人を恐喝して,財物または財産上の不法な利益を交付させる罪で,10年以下の懲役に処せられる(刑法249条)。恐喝とは,財物などを交付させる手段として行われる脅迫で,被害者にはまだ交付するだけの意思の自由は残っている程度のものをいう(意思の自由が完全に抑圧され,まったく反抗のできない状態になっているときには,強盗罪となる)。脅迫罪における脅迫は,恐喝者自身が直接に害を加えるという内容である必要はない。第三者の害悪行為に影響を及ぼしうる立場にあることを示せば,恐喝となる。害悪は現実に実現可能でなくてもよく,虚偽の事実を内容とするものでもよい。もっとも,天災,吉凶などの行為者の左右しえない性質のものを説いても,恐喝とはならない。明示・黙示を問わず,暗に示すのでもよい。暴行でも,反抗を抑圧するに至らない程度のものは恐喝となる。また,〈刑事告発するぞ〉というような,それ自体としては合法なことを内容としていても,恐喝となりうる。財物の交付は,恐喝によって被害者が畏怖した結果なされることを要する。憐愍(れんびん)の情から交付したときは,未遂となるにすぎない。交付は必ずしも手交を意味せず,被害者が畏怖しているのに乗じて財物を取った場合でも,交付にあたる。判例によれば,債権取立てなど,自己の権利を実現するために脅迫の手段を用いたときでも,社会通念上許される程度を超えれば恐喝罪となる。もっともこの点については,日本では民事訴訟によって権利を実現するためには費用と時間がかかるところから,むしろ法実現のうえでの私人の役割を重視し,自力救済を広く認めていくべきだという考えもある。なお民事的には,被害者は意思表示を取り消したうえで,交付した物を取り戻すことができる(民法96条)。
執筆者:林 幹人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
他人を脅して財物を交付させたり、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させる罪(刑法249条)。恐喝とは、相手に恐怖心を抱かせ、その瑕疵(かし)ある意思(詐欺、強迫によって強いられた意思)により財産的処分行為をさせることである。したがって、相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を手段とする場合は、もはや処分行為=意思があるとはいえないから、本罪ではなく強盗罪にあたる。このように、恐喝罪は、相手の瑕疵ある意思による処分行為をさせる点において、詐欺罪と罪質を同じくする。しかし、相手に瑕疵ある意思を生じさせる手段において、恐喝罪は相手に恐怖心を抱かせるのに対して、詐欺罪の場合には欺罔(ぎもう)(虚偽の事実を信じさせること)により錯誤を生じさせる点で両罪は区別される。
ところで、恐喝罪は、権利行使のために恐喝手段を用いた場合にも成立しうるかが争われている。たとえば、債権者が債務者から債権を取り立てるため恐喝した場合がそれである。この点につき、通説・判例は「手段は目的を正当化しない」という法格言を援用して、本罪の成立を肯定するが、債権行使である以上財産犯は成立しえないとして、せいぜい恐喝の手段が暴行罪または脅迫罪の限度で処罰されるにすぎないと解する見解もある。
[名和鐵郎]
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