布衣(読み)ホイ

デジタル大辞泉 「布衣」の意味・読み・例文・類語

ほ‐い【布衣】

庶民着用の衣服。また、官服に対して、平服。転じて、平民のこと。
流石さすが淮西わいせいの一―より起って」〈露伴運命
狩衣かりぎぬのこと。初め布製、平安時代以後は狩衣一般、特に無文の狩衣をさした。また、それを着る六位以下の身分の者。
江戸時代、武士の大紋に次ぐ4番目の礼服。また、それを着る御目見おめみえ以上の身分の者。

ふ‐い【布衣】

《昔、中国で、庶民はの衣を着たところから》官位のない人。庶民。→ほい(布衣)

ぬの‐きぬ【布衣】

《「ぬのぎぬ」とも》植物繊維で織った布で作った衣服。
「荒たへの―をだに着せかてにかくや嘆かむせむすべをなみ」〈・九〇一〉

ほう‐い【布衣】

ほい(布衣)」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「布衣」の意味・読み・例文・類語

ほ‐い【布衣】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 庶民着用の布製の衣服。ふい。また、それを着ている者。その身分。また、朝服に対して、常着。平服。ほうい
    1. [初出の実例]「其弟浄人、自布衣、八年中至従二位大納言」(出典:続日本紀‐宝亀三年(772)四月丁巳)
    2. 「元則しばしほいになりて、その装束この学生にとらせよ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)祭の使)
  3. 布製の狩衣。転じて一般に、狩衣の異称。ほうい。
    1. [初出の実例]「此間吉野国栖三人奏風俗〈〈略〉二人布衣烏帽其礼甚専輙也〉」(出典:九暦‐九条殿記・五月節・天慶七年(944)五月五日)
  4. 江戸時代、大紋につぐ武家の礼服。絹地無文で裏のない狩衣。また、それを着用した、御目見得以上の者。また、その身分。
    1. 布衣<b>③</b>〈南紀徳川史〉
      布衣南紀徳川史
    2. [初出の実例]「六月十一日に布衣の侍に召加らる」(出典:随筆・折たく柴の記(1716頃)中)

ふ‐い【布衣】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 庶人の服。昔、中国で、庶人は老人以外はすべて、麻または葛(くず)繊維で織った布の服を着たという。転じて、官位のない人。庶人。匹夫(ひっぷ)。ふえ。
    1. [初出の実例]「布衣(フイ)より天下取り給ふ程の大功を遂げ給ひき」(出典:仮名草子浮世物語(1665頃)三)
    2. [その他の文献]〔呂氏春秋‐孝行覧・首時〕
  3. ほい(布衣)

ほう‐い【布衣】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ほい(布衣)伊呂波字類抄鎌倉)〕
  3. ほい(布衣)
    1. [初出の実例]「后の宮には、冠にてこそ 常は人々候ふを、これはほういになされてなむ侍し」(出典:今鏡(1170)四)

ぬの‐きぬ【布衣】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ぬのぎぬ」とも ) 布で作った衣服。
    1. [初出の実例]「あらたへの布衣(ぬのきぬ)をだに着せかてにかくや嘆かむせむすべをなみ」(出典:万葉集(8C後)五・九〇一)

ぬの‐ごろも【布衣】

  1. 〘 名詞 〙 布で作った衣類。ぬのきぬ。
    1. [初出の実例]「布ごろもきたる小ほふしして、誰ともしらせでとらせ侍りける」(出典:後拾遺和歌集(1086)春上・一二四・詞書)

ふ‐え【布衣】

  1. 〘 名詞 〙ふい(布衣)〔いろは字(1559)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「布衣」の意味・わかりやすい解説

布衣 (ほうい)

〈ほい〉ともいう。公家では狩衣(かりぎぬ)の別称で,たとえば上皇が禅位後はじめて狩衣を着る儀式布衣始(ほういはじめ)という。布衣という称呼は,狩衣が正式の服ではなく,身分の低いものの服装から生まれた野外用の略装であったからであろう。もともと〈布衣〉は古い漢語で,庶民の着る麻などの服を意味し,さらに無官の人を指すこともある。〈布衣〉より起こって天下を統一した人物として漢の高祖,明の洪武帝がよくあげられる。日本の武家の間でも布衣という語は用いられているが,この場合は身分の低い青侍の着る麻布製のものを称している。また転じて身分の低いもののことをいい,この場合は〈ふい〉とよむ。室町時代にこれを着て将軍の剣を持つ役を布衣の役(ほいのやく)といった。なお江戸時代には,織模様のある高級なものを狩衣といい,無地の狩衣は,地質は絹でもこれを布衣と称した。
狩衣
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「布衣」の意味・わかりやすい解説

布衣(ほい)
ほい

公家(くげ)衣服の一種。狩衣(かりぎぬ)のこと。狩衣は遊猟のときに着る上着で、元来、布(麻布)製であったため布衣とよばれた。盤領(あげくび)、身一幅(ひとの)の脇(わき)あけ形式、袖(そで)口に括(くく)りの緒を通し、軽便な上着として日常にも使われた。『西宮記(さいぐうき)』に「布衣太上天皇己下随便服用(ほいだじょうてんのういかべんにしたがいふくよう)」とある。平安時代中期以降、五位以上の人が絹の紋織物で製した狩衣を、六位以下の人が布製のほか、無文の絹でつくられたものを用い、後者をことに布衣と称するようになった。六位以下の人は無文の狩衣である布衣を着たため、その身分の人を布衣といった。『うつほ物語』(祭使)に「しばし布衣になりて、その装束この学生にとらせよ」とある。鎌倉幕府においては、将軍が出行の日、随行の大名は布衣を着用し、警衛の武士は直垂(ひたたれ)であったが、その後、両者の格の上下が変わり、江戸幕府では、正装として将軍以下諸大名の四位以上が直垂、狩衣を従(じゅ)四位以下の諸太夫、布衣を無位無官で御目見(おめみえ)以上の者とされた。

[高田倭男]


布衣(ほうい)
ほうい

布衣

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普及版 字通 「布衣」の読み・字形・画数・意味

【布衣】ふいほい

布製の服。匹夫。〔史記、高祖紀〕高之れを罵(まんば)して曰く、吾(われ)布衣を以て、三尺の劍を提げて天下を取る。此れ天命に非ずや。命は乃ち天に在り。鵲(へんじやく)と雖も何ぞあらんと。

字通「布」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「布衣」の意味・わかりやすい解説

布衣
ほうい

狩衣 (かりぎぬ) の別称。ほいともいう。狩衣は元来,麻の布でつくられたから布衣と称したが,次第に綾,紗,織物でも仕立てられるようになっても,旧称のまますべて布衣といわれるようになった。特に江戸時代では,五位以上の者が着用する有文 (文様のある) を狩衣,六位以下 (地下) の者,また江戸では御目見以上の者の無文を布衣といった。

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百科事典マイペディア 「布衣」の意味・わかりやすい解説

布衣【ほい】

〈ほうい〉とも読む。狩衣(かりぎぬ)の別称。江戸時代には有文のものを狩衣と称したのに対し,6位以下の者が着用する無文の狩衣を布衣と呼び,転じて6位の者の異称ともされた。

布衣【ほうい】

布衣(ほい)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「布衣」の解説

布衣
ほい

狩衣(かりぎぬ)

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世界大百科事典(旧版)内の布衣の言及

【布衣】より

…〈ほい〉ともいう。公家では狩衣(かりぎぬ)の別称で,たとえば上皇が禅位後はじめて狩衣を着る儀式を布衣始(ほういはじめ)という。布衣という称呼は,狩衣が正式の服ではなく,身分の低いものの服装から生まれた野外用の略装であったからであろう。…

【布衣】より

…〈ほい〉ともいう。公家では狩衣(かりぎぬ)の別称で,たとえば上皇が禅位後はじめて狩衣を着る儀式を布衣始(ほういはじめ)という。布衣という称呼は,狩衣が正式の服ではなく,身分の低いものの服装から生まれた野外用の略装であったからであろう。…

【狩衣】より

…その下にはく裾くくりの袴もともに上質でゆるやかなものとなり,ここに猟衣でありながら平生衣にも用いられる衣が成立し,その時期は,10世紀ころからではないかと推定される。したがって狩衣は,のちのちまで本来布製の粗服であったなごりをとどめ,布衣(ほうい)という別称をもっていた。 こうして狩衣は初め常服としての性格がつよく,公家では若公達や,遠方の旅行などに用いられる程度で軽装であったが,平安時代末から鎌倉時代になると,地質・文様もますます華麗となり,一方には新興武士階級がこれを正装としたため,ますますその位置を高めることとなった。…

※「布衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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