ごぜん‐ちょう‥チャウ【御前帳】
- 〘 名詞 〙 貴人の座右の帳。
- (イ) 中世の幕府・大名、荘園領主などが、その支配のために作成した重要帳簿。
- [初出の実例]「惣都合拾柒丁八反半十歩、四ケ村分、但御前帳には、十九丁八反三百卅五歩」(出典:九条家文書‐応永二四年(1417)九月二〇日・入山田四ケ村段銭・田数・年貢米注進状)
- (ロ) 天正一九年(一五九一)、豊臣秀吉が、朝廷に献納すると称して作成させた全国の検地帳。
- [初出の実例]「伯耆一国之御前帳之儀、南条方に取揃上可レ申旨、最前被二仰出一候」(出典:吉川家文書‐天正一九年(1591)一〇月一六日・増田長盛書状)
- (ハ) 徳川幕府の支配のための基幹的帳簿類。諸国郷帳のほか幕領支配関係の勤方帳、村鑑大概帳などが御前帳と称された。
- [初出の実例]「御前帳故紙は大障子にして寸法極り」(出典:地方凡例録(1794)七)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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御前帳 (ごぜんちょう)
貴人の手元に掌握された重要帳簿。貴人の性格,帳簿の種類は多様で,例えば江戸時代には,幕領関係の勤方(つとめかた)帳,村鑑(むらかがみ)大概帳や幕政関係の郷帳などが,将軍に上納されその座右に備用されるという意味ですべて御前帳と呼ばれた。また戦国大名後北条氏の場合は当主決裁の所領役帳を指し,さらに御前帳の用例は中世史料にまでさかのぼる。これらの中でとくに注目されるのは,近世初頭の統一政権が国郡図(国絵図)とともに掌握した国家的土地台帳としての御前帳で,豊臣秀吉の1591年(天正19),徳川家康による1605年(慶長10)の徴集は有名。両者には帳簿の形状,記載内容,対象域,直接的契機など差異も少なくないが,御前帳上の所領高をもって諸大名への賦課基準とし,その国郡制的編成を通じて関白・将軍の権力が古代以来の国家公権を継承するものであることを誇示した意義は大きかった。正保,元禄,天保の郷帳はこの系譜に連なるものであるが,ほとんど石高は固定していた。
執筆者:秋沢 繁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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御前帳
ごぜんちょう
天皇・将軍などの手元に掌握された重要帳簿。戦国大名後北条氏の所領役帳なども御前帳とよばれるが,歴史的にとくに重要なのは豊臣秀吉が徴収した1591年(天正19)のものである。これは,国絵図とともに天皇に献納された国郡別の検地帳で,朝鮮出兵での軍役負担の基礎帳簿ともなった。徳川家康も1605年(慶長10)に御前帳と国絵図を徴収しており,以後,正保・元禄・天保の郷帳もその系譜をひくものである。国郡別に編成された御前帳の徴収は,国絵図と並び,関白・将軍権力が古代以来の国家公権を継承することを誇示するものであった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の御前帳の言及
【安土桃山時代】より
…このときには奥羽・松前の大名までも肥前名護屋に参陣している。 秀次による国郡制的な統治を象徴するものは,[御前帳]の作成と[人掃令]の発布である。御前帳の作成は秀吉が関白のときに企図されたものであるが,検地によって定められた石高(朱印高)を郡―国ごとに集計し,絵図を添えたものである。…
【郷帳】より
…郡ごとに村名とその石高を書き上げ,一国単位でまとめたものである。徳川家康は豊臣秀吉の天正御前帳,国絵図徴収にならって,1604年(慶長9)慶長国絵図と[御前帳]を徴収した。秀吉の御前帳が膨大な量の検地帳であったのに対し,家康のそれは郷帳である。…
【石高制】より
…石高が土地生産力の高下を直接に表示するとは限らないのである。
[石高制の成立]
1591年秋,関白秀吉は日本全土に対し,一国単位で[御前帳]を徴収することを指令した。これは,郡ごとに石高(秀吉が朱印状で公認した石高)を調査して絵図(郡図)を添え,国単位にまとめられて京都の聚楽第に送られた。…
【境】より
… こうした中世における境の性格・特徴は,近世にも大なり小なり引き継がれていったと思われるが,近世の境を特徴づけるのは,なんといっても国郡制的な行政区分であろうと思われる。豊臣秀吉が叡覧にそなえるという名目で作成・提出を命じた日本全国の[御前帳]と[国絵図]などによって,国土の全体が把握され,国郡制的な行政単位によって国内の境が整理されるに至った。江戸幕府もまたそれを継承し,おもなものだけでも慶長・正保・元禄・天保の各時期に国絵図と[郷帳]を徴収した。…
※「御前帳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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