公共事業などの財源とするために発行される公債。理論的には、支出を経常的経費と臨時的経費に区分し、後者のみに一定の条件下で公債発行を認めるという、ドイツの財政学者A・ワーグナーの公債論に由来する。実際の制度としては、ワイマール憲法(1919年制定)第87条による、公債発行の対象を事業目的の経費に限定するというものが原型である。日本では、1947年(昭和22)施行の財政法(昭和22年法律第34号)第4条において公債不発行が原則とされているが、同条の但書によって、公共事業費、出資金および貸付金の財源調達については、例外として発行が認められている。財政法第4条は、当時のスウェーデンやノルウェーにあった、予算を経常収支と資本収支に分け、後者のみに公債発行を認めるという仕組みを参考に策定された。
日本の建設公債の原則は、公債の原則不発行をうたっていることからも明らかなように、健全性の確保を意図している。公債発行を完全に禁じてしまうと国民経済に支障を及ぼすおそれがある一方、公共事業などであれば資産として残り、将来の財政力を直接あるいは間接的に増す可能性が高いことから、例外として建設公債の発行が認められている。1948年には地方財政法(昭和23年法律第109号)第5条において、地方債にも建設公債の原則が定められた。財政法が各年度の予算総則に公共事業費の範囲をゆだねているのに対し、地方財政法第5条は適債事業を明示する形式となっている。なお、建設公債のうち、財政法により発行されるものは「建設国債」、おもに地方財政法により発行されるものは「建設地方債」とよばれる(建設地方債は債券発行だけでなく借用証書による借入れも含む)。
他国をみると、イギリスではブレア政権などにおいて、景気循環を通じて公債発行を投資支出の金額の範囲内に限定する、ゴールデン・ルールとよばれるものがあった(1998~2009)。また、ドイツでは1969年から2009年に廃止されるまで、公債発行の上限を投資支出の総額とする建設公債の原則があった。しかし2024年時点では、建設公債の原則を適用している主要国は日本以外に見当たらない。ただし、日本では赤字公債の発行が恒常的となっており、建設公債の原則の形骸(けいがい)化が進んでいる。
[浅羽隆史 2024年12月16日]
『浅羽隆史著『建設公債の原則と財政赤字――厳格な発行ルールと巨額財政赤字』(2013・丸善プラネット)』
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…〈赤字〉とは経常収入が歳出をまかなうのに不足する状況であるから,公債(国債)はすべて赤字公債(赤字国債)といってよい。しかし,日本では,公債を赤字公債と建設公債とに分け,赤字公債に独特の意味をもたせている。それは,第2次大戦下の苦い経験から,国家財政の基本法である財政法(1947公布)において,公債発行を原則として禁止し,財政法4条1項で,例外的に公共事業,出資金および貸付金の財源として国会の議決を経た金額の範囲内で公債(これが建設公債であり,〈4条公債〉ともいわれる)を発行したり借入金をなすことができる,としている制度に由来する。…
…公債依存度は,1966年度の14.9%から70年度4.2%の水準まで低下したが,71年度12.4%となり,石油危機,それに続く不況から75年度以降急激に高まり,25%を上回る水準を続けたが,80年代に入ると税の自然増収の結果,減少傾向となり,95年度は17.7%である。公債には,日本の財政法もいうように,公共事業などの財源として発行される公債すなわち建設公債と,その限度を上回る公債すなわち赤字公債がある。建設公債には,政府資本形成を現世代と将来世代の負担の公平を図りながら実施するという積極的な役割もあるが,赤字公債には,深刻な不況に対処して財政消費をふやすという短期的な意義しかない。…
…すなわち財政法4条は,〈公共事業費,出資金及び貸付金の財源については,国会の議決を経た金額の範囲内で,公債を発行しまたは借入金をなすことができる〉こととしている。この場合の公債は建設公債といわれている。なお公共事業費の範囲については,毎会計年度,国会の議決を経なければならないとされており,予算総則にその範囲が明記されている。…
※「建設公債」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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