座屈(読み)ザクツ(英語表記)buckling

デジタル大辞泉 「座屈」の意味・読み・例文・類語

ざ‐くつ【座屈】

[名](スル)長い棒や柱などが縦方向に圧縮荷重を受けたときに、ある限度を超えると横方向に曲がる現象

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「座屈」の意味・わかりやすい解説

座屈
ざくつ
buckling

建築などの部材圧力が加えられたときに、限度を超えると急激に変形増大する現象。建物の柱は、上部の重さ(圧縮力)を支えている。比較的細長い柱が、ある限度以上の圧縮力を受けると、急にたわみ(変形)が増加し、いわゆる、はらみ出し(面が押し出されてふくれること)が生じる。この現象を座屈という(分岐座屈、図A)。座屈現象の特徴は、座屈点を境に変形の型が変化することと、柱では座屈の瞬間に上部の重さを支える能力が急激に低下することである。柱や梁(はり)の構面に耐震要素としてブレース筋かい)を用いる例も多いが、これにも同様な現象が生じる。柱やブレースの座屈のしやすさは、断面の形と長さ(細長比(ほそながひ))に依存する。細長いものほど座屈は生じやすい。柱の座屈のほかに板の座屈がある。折り曲げた板(折板(せっぱん))の頂部に力を加えると、ある限度の力で折板の頂点が逆側に移る(飛移り座屈、図B)。このときは、逆側に反り返るときに破損がなければ、それ以後も力の増加に耐えられる。最後の例は、缶をつぶすときに生じる座屈である。薄いアルミ板でつくられた缶は、ある限度を超えた圧縮力で、くびれが生じ急激につぶれる(屈服座屈、図C)。貯油タンクなどの大規模構造物にもこの座屈現象が生じ、「象の足」とよばれる局所的変形が生じる。この現象の生じやすさは、板の厚さと形状(幅厚比(はばあつひ))に依存する。

 構造物において、これらの座屈現象は急激な耐力低下や変形の増大を伴うことが多いので、設計上周到な考慮を必要とする。

[小堀鐸二・金山弘雄]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「座屈」の意味・わかりやすい解説

座屈 (ざくつ)
buckling

材料に加わる応力が材料本来の強度に達する以前に材料が大きく変形する現象。もっとも一般的なのはまっすぐな細長い棒状の材料(このような形態のものを長柱という)を軸方向に圧縮していく場合の座屈で,最初は圧縮に抵抗しているが,圧縮力を増していくと,突然横方向に大きく曲がり出す。これは初めのうちは長柱内部には単純な圧縮応力とひずみが生じてつり合いを保っていたのが,圧縮がある値(座屈荷重)に達すると,このつり合い状態が崩れるために起こるもので,長柱の変形とともに曲げモーメントが発生し,座屈による変形をさらに助長してついには破壊に至る。

 座屈は,長柱の長さと断面二次半径との比およびヤング率が小さいほど起こりやすい。ただし,長柱の両端の支持状態によって大きく異なり,両端を回転可能なピン状態にした場合の座屈荷重は,固定端の場合の数分の1になってしまう。座屈現象は,このような長柱だけでなく細長い断面のはりに曲げモーメントが働くときや薄い板の面内に圧縮力やせん断力が作用した場合にも生じ,建築,車両船舶,航空機など長柱・薄板構造を使用する場合の座屈問題はとくに重要である。

 なお,長柱の座屈に関してはL.オイラーの理論があり,断面の応力度が比例限度内にある場合の座屈荷重を与えるオイラーの長柱式が導かれている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「座屈」の意味・わかりやすい解説

座屈
ざくつ
buckling

細長くまっすぐな棒の両端を押すと,力が小さいうちは単純な圧縮応力とひずみを生じて釣合っているが,圧縮力がある値に達すると,釣合いは急に不安定となり,棒は曲って耐荷力は急激に低下する。この現象を座屈という。座屈には筋かいの軸圧縮をはじめとし,細長い断面の梁の曲げ,薄肉管の軸圧縮やねじり,薄板から成る構造物の局部変形などがある。座屈による破壊事故の例が多いので橋梁,車両,船舶,航空機などの設計において重要である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「座屈」の意味・わかりやすい解説

座屈【ざくつ】

軸方向に圧力を受ける柱や板等に軸方向に圧力を加える場合,その力が次第に増大していくと,ある荷重(座屈荷重という)で急に湾曲を起こし折れることがある。この現象をいう。断面積に比し長い柱ほど起こしやすい。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の座屈の言及

【構造力学】より

…第3は軸方向力と曲げ変形との相関で,理論的には第2の原因の特別の場合であるが,実際問題としてはきわめて重要である。軸方向圧縮力が大きくなると,部材の変形様式がそれ以前とは急激に変化する座屈(曲げ座屈)と呼ばれる現象が発生するが,線形解析では軸方向力による曲げ変形の増減を無視している。線形性を仮定するのは,構造解析を連立一次方程式によって行うことができ,また解の重ね合せが可能になるという実用上きわめて大きな利点が生ずるためで,非線形挙動を扱う構造力学では,反復計算による逐次近似法を用いるか,あるいは微小増分について線形性を仮定する増分解析法を用いて解析を行う。…

※「座屈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android