環境権(読み)かんきょうけん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

環境権
かんきょうけん

日照,清浄な大気と水,静穏など良好な環境を享受しうる権利公害や過密といった巨大企業や巨大都市化の影響で,環境破壊が進むなかで形成されつつある権利であり,公害反対運動やこれに触発された法令のなかに認めることができる。その法的根拠は,憲法 25条の生存権,同 13条の幸福追求の権利などに求められるが,概念内容は,新しく提唱されたものだけに,十分明確なものとはいいがたい。そのためいまだに最高裁判所はこの権利を承認してはいない。しかし政治的要求として,また司法的救済において,環境権の主張は説得力をもちはじめている。

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デジタル大辞泉の解説

かんきょう‐けん〔クワンキヤウ‐〕【環境権】

国民が、大気・水・日照・静穏などの自然環境や文化的環境を享受することができるという権利。国土開発による環境破壊に対抗するために提唱されている新しい権利。

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百科事典マイペディアの解説

環境権【かんきょうけん】

すべての人々がその共通の財産として,自然的・社会的・文化的環境を享受し,かつこれを支配しうる権利。その法的根拠は日本国憲法第13条,25条に求められている。日本では1970年3月に開かれた〈公害問題国際シンポジウム〉の〈東京宣言〉の中で,環境権を〈人たるもの誰もが,健康や福祉を侵す要因にわざわいされない環境を享受する権利と,将来の世代へ現代が残すべき遺産であるところの自然美を含めた自然的資源にあずかる権利〉として位置づけ,これを基本的人権の一種として法体系の中に確立するよう主張したのが,この権利についての議論の本格的なはじまりとなった。しかし判例では環境権を認めたものは1件もない。
→関連項目憲法改正論幸福追求権生存権

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世界大百科事典 第2版の解説

かんきょうけん【環境権】

環境権は,〈市民がよい環境を享受する権利a human right to a decent and healthy environment〉であるとして主張されてきている。各地で公害問題が深刻化しつつあった1970年前後に登場した概念である。アメリカでは,そのころから環境権の概念が著書や論文の中に登場しはじめ,そのコモン・ロー上ならびに憲法上の根拠について論議がなされるようになった。 その後72年にストックホルムで開催された国連人間環境会議は〈人間環境宣言〉を採択したが,その中の〈原則〉第1項では,〈人は,尊厳と福祉を保つに足る環境で,自由,平等および十分な生活水準を享受する基本的権利を有するとともに,現在および将来の世代のため環境を保護し改善する厳粛な責任を負う〉とし,環境に関する権利と責任とをうたった。

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大辞林 第三版の解説

かんきょうけん【環境権】

よい環境を享受する一定の法的利益。公害防止・環境保全を図る立場から主張される。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

環境権
かんきょうけん

きれいな空気・水、騒音のない静かな環境を享受する権利。広くは自然環境のほかに道路・公園・文化施設などの社会的環境、さらには歴史的文化財などの文化的環境を求める権利として構成する立場もある。公害防止のために既存の法理論が有効に機能しないことを反省し、健全な環境を守るための法的武器たることを意図して提唱された。
 こうした考え方は、まず1969年(昭和44)に制定された東京都公害防止条例の前文に現れている。すなわち、「すべて都民は、健康で安全かつ快適な生活を営む権利を有するのであって、この権利は、公害によってみだりに侵されてはならない」というのである。その翌年3月に東京で開催された公害に関する国際シンポジウムは、環境権の確立を要請して次のように宣言した。「とりわけ重要なのは、人たるものだれもが、健康や福祉を侵す要因に災いされない環境を享受する権利と、現在の世代が将来の世代へ残すべき遺産である自然美を含めた自然資源にあずかる権利とを、基本的人権の一種としてもつという原則を、法体系のなかに確立するよう、われわれが要請することである」。
 さらに、同年9月新潟で開催された日本弁護士連合会人権擁護大会で、大阪弁護士会の2人の弁護士が環境権という新しい権利を初めて提唱し、広く注目を浴びた。その主張によると、環境権は、国や地方公共団体に対してよい環境を確保することを求めることができる生存権的基本権であるとともに、強大な企業から社会的弱者である公害の被害者を守るための権利である点で社会的基本権である。その根拠は日本国憲法第13条(幸福追求権)および第25条(生存権)である。また同時に、環境権は、環境という対象を直接に支配し、その侵害があれば、これを排除できる私権である。この主張は、環境権を単なる宣言的・プログラム的な権利ではなく、裁判の場で実際に機能する権利として構成するところに特色がある。
 環境権理論は公害に悩む住民団体に広く受け入れられ、伊達(だて)(北海道)環境権訴訟、豊前(ぶぜん)(福岡県)環境権訴訟、大阪空港公害差止訴訟、長浜町(愛媛県大洲市)入浜(いりはま)権訴訟、長良(ながら)川(岐阜県)河口堰(せき)差止訴訟などの根拠として主張された。
 しかし、人間活動はつねに環境になんらかの影響を与えるものであるから、こうした絶対的な差止めを認めようとする理論によれば、原則として人間活動は禁止されることになりかねない。人間社会ではつねに利害の適正な衡量が必要なのであって、この理論は硬直的にすぎたとみられる。結局、これは、裁判所の採用するところとはなっていない。判例では、「環境権なる権利は、実定法上その規定がなく、権利の主体、客体及び内容が不明確であるから、私法上の権利として認めることはできない」とするものが多い。
 しかし、環境権の主張はむだだったわけではない。従来の理論も環境の価値を重視する方向へとかなり方向転換し、裁判例でも環境権的発想を取り入れたものは少なくない。なお、入浜権は環境権の一分枝ないし発展形態であるが、裁判上承認されるには至っていない。1993年(平成5)に制定された環境基本法3条は、「現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢(けいたく)を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように」適切に環境保全がなされなければならないと規定するものの、環境権を認めるには至っていない。地方公共団体の条例(環境基本条例)では環境権を認めているものが多いが、その法的性質は単なる宣言的なもので、民事訴訟の差止めの根拠となるようなものではない。[阿部泰隆]
『大阪弁護士会環境権研究会編『環境権』(1973・日本評論社) ▽淡路剛久著『環境権の法理と裁判』(1980・有斐閣) ▽阿部泰隆、淡路剛久編『環境法・第2版』(1998・有斐閣)』

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世界大百科事典内の環境権の言及

【眺望権】より

…眺望,景観を享受することができる権利。今日,権利としての確立が強く主張されている環境権の一種である。環境保護を目ざす運動の一環として,眺望阻害,景観破壊を阻止するために,その権利性が提唱されるに至った。…

※「環境権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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