日本大百科全書(ニッポニカ) 「市民意識」の意味・わかりやすい解説
市民意識
しみんいしき
市民意識の原型は中世の西欧の都市共同体において市民がもっていた特徴的な意識や態度にみいだされる。すなわち、それは、個人が主体的、合理的な態度をもち、権利と義務を自覚し、自治と連帯を志向して、その生活を脅かす者には抵抗し闘う姿勢をとる、というものである。この市民意識は都市共同体が解体し、近代社会が成立したあとでも、都市共同体が近代社会に拡大する形で継承された。西欧の近代社会の精神的な骨格はこの市民意識によって形成されたといってよい。しかし、日本では歴史上、都市共同体に匹敵するものはついに形成されず、したがって市民意識もやはり育たなかった。日本人の市民意識の欠如が指摘され、同時に市民意識が一種の理念にされたりしたのは、そのためである。ところが、1960年代の中ごろから多様な市民運動や住民運動が展開し、その展開のなかから、西欧の市民意識に類似する社会意識が台頭するようになった。そこで、初めて、日本人の市民意識が具体的に問題にされるようになったのである。それは、主体的な参加意識と生活権、環境権、自治権といった権利意識を核とし、職業や性別、年齢を超えた連帯意識に支えられ、市民自治や住民自治といった自治意識を軸にするものとしてとらえられる。
なお、市民意識は市民感情や市民気質と同義に用いられたり、ときには都市的パーソナリティーないし都会人の社会的性格と混同されたりすることがあるから注意を要する。
[高橋勇悦]
『奥田道大著『都市コミュニティの理論』(1983・東京大学出版会)』