巨大結腸症(読み)きょだいけっちょうしょう

六訂版 家庭医学大全科 「巨大結腸症」の解説

巨大結腸症
きょだいけっちょうしょう
Megacolon
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 腸は、食べ物や便、胃腸のなかに分泌された消化液を、肛門の方向へ運ぶ特殊な運動(蠕動(ぜんどう)運動など)を行っています。この運動は、脳の神経からの指令と、腸の壁にある腸自体の神経によってバランスよく調節されています。

 巨大結腸症とは、腸の壁にある神経(節)が機能せず、腸がうまく動くことができず、ぎゅっとしぼんだままになり、その口側の腸が張ってしまう病気です。一種腸閉塞(ちょうへいそく)で、先天性と後天性に分けられます。

 先天性巨大結腸症ヒルシュスプルング病)は、約5000回に1回の分娩で発生し、男児が女児の3倍多いとされています。ほとんど(80%)は、S状結腸より肛門側で神経の欠損がみられますが、まれに全部の大腸に及ぶこともあります。

原因は何か

 先天性の原因としては、いくつかの遺伝子情報の異常が深く関わっていることが明らかにされつつありますが、十分には解明されてはいません。

症状の現れ方

 多くは先天性で新生児期に発症します。胎便が出ず、おなかが張り、嘔吐を繰り返し、哺乳能力が弱い状態になります。

 気づかずに放置されれば、口から栄養がとれずに栄養障害を起こし、嘔吐で塩分が失われるため体内の塩分(電解質)バランスも崩れます。また、吐物を肺に吸い込んでしまうと重い肺炎になります。おなかが張るため呼吸がうまくできなくなり、死に至ることもあります。

 後天性で乳児期以降に発症する場合は、症状は軽度で、がんこな便秘やおなかの張りにとどまることがほとんどです。

検査と診断

 腹部単純X線検査では腸閉塞の像がみられます。精密検査としては、肛門から腸のなかに造影剤を入れてX線撮影をする注腸造影検査や、直腸の内圧を測定する検査を行います。直腸の組織を一部とって顕微鏡による検査(生検)を行うこともあります。

 巨大結腸症と区別する病気には、生まれながら肛門や腸が閉鎖している鎖肛(さこう)先天性腸管閉鎖症、腸が腸のなかにはまり込んでしまう腸重積などがあります。

治療の方法

 治療は専門的な手術となり、根治手術後の予後は良好ですが、将来的に肛門が機能しなくなって人工肛門になることもあります。

 また、根治手術はある程度の発育を待って行われるため、それまでの間は、点滴栄養、肛門拡張、浣腸などで状態を保つことになります。

病気に気づいたらどうする

 小児科を受診してください。手術は小児外科という特殊な診療科で行います。

杉山 貢

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内科学 第10版 「巨大結腸症」の解説

巨大結腸症(腸疾患)

概念
 巨大結腸症とは,機械的閉塞がないのに結腸が病的に拡張している状態を指す.急性と慢性に大きく分類される.
分類
1)急性巨大結腸症:
急性大腸偽性腸閉塞症(Ogilvie症候群)は,早急に適切な処置を行う必要があるので,臨床上,重要である.類似した病態として,中毒性巨大結腸症(toxic megacolon)があるが,対処法が異なるので注意を要する.
2)慢性巨大結腸症:
成人型Hirschsprung病と慢性偽性腸閉塞症がある.
病因
 急性大腸偽性腸閉塞症は,さまざまな原因により生じるが,腹部外科手術後に続発することが多い.(De Giorgioら,2009).中毒性巨大結腸症では,炎症性腸疾患や感染性腸炎の急性増悪に伴う腸管拡張に加えて,重篤な全身症状を伴う.慢性巨大結腸症であるHirschsprung病は消化管の神経節細胞が消失していることによるが,成人型では神経節細胞の消失領域が下部直腸に限局していることが多い. 慢性偽性腸閉塞は,消化管のうち小腸・大腸の蠕動障害が生じ腸閉塞症状を呈する.消化管蠕動障害の原因としては,原発性のもの,強皮症・アミロイドーシス・薬剤性・ミトコンドリア脳筋症・甲状腺機能低下症などに伴う続発性のものがある(詳細は【⇨8-5-16)-(2)】).
診断
 CT検査または腹部X検査により腸管が病的に拡張しているが,機械的閉塞部位がないことによる.中毒性巨大結腸症では,6 cm以上の腸管拡張が診断基準となっている.機械的閉塞がないことの確認はCT検査の丹念な読影により行われるが,慢性巨大結腸症では水溶性ヨウ素造影剤(ガストログラフィン)を用いた消化管造影検査や下部消化管内視鏡検査も有用である.Hirschsprung病の診断の詳細は【⇨8-5-1)】.
鑑別診断
 機械的閉塞による腸閉塞症との鑑別が最も重要である.
治療
 急性偽性巨大結腸症では,脱水の補正・ネオスチグミンの投与・内視鏡的減圧が有効とされるが,腸管穿孔に至れば致死率は50%をこえる(De Giorgioら,2004).中毒性巨大結腸症では,輸液・ステロイドの投与・抗菌薬の投与などにより強力な全身管理を行うが,悪化傾向がみられる場合には全結腸切除などの外科手術を行う.慢性偽性腸閉塞症のうち,成人型Hirschsprung病は外科的治療の適応である.それ以外の慢性偽性腸閉塞症に対しては腸管蠕動促進薬・緩下薬の投与により便通のコントロールを行い,乳酸菌製剤・抗菌薬の投与により腸内細菌の異常増殖を抑えるように試みる.しかし,難治性であることが多い.経腸的栄養療法が困難である場合には,中心静脈栄養を行う.外科的手術は無効である場合が多い(坂本ら, 2010).
禁忌
 中毒性巨大結腸症では,腸管内圧が上昇する大腸内視鏡検査および注腸造影検査は禁忌であり,注意を要する.[冨樫一智・遠藤俊吾]
■文献
De Giorgio R, Sarnelli G, et al: Advances in our understanding of pathology of chronic intestinal pseudo-obstruction. Gut, 53: 1549-1552, 2004.
坂本康成,稲森正彦,他:偽性腸閉塞.「どう診る?小腸疾患 診断と治療まで」pp176-180,診断と治療社,東京,2010.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「巨大結腸症」の意味・わかりやすい解説

巨大結腸症
きょだいけっちょうしょう

結腸が異常に拡張および肥厚した状態で、横行結腸、S状結腸や直腸に多くみられる。原因によって先天性と後天性に分けられる。

[安富正幸]

先天性巨大結腸症

ヒルシュスプルング病ともいわれ、S状結腸下部から直腸に至るアウエルバッハ神経叢(そう)(腸の蠕動(ぜんどう)運動を支配する壁内神経叢)の先天的欠損が原因である。欠損部の腸蠕動が消失するために腸内容が通過せず、口側の結腸が拡大して巨大結腸となる。乳幼児期より始まる排便困難、頑固な便秘、腹部の膨隆が主症状で、発育障害を伴うこともある。診断は注腸X線造影のほか、直腸・肛門内括約筋反射の消失や直腸生検によりアウエルバッハ神経叢の欠損を証明することである。治療は、軽症では下剤や浣腸(かんちょう)により排便を図るが、一般には外科手術が行われる。

[安富正幸]

後天性巨大結腸症

直腸や結腸の狭窄(きょうさく)、シャーガス病(中南米の寄生虫感染症)や潰瘍性大腸炎における中毒性巨大結腸症など、原因疾患の明らかなものをさす。治療は原因疾患の治療を行う。また、幼児期に高度の便秘のために巨大結腸を示すが、アウエルバッハ神経叢の異常はなく、特発性巨大結腸とよばれたものがある。しかし、今日では習慣性便秘によって貯留した糞便(ふんべん)による二次的な巨大結腸として、浣腸や下剤による排便促進で治療される。このほか甲状腺機能低下、パーキンソン病、糖尿病性神経障害、脊髄損傷(せきずいそんしょう)などによる腸機能低下による便秘でおこる巨大結腸症がある。薬物療法が主体であるが、まれには腸切除術や人工肛門が造設される。

 なお、ヒルシュスプルングH. Hirschsprung(1830―1916)はデンマークの医師、アウエルバッハL. Auerbach(1828―1896)はドイツの解剖学者、シャーガスC. Chagas(1879―1934)はブラジルの医師であり、ヒルシュスプルング病、アウエルバッハ神経叢、シャーガス病という名称は、それぞれ最初に記載した人物の名前がつけられた。

[安富正幸]

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百科事典マイペディア 「巨大結腸症」の意味・わかりやすい解説

巨大結腸症【きょだいけっちょうしょう】

大腸に異常な拡張部分があり,糞便がたまるため,頑固な便通困難が起こる疾患。先天性のものと後天性のものに分類され,先天性の巨大結腸症には,結腸の神経節欠損によって起こるヒルシュスプルング病などがある。後天性の場合,原因は炎症や腫瘍(しゅよう)による腸管の閉塞,平滑節障害(全身性エリテマトーデス進行性筋ジストロフィー症強皮症など),代謝異常(甲状腺機能低下,低カリウム血症など),神経系異常(脊髄損傷,パーキンソン病など)など様々であるが,下剤の乱用や精神的なストレスによることもある。治療は原因治療のほか,便秘の改善。

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家庭医学館 「巨大結腸症」の解説

きょだいけっちょうしょう【巨大結腸症】

 直腸(ちょくちょう)や結腸(けっちょう)(大腸(だいちょう))が異常に拡張し、その動きが悪くなって便秘になるものをいいます。直腸や結腸の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)や、手術後の癒着による便やガスの通過障害が原因である場合が多くみられます。
 生まれつき直腸がうまく運動せずに細くなり、直腸の手前の結腸が拡張してしまうヒルシュスプルング病という病気もあります。この病気になると、新生児期から頑固な便秘が始まり、腸閉塞(ちょうへいそく)に進展したりします。
 一方、通過障害や細い部分がないにもかかわらず巨大結腸になることもあります。これは慢性の頑固な便秘が長年続いている人や、精神安定剤を多量に長期間服用している人などにみられます。
 さらに、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)に中毒性巨大結腸症という重症の合併症をおこすことがあります。腹痛、腹部膨満、高熱が続き、緊急手術が必要な場合もあります。
 巨大結腸症の治療は、その原因によって、下剤だけですむ場合から手術が必要になる場合まで、さまざまです。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「巨大結腸症」の意味・わかりやすい解説

巨大結腸症
きょだいけっちょうしょう
megacolon

結腸が異常に拡張肥大する疾患で,先天性と後天性とがある。先天性巨大結腸症はヒルシュスプルング病ともいわれ,デンマークの外科医 H.ヒルシュスプルング (1830~1916) が 1888年に報告した。先天的な結腸神経叢の消失,減少によって,小児の大腸下部,ことにS状結腸部に高度の拡張をみるもので,頑固な便秘や腹部膨満を伴うことが多い。治療には下剤投与や浣腸,外科手術を行う。他の先天性奇形を合併することが多い。後天性巨大結腸症は,下部結腸,直腸,肛門などの狭窄で二次的に起るほか,内科的疾患や精神病,中毒など,種々の原因で生じる。

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改訂新版 世界大百科事典 「巨大結腸症」の意味・わかりやすい解説

巨大結腸症 (きょだいけっちょうしょう)

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世界大百科事典(旧版)内の巨大結腸症の言及

【ヒルシュスプルング病】より

…先天性巨大結腸症congenital megacolonともいう。便秘を主症状とする先天性の腸閉塞症で,1886年ヒルシュスプルングHarald Hirschsprung(1830‐1916)により初めて報告されたので,この名がある。…

※「巨大結腸症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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