強皮症(読み)キョウヒショウ(英語表記)Scleroderma

デジタル大辞泉 「強皮症」の意味・読み・例文・類語

きょうひ‐しょう〔キヤウヒシヤウ|キヨウヒシヤウ〕【強皮症/×鞏皮症】

全身性硬化症

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家庭医学館 「強皮症」の解説

きょうひしょうぜんしんせいこうかしょう【強皮症(全身性硬化症) Scleroderma (Systemic Sclerosis)】

◎女性に多くみられる
[どんな病気か]
 強皮症は、皮膚が厚く、かたくなる(皮膚硬化(ひふこうか)と呼びます)のをおもな症状とする病気です。皮膚の硬化は、両手指や顔から始まり、体幹(たいかん)へと広がります。
 病変は皮膚ばかりでなく、関節、腱(けん)、食道などの消化管、肺、心臓、腎臓(じんぞう)と、ほとんどの内臓におよび、いろいろな程度で障害をおこします。
 これらの障害に共通するのは、免疫の異常をともなった線維症(せんいしょう)と血管病変です。
 線維症とは、傷が治ったあとにできる、ひきつれた盛り上がり(瘢痕(はんこん))のようなもので、組織に線維が増加するものです。こうした組織の変化が、皮膚、肺、消化管にもおこり、臓器がかたくなっていきます。
 これが血管に生じると、血管の内側が細くなり、血液の流れが悪くなります。これに炎症が加わって、複雑な病態となります。
 皮膚硬化は軽くなることもありますが、内臓の病変は徐々に進み、死に至ることもあります。
 この病気は治療法が確立していないので、厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))の1つに指定され、治療費の自己負担分の大部分は公費から補助されます。
[原因]
 原因は不明ですが、同じ家族内に2人以上の患者さんが出ることはきわめてまれなため、遺伝的な因子が発病に関係している可能性は少ないと考えられています。
 発病にかかわる環境因子としては、粉塵(ふんじん)(珪肺(けいはい)(「珪肺(症)」))、豊胸術(ほうきょうじゅつ)に使われる注入物、化学薬品(塩化ビニール、ブレオマイシン剤)があります。
 ほとんどの患者さんに、自分の組織を異物とする自己抗体(じここうたい)が検出され、自己免疫(じこめんえき)(免疫のしくみとはたらきの「自己免疫疾患とは」)があって、これが病因として関係していると考えられます。
 女性が男性と比べて6~7倍もかかりやすく、40~50歳代に発病します。しかし発病率は、人口10万人に6人と、ごくまれなものです。
レイノー現象ほか、多彩な症状
[症状]
 レイノー現象が共通してみられるほか、皮膚や内臓にさまざまの症状が現われます。
●レイノー現象
 レイノー現象は、ほとんどの患者さんにみられ、その60%はこの病気の初発症状です。
 これは、冬、寒気にさらされたり、冷たい水に手をつけたりすると、手指の先が白くなり、温めると紫色から赤色に変化する現象です。
 動脈が収縮するために、とくに手指の血液の循環が止まり、それを回復するために血液が流れておこります。しびれや痛みをともなうことがあります。
●皮膚症状
 皮膚の硬化が、もっとも重要な症状です。こわばり感として自覚され、手指が動かしにくく、むくんだ感じになります。皮膚が厚ぼったくなり、物をつまみにくくなります。
 皮膚硬化は手足に強く出て、左右対称にみられます。顔は突っ張って、仮面のようになります。皮膚の硬化がVネックから、前胸部(ぜんきょうぶ)、全身へと広がる患者さんもいます。
 一方、長い間、手指や手だけに硬化がとどまって、広がらないタイプもあります。これは、軽症型です。
 皮膚の色は、全体に黒くなります(色素沈着)。
 手指の先に痛みのある傷ができて、短縮してしまうこともあります。
●内臓の症状
 消化管、とくに食道、十二指腸(じゅうにしちょう)、小腸に線維症がおこります。60~70%の患者さんに、食道の機能障害が現われ、固形物を飲み込むときに、つかえた感じや、胸やけがおこります。腸の動きも悪くなり、腹部は全体に腫(は)れ、便秘(べんぴ)や下痢(げり)をくり返します。
 肺線維症もおこります。せきが続き、息切れがあります。進行すると呼吸不全になることがあります。
 心臓に線維症がおこると、不整脈(ふせいみゃく)や心不全(しんふぜん)になります。
 患者さん全体の5%に腎不全(じんふぜん)がおこり、悪性高血圧症(あくせいこうけつあつしょう)と尿毒症(にょうどくしょう)が急速に進み、生命にかかわります。
[検査と診断]
 皮膚硬化が手足に対称にみられ、顔が仮面のようになれば、それだけで診断ができる病気です。しかし、皮膚硬化が手指にかぎられている場合、内臓の病変(食道や肺線維症など)がおもな症状になっている場合には、見逃されることもあります。ただし、レイノー現象がみられれば、この病気が考えられます。
 検査では、血液中の抗核抗体(こうかくこうたい)(細胞の核に対する自己抗体)の検査が重要です。この抗体は、この病気の患者さんの90%以上でみられます。
 内臓病変の有無をみるには、消化管造影や内視鏡検査が行なわれます。
 肺については、胸部X線撮影やCT検査、肺機能検査が行なわれ、心臓の病変には、心電図や心エコー検査が行なわれます。
◎治療は対症療法、養生が第一
[治療]
 残念ながら、特効薬はありません。それぞれの症状に合わせた薬物療法が行なわれます。
 皮膚硬化や肺線維症に対しては、リウマチの治療薬であるD‐ペニシラミンが使われます。
 レイノー現象など、血管の病変に対しては、血管拡張薬が用いられます。
 関節炎に対しては、非ステロイド抗炎症薬が使われます。
 消化管の病変には、胃酸のはたらきを抑えるH2受容体拮抗薬(じゅようたいきっこうやく)や、胃粘膜保護剤(いねんまくほござい)、胃腸の活動をうながす蠕動促進薬(ぜんどうそくしんやく)などが用いられます。
[日常生活の注意]
 レイノー現象を予防するには、寒冷を避け、保温につとめます。冬場に外出する際には、厚い手袋やソックスを着用するのはもちろん、水仕事をするときにもゴム手袋などを着用するように心がけます。
 また、関節の動きをなめらかにするために、体操をしたり、入浴のときに手指をよく動かすといったこともたいせつです。
 たばこを吸う人は、禁煙も必要です。
 胸やけやげっぷがひどい場合は、就寝時に、上半身を20cmほど上げて寝ます。
 食事は、1回の量は少なめにし、ビタミンミネラルに富んだ消化のよいものを、4~5回に分けてとるようにしてください。

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六訂版 家庭医学大全科 「強皮症」の解説

強皮症
きょうひしょう
Scleroderma
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 強皮症は皮膚が硬くなることを主症状とする比較的まれな病気です。強皮症のなかには、硬化が皮膚の一部に限られる限局性強皮症と、皮膚だけでなく血管や内臓も同時に侵され、膠原病(こうげんびょう)に分類される全身性強皮症(または全身性硬化症)とがあります。一般に強皮症といえば、全身性強皮症を指します。

 全身性強皮症では皮膚の硬化だけでなく、末梢循環障害と自己抗体を高頻度に伴うことが特徴です。幼児からお年寄りまですべての年齢の男女にみられますが、とくに30~50代の女性に好発します。

原因は何か

 今のところ原因は特定されていませんが、生まれながらにもっている素因に加えて、ある種の環境要因が引き金になって起こると考えられています。ただし、遺伝病伝染病ではありません。環境要因として、有機溶媒や薬剤など特定の化学物質への曝露(ばくろ)、ウイルス感染などが推測されています。

症状の現れ方

 初発症状の多くはレイノー現象で、そのほかに関節痛、皮膚のつっぱり感やむくみ感で始まる場合もあります。レイノー現象とは寒冷刺激や精神的な緊張がきっかけで指先が白くなり、引き続いて紫、赤と色調が変化する現象で、循環障害を反映しています(図2B)。

 皮膚が硬くなると、皮膚をつまみづらい、日焼けしていないのに黒くなる(色素沈着)、手指の変形(屈曲拘縮(くっきょくこうしゅく))などの症状が出てきます(図2A)。

 皮膚の硬化は手指から手背、前腕と体の中心に向かってゆっくり広がっていきます。

検査と診断

 はっきりした皮膚の硬化が存在する場合の診断は容易です。ただし、軽症の例や発症して間もないと診断が難しい場合もあり、その際には診断基準(表3)が参考になります。皮膚硬化の進行の速さや程度、範囲はさまざまなことから、2つの病型に分類されています(表4)。

 診断や病型分類に際しては抗トポイソメラーゼI(Scl­70)抗体や抗セントロメア抗体などの自己抗体の血液検査が参考になります。

 全身性強皮症では表5に示すような多様な内臓病変を来し、これらの有無と重症度を検索するため、必要に応じてさまざまな検査が行われます。

治療の方法

 病型と内臓病変の程度によって、治療が必要かどうか、必要であればどのような治療を行うのかを決めます。また、治療法も、全身性強皮症の病気そのものの自然経過を変える疾患修飾(しゅうしょく)療法と、個々の臓器病変に対する対症療法に分けられます。

 疾患修飾療法が必要になる患者さん(主にびまん型)は半数以下で、決して多くありません。残念ながら現時点で疾患修飾療法としての有効性が証明された治療法はありませんが、副腎皮質ステロイド薬(プレドニン)、免疫抑制薬(エンドキサン)などが用いられます。

 対症療法薬としては循環障害に対する血管拡張薬やプロスタグランジン製剤、食道病変に対するプロトンポンプ阻害薬、肺高血圧に対するプロスタサイクリン製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬などがあります。

病気に気づいたらどうする

 レイノー現象や皮膚硬化など全身性強皮症と関連する症状があれば医療機関を受診し、診察を受けてください。診療科としては内科(リウマチや膠原病を扱っている科)あるいは皮膚科ですが、専門知識と経験をもつ医師であれば診療科にこだわる必要はありません。

 患者さんごとに症状は多様ですので、病状に応じた治療と日常生活の注意が必要になります。そのためには、定期的な医療機関への受診が不可欠です。

桑名 正隆


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「強皮症」の意味・わかりやすい解説

強皮症
きょうひしょう

皮膚が硬化する疾患で、汎発(はんぱつ)性と限局性に大別される。汎発性強皮症は進行性全身性硬化症progressive systemic sclerosis(PSS)ともよばれ、強皮症の総括名としても使われる。なお、皮膚筋炎(多発性筋炎)とともに膠原(こうげん)病に含まれ、原因不明で、特定疾患(難病)に指定されている。

[竹原和彦]

汎発性強皮症

限局性に対して全身性強皮症ともよばれ、皮膚ばかりでなく全身の諸臓器も冒されるものをいう。もっとも一般的な末端硬化型と比較的まれなびまん型がある。前者は末梢(まっしょう)血管が収縮するレイノー症状が著しく、四肢末端、顔面、上胸部から硬化がしだいに進行する。後者はレイノー症状がなくて躯幹(くかん)から硬化が始まり、四肢の硬化は比較的少ないが予後がきわめて悪い。なお、汎発性強皮症は皮膚以外の病変として、食道の蠕動(ぜんどう)消失や小腸の吸収不良などの消化器症状、肺線維症などの呼吸器症状、不整脈などの心症状、タンパク尿などの腎(じん)症状のほか、関節炎や筋力の低下などがみられる。

[竹原和彦]

限局性強皮症

限局した皮膚の硬化を主徴とするもので、硬化性病変はときに皮下組織や筋肉などにも及ぶ。女性、小児、若年者に多くみられる。通常、内臓病変や全身症状を欠き、汎発性強皮症とは区別される。限局性強皮症はその皮疹(ひしん)の形態、分布などから、斑(はん)状強皮症、線状強皮症、汎発型限局性強皮症などに分類される。とくに前頭部から前額部、顔面正中に線状にみられるものは、その皮疹の形態が刀で切られた創(きず)に似ているので、剣創(けんそう)状強皮症とよばれる。治療法としては、とくに確立されたものはなく難治性であるが、自然寛解するものもある。

[竹原和彦]

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百科事典マイペディア 「強皮症」の意味・わかりやすい解説

強皮症【きょうひしょう】

鞏皮症とも書く。結合組織の病変により皮膚の硬化をきたす疾患で,汎発性と限局性とに分けられる。汎発性のものは20〜40歳の女性に多く,関節,筋肉,消化管,肺,心臓,腎臓などにも障害が起こる。知覚異常,潮紅などの前駆症状の後,皮膚にむくみを生じ,やがて硬度を増して板状となり,細かいしわができ,毛髪脱落,汗分泌消失を伴う。重症の場合は開口困難となり,表情を失って仮面状となる。また,食道蠕動(ぜんどう)低下,逆流性食道炎,肺線維症,心不全,尿毒症などが起こることもある。原因はまだ不明で,膠原(こうげん)病の一つと考えられている。治療は甲状腺剤投与,ピロカルピン注射などの対症療法。限局性のものは,斑状となって胸部,四肢などに生じ,初め淡紅色,やがて硬化し,細かいしわを示し,褐色となる。また帯状に前額に生じることもある。
→関連項目ウェルナー症候群巨大結腸症難病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「強皮症」の意味・わかりやすい解説

強皮症
きょうひしょう
scleroderma; sclerodermia

結合組織の病変によって皮膚が硬化する疾患。汎発性と限局性に分けられる。 (1) 汎発性強皮症 進行性全身硬化症ともいう。膠原病の代表的なもの。 20~50歳の女子に多発する。レイノー現象 (→レイノー病 ) を伴うことが多い。四肢末梢,上胸部,上背部に対側性浮腫状腫脹が生じ,やがてこの部に皮膚硬化が生じる。四肢では中枢性に進行する。進行した皮膚硬化部では色素沈着,点状の色素脱失をみることが多い。指に虚血性小潰瘍や陥没性小瘢痕,手指関節や肘関節に強直性屈曲などがみられる。皮膚硬化は真皮および血管内膜下での膠原線維 (結合組織) の増殖,膨化 (肥厚等質化) による。この病変は内臓諸器官にも生じ,消化器,呼吸器,心臓,腎臓などに病変が認められる。検査所見では赤沈値促進,γ-グロブリン増加,RA反応陽性,抗核抗体陽性などがみられる。 (2) 限局性強皮症 皮膚の一部だけに硬化がみられる強皮症。臨床症状により線状強皮症,斑状強皮症などと呼ぶ。線状型は前頭部から頭頂部にかけて,または四肢に生じる。レイノー現象はない。

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改訂新版 世界大百科事典 「強皮症」の意味・わかりやすい解説

強皮症 (きょうひしょう)

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栄養・生化学辞典 「強皮症」の解説

強皮症

 皮膚硬化症ともいう.皮膚その他の炎症性線(繊)維性病変で,膠原病の一つの例.

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世界大百科事典(旧版)内の強皮症の言及

【膠原病】より

…1941年にクレンペラーP.Klempererが提唱した疾患。病理学的に結合組織にフィブリノイドfibrinoid変性がみられる疾患という定義がなされ,全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ皮膚筋炎または多発筋炎,強皮症(全身性進行性硬化症),結節性動脈周囲炎,リウマチ熱の6疾患が代表的な膠原病とされた。その後,病理学的にもフィブリノイド変性という概念がきわめてあいまいなものであり,膠原繊維にのみ変化がおこるものではないところから,結合織疾患connective tissue diseaseとよぶほうが正しいとされ,国際的にはそのようによばれることが多い。…

※「強皮症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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