葡萄膜(読み)ブドウマク(英語表記)uvea

デジタル大辞泉 「葡萄膜」の意味・読み・例文・類語

ぶどう‐まく〔ブダウ‐〕【××萄膜】

眼球の虹彩こうさい毛様体もうようたい脈絡膜みゃくらくまくの総称。外観がブドウの粒を思わせるのでいう。

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精選版 日本国語大辞典 「葡萄膜」の意味・読み・例文・類語

ぶどう‐まくブダウ‥【葡萄膜】

  1. 〘 名詞 〙 眼球の虹彩毛様体脈絡膜三つの膜様組織を合わせたもの。色素と血管に富むので遮光に役立ち、眼球の栄養をつかさどる。〔解体新書(1774)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「葡萄膜」の意味・わかりやすい解説

葡萄膜 (ぶどうまく)
uvea

眼球をつくる膜のひとつ。外側の強角膜(角膜と強膜を総称していう)と内側の網膜の間にあり,前部ぶどう膜の虹彩iris,毛様体ciliary bodyと,後部ぶどう膜の脈絡膜choroidとに分けられる。血管に富む組織で眼内の栄養や代謝をつかさどるが,虹彩や毛様体はさらに分布する筋肉(眼筋のうちの内眼筋)の作用によって,瞳孔を広げたり縮めたりする対光反応や調節にも関与する。またメラニンを多く含み,カメラの暗箱と同様に瞳孔以外からの光が入ることを防いで視覚の確保をしている。メラニンの量は人種間で差があり,虹彩の色が茶,青,灰などに見えるのは,この色素の多少による。毛様体は虹彩に連続した部分で網膜鋸状縁部までを指す。眼球の外側からは見えず,検査のときは特殊なコンタクトレンズを用いる。毛様体の表面には房水aqueous humor(角膜からチン小帯までの空間を満たす液体)の分泌機能があり,さらにチン小帯Zinn's zonuleという水晶体を懸架する繊維組織が付着する。内部の筋肉は縦走筋と輪状筋があり,主として眼底像のピント合せ,すなわち調節作用を行う。網膜が存在する範囲のぶどう膜は脈絡膜といい,眼底を構成する要素の一つである。脈絡膜は脈(=血管)が絡みあった膜の意であるが,名のように血管が主体となる組織で,網膜色素上皮層に接して脈絡毛細管板があり,網膜外層に栄養を供給する。

ぶどう膜は炎症を起こしやすい組織である。ぶどう膜炎uveitisは,炎症の中心あるいは強い部位に従って,脈絡膜炎choroiditis,虹彩炎iritis,毛様体炎cyclitisなどに分けられる。また炎症の過程により,外因性のものと内因性のものとに分けられる。原因となるものが角膜を経由して起きたぶどう膜炎が外因性のもので,コンタクトレンズや鉄粉などの異物のほか,ウイルス性角膜炎や内眼手術が原因となる。一方,眼以外の部位に感染(各種ウイルス,結核菌,梅毒トレポネマ,トキソプラズマ原虫その他の寄生虫)があり,その,病原体が眼内に侵入したり,アレルギー反応によって発症するぶどう膜炎や,自己免疫異常による全身的疾患の一部として起こるぶどう膜炎が内因性のものである。

 ぶどう膜の炎症反応は,血液によって運ばれてくる炎症細胞の浸潤と炎症性化学物質の生成,血管壁の破壊(透過性亢進と一部出血)であり,眼内の血管組織すなわち網膜とぶどう膜は多くの場合程度の差はあれ同時に侵される。たとえば,ぶどう膜炎の型によっては脈絡膜炎より網膜血管炎のほうが強いものもある。そこで最近では,ぶどう膜だけに限らないで周囲組織の炎症を含めてぶどう膜炎という傾向にある。

 ぶどう膜炎の予後はほぼその病型に左右される。虹彩炎では,虹彩と水晶体との癒着が起こったり,あるいは前房隅角での器質変化が起こったときは,緑内障が続発することがある。毛様体炎では,白内障が併発しやすい。脈絡膜炎では,視細胞層あるいは色素上皮層の破壊を起こすことがあり,とくに中心窩(か)の炎症ではほとんどの場合視力障害を伴う。また繊維増殖が促される型では,硝子体も増殖反応に加わり,眼内がまったく別の組織におきかえられてしまい,永久に光を失うことになる。このように,ぶどう膜炎とは単一疾患ではないうえに原因も多くの場合不明で,分類も多岐にわたって観点をかえて各種試みられている。

ぶどう膜炎では,特徴的な経過あるいは特異的検査結果などを組み合わせて臨床診断がされる。日本におけるぶどう膜炎の代表は,ベーチェット病サルコイドーシス原田病である。

 ベーチェット病は,眼症状,口腔再発性アフタ,皮膚症状,外陰潰瘍を主要症状とする全身疾患である。眼症状は,前房蓄膿性虹彩炎hypopyon iritis(角膜と虹彩の間に膿がたまる虹彩炎)あるいは滲出性脈絡網膜炎であり,とくに長年にわたり再発を繰り返し視力への影響が強い。破壊される眼組織がなくなったとき炎症も終息するともいわれている。

 サルコイドーシスは,全身のリンパ節を中心に肉芽腫を形成する疾患である。ぶどう膜炎は結節性の虹彩炎および網膜血管炎としてみられることが多い。慢性疾患とはいっても視力は比較的よく保たれる。ベーチェット病とサルコイドーシスは厚生省特定疾患(難病)に指定されている。

 原田病Harada's diseaseは,耳症状,皮膚症状あるいは髄膜症状を伴った眼病変を中心とする疾患である。1923年に原田永之助によって報告された。全身性の自己免疫疾患である。主たる眼の病変は両眼の後極部に起こる漿液性の網膜剝離(はくり)で,軽い虹彩炎も存在する。また強い虹彩炎が認められた場合,髄膜刺激症状(頭痛,吐き気,羞明(しゆうめい)=まぶしさ)その他の全身症状も強いことが多く,とくにフォークト=小柳=原田病ともいう。症状を長びかせなければ予後はよい。このほかの自己免疫疾患には,水晶体タンパク質に対する水晶体過敏性ぶどう膜炎,異常グロブリンによるリウマチ性疾患群に合併するぶどう膜炎などがある。なおベーチェット病と原田病は,人種間で発症頻度の異なるぶどう膜炎として知られ,日本では高率にみられる疾患である。

片方の眼に穿孔(せんこう)性の外傷をうけたあと(起交感眼),他眼(被交感眼)とともに発症する両眼性ぶどう膜炎。とくにぶどう膜に対する損傷の結果,ぶどう膜を抗原とするアレルギー反応が原因で起こる。受傷からぶどう膜炎発症までは数日から数ヵ月の間があり,また,まれなものである。遺伝的素因による感受性の個体差があるものと考えられている。臨床所見は原田病と本質的な差はなく,発症条件も同一基盤にあるものと考えられている。受傷した眼の摘出を余儀なくされることも多い。

ヒトのぶどう膜炎は,多くがアレルギー反応を基礎とするか,あるいはそれによる修飾をうけたものであるともいえる。眼組織自身あるいは眼外組織を抗原に用いて実験動物に炎症を起こさせる研究は古くから行われているが,最近,網膜の一部を分離し抗原として動物に接種することにより,高率にぶどう膜炎を発症させうることが知られ,注目されている。このようなぶどう膜炎を実験ぶどう膜炎というが,これらの実験から種々の免疫機構が解き明かされつつあり,近く,ぶどう膜炎に新たな解釈が加えられる可能性が強い。

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世界大百科事典(旧版)内の葡萄膜の言及

【目∥眼】より

…動物における光刺激を受容する感覚器官をいうが,散在皮膚光覚器のように,形態視ができないものは除く場合がある。目は,体の正中線またはその近くにある中央眼と体の両側方にある側眼に大別される。爬虫類や円口類の顱頂眼(ろちようがん)や昆虫成虫の背単眼が中央眼である。
【動物の目】

[無脊椎動物]
 無脊椎動物の目の構造や機能は,種類によって大きく異なっている。最も原始的なものは,単細胞生物である原生動物のミドリムシにみられる感光性の細胞小器官の眼点である。…

※「葡萄膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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