暴行または脅迫を用いて他人の現金などを奪う罪。暴行、脅迫によって財産上不法の利益を得るなどしたときも強盗罪が適用される。判例により、強盗罪となる暴行、脅迫は被害者の抵抗を抑圧するに足りる程度のものとされている。窃盗の後に取り返されたり捕まったりしないように暴行、脅迫に及んだときは事後強盗罪、
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相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を手段として、他人から財物を奪取し、または、財産上の利益を得たり、他人に得させたりする罪(刑法236条)。刑は5年以上の有期懲役である。たとえば、ナイフやピストルで脅したり、手足を縛り付けるなどの方法によって、相手が反抗できないようにして、金品を奪ったり、債務を免れたりする場合が本罪にあたる。
強盗罪は、窃盗罪(同法235条)とともに第36章「窃盗及び強盗の罪」に規定されている。両罪は、被害者の意思に反して財物を奪取する点に共通性がある。ただ強盗罪は、窃盗罪と異なり、財物を奪取するにあたり相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を加える点において、人身犯的および攻撃犯的な性格をも有する。
強盗罪は、財産侵害の手段として暴行・脅迫を用いる点では、恐喝罪(同法249条)と類似するが、この暴行・脅迫が相手の反抗を抑圧する程度か否かにより両罪は区別される。恐喝罪では、相手に瑕疵(かし)のある意思(不本意な意思)を生じさせる手段として暴行・脅迫が用いられる。なお、暴行・脅迫が相手の反抗を抑圧する程度か否かは、凶器の有無、共犯者の存否、犯行の時間や場所、被害者の性別や年齢など諸般の事情を総合して客観的に判断される。したがって、客観的にみて通常人の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫が存在する以上、相手方が反抗を抑圧されるに至らなくても、強盗未遂罪(同法243条)を免れない。
現行刑法には、強盗罪として強盗の客体が財物か財産上の利益かにより、1項強盗罪(財物強盗罪)と2項強盗罪(利益強盗罪)との区別がある。このうち、2項強盗罪の例として、タクシーの乗客が運転手の首を絞め失神させて、タクシー代を免れるような事案がこれにあたる。
強盗罪に準じた犯罪類型(準強盗罪とよばれる)として事後強盗罪と昏酔(こんすい)強盗罪がある。事後強盗罪とは、窃盗犯人が財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、または、逮捕を免れるためや罪跡を隠滅するために、相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を加える罪である(同法238条)。ここに窃盗犯人とは、逮捕を免れる目的や罪跡を隠滅する目的の場合は窃盗が既遂か未遂かを問わないが、財物の取り返しを防ぐ目的の場合には既遂のほか占有を争っているような事案(未遂)も含まれる。次に、昏酔強盗罪とは、相手を暴行・脅迫以外の手段で昏酔させ財産を侵害する罪である(同法239条)。ここに「昏酔」させるとは、睡眠薬、薬物・毒物、催眠術などを用いて、相手の意識作用に一時的または継続的な障害を生じさせることをいう。強盗罪と準強盗罪は法定刑が同じである。ただ、被害者がすでに昏睡している状態を利用して財物を奪取する場合は、本罪ではなく窃盗罪に該当する。また、暴行・脅迫によって被害者を昏睡させる場合には、昏酔強盗罪ではなく、強盗罪にあたる。
強盗罪は重大犯罪であるところから、その未遂犯はもとより、強盗予備罪も処罰される(同法243条、237条)。また、強盗犯人が犯行の機会に人を死傷させたり、強制性交等を行う場合がしばしばみられるところから、強盗罪の加重類型として、強盗致死傷罪(同法240条)および強盗強制性交等罪・強盗強制性交等致死罪・強盗未遂強制性交等罪・強盗強制性交等未遂罪(同法241条)が設けられている。両条によれば、強盗致傷罪は無期または6年以上の懲役、強盗強制性交等罪は無期または7年以上の懲役に処せられるが、死に致らしめたときはいずれも死刑または無期懲役に処せられる。
なお、航空機の強取等(ハイジャック)に関しては、「航空機の強取等の処罰に関する法律(ハイジャック処罰法)」に規定がある。
[名和鐵郎 2018年1月19日]
暴行または脅迫をもって他人の財物を強取する罪。刑は5年以上の有期懲役(刑法236条1項。加重されない限り15年以下)。暴行,脅迫をもって財産上不法の利益を得,または第三者にこれを得させた者も,同様に強盗罪になる(同条2項)。暴行,脅迫は,いずれも相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものでなければならない。その程度にまで至らない軽度の脅迫を用いて財物を交付させたりするのは,恐喝罪であって,強盗罪ではない。暴行,脅迫は,財物の所有者,占有者に加えられる必要はないが,〈強取〉の手段として用いられなければならない。したがって,たとえば,スリが被害者にぶつかって注意をそらし,そのすきにポケットの財布を抜き取る行為は,窃盗罪であって,強盗罪ではない。財物の〈強取〉とは,暴行,脅迫により,被害者の意思に反して財物を自己の占有に移すことをいい,財物を奪取する場合と被害者が意思を制圧されて財物を交付する場合がある。財産上不法の利益を得るというのは,たとえば,暴行,脅迫によって,労務を提供させたり,債務免除の意思表示をさせる場合のほか,タクシーの運転手に暴行を加え料金の請求を不可能にした場合なども含む。窃盗犯人が,盗んだ物を取り返されるのをふせぐため,または逮捕を免れもしくは罪跡を隠滅するために,暴行,脅迫をしたときは,強盗と同様に扱われる(事後強盗。238条)。薬物などを用いて人を昏酔(こんすい)させてその財物を盗取した者も,強盗として論じられる(昏酔強盗。239条)。事後強盗と昏酔強盗をあわせて準強盗という。強盗犯人が人を傷つけたときは,無期または7年以上の懲役に処せられ,死亡させたとき(過失だけでなく故意の場合も含む)は,死刑または無期懲役に処せられる(240条)。死傷の結果は強盗の手段としての暴行,脅迫行為から直接生じたことを必要としない。致死傷の原因行為が強盗の機会に行われれば,それで足りるとされている。強盗犯人が婦女を強姦したときは無期または7年以上の懲役,よって婦女を死亡させたときは死刑または無期懲役に処せられる(241条)。強盗,準強盗,強盗致死傷,強盗強姦・致死のそれぞれの未遂も処罰される(243条)。さらに,強盗は予備も処罰される(237条)。
執筆者:大越 義久
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