強皮症は皮膚が硬くなることを主症状とする比較的まれな病気です。強皮症のなかには、硬化が皮膚の一部に限られる限局性強皮症と、皮膚だけでなく血管や内臓も同時に侵され、
全身性強皮症では皮膚の硬化だけでなく、末梢循環障害と自己抗体を高頻度に伴うことが特徴です。幼児からお年寄りまですべての年齢の男女にみられますが、とくに30~50代の女性に好発します。
今のところ原因は特定されていませんが、生まれながらにもっている素因に加えて、ある種の環境要因が引き金になって起こると考えられています。ただし、遺伝病や伝染病ではありません。環境要因として、有機溶媒や薬剤など特定の化学物質への
初発症状の多くはレイノー現象で、そのほかに関節痛、皮膚のつっぱり感やむくみ感で始まる場合もあります。レイノー現象とは寒冷刺激や精神的な緊張がきっかけで指先が白くなり、引き続いて紫、赤と色調が変化する現象で、循環障害を反映しています(図2B)。
皮膚が硬くなると、皮膚をつまみづらい、日焼けしていないのに黒くなる(色素沈着)、手指の変形(
皮膚の硬化は手指から手背、前腕と体の中心に向かってゆっくり広がっていきます。
はっきりした皮膚の硬化が存在する場合の診断は容易です。ただし、軽症の例や発症して間もないと診断が難しい場合もあり、その際には診断基準(表3)が参考になります。皮膚硬化の進行の速さや程度、範囲はさまざまなことから、2つの病型に分類されています(表4)。
診断や病型分類に際しては抗トポイソメラーゼI(Scl70)抗体や抗セントロメア抗体などの自己抗体の血液検査が参考になります。
全身性強皮症では表5に示すような多様な内臓病変を来し、これらの有無と重症度を検索するため、必要に応じてさまざまな検査が行われます。
病型と内臓病変の程度によって、治療が必要かどうか、必要であればどのような治療を行うのかを決めます。また、治療法も、全身性強皮症の病気そのものの自然経過を変える疾患
疾患修飾療法が必要になる患者さん(主にびまん型)は半数以下で、決して多くありません。残念ながら現時点で疾患修飾療法としての有効性が証明された治療法はありませんが、副腎皮質ステロイド薬(プレドニン)、免疫抑制薬(エンドキサン)などが用いられます。
対症療法薬としては循環障害に対する血管拡張薬やプロスタグランジン製剤、食道病変に対するプロトンポンプ阻害薬、肺高血圧に対するプロスタサイクリン製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬などがあります。
レイノー現象や皮膚硬化など全身性強皮症と関連する症状があれば医療機関を受診し、診察を受けてください。診療科としては内科(リウマチや膠原病を扱っている科)あるいは皮膚科ですが、専門知識と経験をもつ医師であれば診療科にこだわる必要はありません。
患者さんごとに症状は多様ですので、病状に応じた治療と日常生活の注意が必要になります。そのためには、定期的な医療機関への受診が不可欠です。
桑名 正隆
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
皮膚が硬化する疾患で、汎発(はんぱつ)性と限局性に大別される。汎発性強皮症は進行性全身性硬化症progressive systemic sclerosis(PSS)ともよばれ、強皮症の総括名としても使われる。なお、皮膚筋炎(多発性筋炎)とともに膠原(こうげん)病に含まれ、原因不明で、特定疾患(難病)に指定されている。
[竹原和彦]
限局性に対して全身性強皮症ともよばれ、皮膚ばかりでなく全身の諸臓器も冒されるものをいう。もっとも一般的な末端硬化型と比較的まれなびまん型がある。前者は末梢(まっしょう)血管が収縮するレイノー症状が著しく、四肢末端、顔面、上胸部から硬化がしだいに進行する。後者はレイノー症状がなくて躯幹(くかん)から硬化が始まり、四肢の硬化は比較的少ないが予後がきわめて悪い。なお、汎発性強皮症は皮膚以外の病変として、食道の蠕動(ぜんどう)消失や小腸の吸収不良などの消化器症状、肺線維症などの呼吸器症状、不整脈などの心症状、タンパク尿などの腎(じん)症状のほか、関節炎や筋力の低下などがみられる。
[竹原和彦]
限局した皮膚の硬化を主徴とするもので、硬化性病変はときに皮下組織や筋肉などにも及ぶ。女性、小児、若年者に多くみられる。通常、内臓病変や全身症状を欠き、汎発性強皮症とは区別される。限局性強皮症はその皮疹(ひしん)の形態、分布などから、斑(はん)状強皮症、線状強皮症、汎発型限局性強皮症などに分類される。とくに前頭部から前額部、顔面正中に線状にみられるものは、その皮疹の形態が刀で切られた創(きず)に似ているので、剣創(けんそう)状強皮症とよばれる。治療法としては、とくに確立されたものはなく難治性であるが、自然寛解するものもある。
[竹原和彦]
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…1941年にクレンペラーP.Klempererが提唱した疾患。病理学的に結合組織にフィブリノイドfibrinoid変性がみられる疾患という定義がなされ,全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ,皮膚筋炎または多発筋炎,強皮症(全身性進行性硬化症),結節性動脈周囲炎,リウマチ熱の6疾患が代表的な膠原病とされた。その後,病理学的にもフィブリノイド変性という概念がきわめてあいまいなものであり,膠原繊維にのみ変化がおこるものではないところから,結合織疾患connective tissue diseaseとよぶほうが正しいとされ,国際的にはそのようによばれることが多い。…
※「強皮症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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