヒダリノテ・ホトリ・タスク・トサケ(マ)・ヒダリ
[部首]
〔説文〕に差をこの部に属し、〔玉〕も同じ。金文の差は禾に左あるいは右を加える形で、黍稷を神に薦める意。それで「差(すす)む」とよむ。
[声系]
〔説文〕に左声としてを収め、隋系の字はその省形に従う。隋は聖所に肉を盛りあげるようにして供える意。左に従うのは差める意とみてよい。
[語系]
・左・佐tzaiは同声。贊(賛)tzanはその声近く、やはり賛(たす)ける意がある。古くは佐助の意に用いた。
[熟語]
左掖▶・左腋▶・左个▶・左介▶・左廻▶・左階▶・左▶・左学▶・左宦▶・左揆▶・左拒▶・左▶・左魚▶・左御▶・左馭▶・左脅▶・左近▶・左愚▶・左軍▶・左契▶・左計▶・左脛▶・左傾▶・左倪▶・左挈▶・左▶・左賢▶・左験▶・左言▶・左顧▶・左股▶・左語▶・左江▶・左行▶・左閤▶・左闔▶・左降▶・左坐▶・左錯▶・左驂▶・左史▶・左使▶・左耳▶・左字▶・左車▶・左手▶・左塾▶・左書▶・左序▶・左除▶・左証▶・左相▶・左神▶・左衽▶・左袵▶・左精▶・左遷▶・左扇▶・左旋▶・左賤▶・左還▶・左▶・左側▶・左尊▶・左帯▶・左隊▶・左袒▶・左端▶・左黜▶・左提▶・左程▶・左転▶・左纛▶・左道▶・左胖▶・左盤▶・左臂▶・左▶・左髀▶・左符▶・左▶・左文▶・左辺▶・左眄▶・左輔▶・左旁▶・左榜▶・左右▶・左▶・左翼▶・左隣▶・左肋▶
[下接語]
海左・関左・貴左・虚左・空左・験左・江左・曠左・車左・尚左・章左・証左・譲左・席左・誕左・道左・符左・門左・閭左・嶺左
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
左
ひだり
インド・ヨーロッパ語では、一般に右にあたることばは強、吉、正という意味を含み、左にあたることばは弱、不吉、邪という意味も含んでいる。たとえば英語、ドイツ語、フランス語も、右を表す語はすべて強、正、善を意味するし、左をさす語は弱、邪、悪につながる。ラテン語のdexterも右という意味のほかに強とか幸運を意味し、左をさすsinisterは不吉をも意味する。これは不吉を意味する英語のsinisterやフランス語のsinistreの語源でもある。古代ギリシア語のδεξιςは右および幸運を意味し、ριζτερςやενυμοςおよびσκαιςは左とともに不吉も意味する。また右と左は象徴的に男性と女性に関連しており、そして尚右の思想は古代ギリシアに一貫してみられる。
右を尊ぶ観念は、ギリシアに限らず、世界中に広くみられる。インドネシアにおいては一般に食事をするときは右手を用い、排泄(はいせつ)など不浄な目的には左手を使う習慣がある。イスラム教の及んでいないインドネシア諸族にも同様な観念がある。たとえばバリ島においても右手を尊び、左手を不浄視する習慣がある。バリ島民は、呪術(じゅじゅつ)を「右の呪術」と「左の呪術」とに分け、「右の呪術」は病気治療のための呪術であり、「左の呪術」は人を病気にするための呪術であり、右を善、左を悪としている。
この種の研究を体系的に行った最初の学者はエルツである。彼は1909年の論文「右手の優越――宗教的両極性の研究」で、ポリネシアのマオリ、インドネシアのダヤクなどの民族の資料に基づき、人が右利きになるのは、生理的原因によるよりも社会的習慣によることを力説した。いっそう新しい調査資料を世界各地に求めて尚右の観念を二元的象徴体系との関連で推し進めたのはニーダムである。
尚右の観念はアフリカの南スーダンの牧畜民ヌエル(ヌアー)にもあり、バントゥー系のニョロにも、左右の象徴的対立がみられる。王の右手は現れているが、左手は肩から手首まで隠している。ところが女はこれと逆に右手を隠し、左手を現している。ニョロの社会で子供が誕生すると、父親は、子供が男の子の場合は戸口の右側に、女の子の場合は戸口の左側に穴を掘り、えな(後産)を埋める。右が男に、左が女に象徴的に結び付いていることが明らかである。ケニアの農耕民メルは、右手を尊ぶが、最高祭司は儀礼の際に左手を用い、この左手は神聖視されている。さらに、インドネシアのボルネオのンガジュ・ダヤクの社会では呪師は女装する。宗教的職能者が象徴的に左や女性に関連することは世界各地にみられる。
古代日本では「左」はだいじなものとされ、尚右の思想はなかったといわれる。大野晋(すすむ)の説では、「ひだり」の語源は「日の出の方(ヒダリ)」にあり、これは南を前面にした場合、東が左にあたるからではないかとする。ところが、現在とらえられる日本各地の俗信には、尚右の観念、左を嫌い、あるいは左が呪力をもつとする観念がみられる。たとえば、「左巻き」「左前」など悪い意味に用いられ、左縄とは、普通とは逆に左へ撚(よ)って綯(な)った縄のことで、不運を意味するとともに、魔物の撃退に用いられることもある。
[吉田禎吾]
『R・エルツ著、吉田禎吾・内藤莞爾・板橋作美訳『右手の優越』(1980・垣内出版)』▽『松永和人著『左手のシンボリズム』(1995・九州大学出版会)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
左 さ
?-? 鎌倉-南北朝時代の刀工。
実阿の子。筑前(ちくぜん)(福岡県)の人。左文字派の祖。相州正宗の門にはいったとつたえられる。左文字または大左(おおさ)と称され,正宗十哲のひとり。太刀「江雪左文字」が国宝指定。名は安吉。通称は左衛門三郎。法名は源慶。
出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内の左の言及
【象徴】より
…一般的に言って,象徴は,精神を一つの課題に直面させ,探究的な思惟へと向かわせ,さらに思考をいわゆる一義的な記号の閉じた回路から解き放つと同時に,精神をある全体的なものに向かわせる働きをもつといえよう。 たとえば右手と左手。右手と左手の機能差は単なる生理的な事実でしかない。…
【右と左】より
…右あるいは左を絶対的に定義することは不可能である。一般には例えば右を〈北を向いたとき東にあたる方〉とか〈東を向いたとき南にあたる方〉と定義するが,東を定義するのに〈北に向かって右〉とかいうふうに右,左を使わねばならないから,これは一種のトートロジーである。…
※「左」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」