預金・貸出業務を営む銀行などの金融機関が、当座勘定取引先に対して、当座預金等の残高を超えて小切手または手形を振り出し、カードなどにより現金を引き出し、あるいは決済しても、あらかじめ当座貸越契約によって約定した極度額および期間の範囲であれば支払いをすることであり、銀行の与信業務の一形態である。当座貸越契約の法律的性格については、委任契約説、消費貸借予約説、交互計算説、一種の無名契約説などに分かれており、通説はない。
当座貸越には、当座預金勘定取引なしで、実際上は普通預金口座で当座貸越を行う場合があり、1980年代以降、この形態が増加している。その一は、普通預金に当座貸越を組み合わせた総合口座である。この場合の当座貸越は、口座振替の請求や払戻請求などにより、普通預金残高が不足した場合、担保の評価額の範囲内で、自動的に不足額を融資する仕組みとなっている。担保は、銀行により認める範囲が異なるが、定期預金、貸付信託、国債など準通貨や流動資産に限定されている。ほとんどの銀行では、定期預金を担保として、その元本の90%までかつ最大200万円までを定期預金の約定利率に0.5%ポイント程度上乗せした利率で、「預金担保(通称は預担)」貸出を実行する。この場合、銀行は偽造・盗難カード等の不正利用を防ぐため、顧客からの申請により、キャッシュカード利用による当座貸越機能を停止できることとしている。
その二は、カード・ローン契約規定による当座貸越である。当座貸越契約付の普通預金口座(総合口座を含む)のキャッシュカード使用を認める場合と、当座貸越取引の専用口座で専用のキャッシュカード利用を義務づける場合とがある。当座貸越取引の専用口座は、当座預金口座がなくても開設でき、専用のキャッシュカードによる貸越極度額を限度とする取引のみを対象とする。
当座貸越には、このような専用当座貸越と一般当座貸越がある。専用当座貸越は、当座預金口座なしで開設でき、専用のキャッシュカードにより、専用当座貸越の極度額の範囲で自由に借り入れ、返済を行うことができるが、小切手、手形の振出し・引受け・決済、公共料金等の自動支払いは認められない。これに対し、一般当座貸越は、当座預金における小切手、手形の振出し・引受け・決済を行い、当座預金残高が不足した場合、極度額まで自動的に融資する契約である。
当座貸越は担保付と無担保の場合とがある。担保付の場合には、金融機関は担保の評価額の範囲内で当座貸越の極度を設定する。したがって、無担保で当座貸越の極度を設定されている企業は信用度が高いことになる。
当座貸越は、企業にとっては、資金を必要なときに極度額まで調達できるので短期運転資金の調達上、また個人にとっては、消費支出用資金の調達手段として便利であるが、銀行にとっては、他の融資形態に比べ、必要資金の予想がややむずかしい面がある。
当座貸越は、イギリスやオーストラリアなどでは企業向け資金の融資手段として重視されてきた。一方、日本では、中長期的に企業の自己資本比率が上昇し、資金需要が減少してきたため、銀行は企業の短期資金需要に機動的に対応できる当座貸越付事業者ローンや事業者カード・ローンを売り込む動きを強めた。このため銀行の企業向け融資に占める当座貸越のウェイトがしだいに高まってきた。さらに、1990年代以降、銀行は個人向けに当座貸越付の総合口座の貸付やカード・ローンを積極的に増やしてきている。しかし、銀行の融資形態のなかでは、当座貸越は証書貸出、手形貸出、割引手形に比べ依然比重が小さい。このようにみてくると、企業の当座貸越の資金調達手段としての位置づけはなお高くはないものの、銀行の顧客獲得手段あるいは企業、個人の資金調達手段として、総じて重視されてきつつあるといえよう。
[太田和男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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