忌明けの四十九日,あるいは葬式の翌日に死者の所持品を親族などに分けること。群馬県桐生の俚言に〈くしは縁切り,かんざしはかたみ,指輪は当座の縁つなぎ〉というのがあり,かんざしを形見分けにすることがあった。しかし,形見分けの対象のほとんどが衣類である。《栄花物語》にも〈あはれなる御形見の衣は〉と見えている。衣類に死者の魂がこもると考えられたからであるが,衣類が簡単に手に入るものでなく,貴重な財産でもあったからである。岐阜県吉城郡の形見分けの麻の肩かけは〈とっとき布〉といって機(はた)で織って大切に保存しておいたものである。また,形見分けを北陸地方,近畿地方ではショムワケ(所務分け),ユズリなどともいい,遺産分配の意味もあった。群馬県では子どもや兄弟に形見分けとして位牌を分けている。これは形見分けに財産分けの意味がある例である。
執筆者:田中 久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
死者生前の衣類や持ち物を近親などに分与すること。片見分けとも書く。期日は一定しないが、三十五日目や四十九日(しじゅうくにち)目など、忌明けの機会にすることが多い。形見分けは、今日では単なる遺産分割、あるいは故人をしのぶための記念物の配分にすぎないが、以前は死者の霊魂を継承するため、もしくは「あやかる」ための行為で、それゆえに霊魂のこもりやすいと考えられた衣類を用いることが多かった。ことに袖(そで)の部分に意味があるという考えから、大分県や愛媛県の一部では、形見分けを「袖分け」という。「垢(あか)つき」「お手汚し」「裾(すそ)分け」などというのも、死者が直接肌(はだ)につけていた衣類を分配したところからの名称であり、中部地方から西日本にかけて多い「しょうぶわけ」系統の言い方は、江戸時代語の「所務(しょむ)分け」の変化である。本来の趣旨からいって、特別の希望のない限り、目上の人には分けないのが礼儀である。
[井之口章次]
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