江戸時代の代表的な地方書(じかたしょ)の一つ。著者は大石久敬(ひさたか)(猪十郎(いじゅうろう))。1794年(寛政6)刊。久敬は筑後(ちくご)国(福岡県)久留米(くるめ)の出身で、1783年(天明3)59歳のとき高崎藩に召し抱えられる。のち同藩郡奉行(こおりぶぎょう)となり、91年(寛政3)藩主松平輝和(てるやす)の命により本書の著述に着手する。予定16巻のうち11巻まで著述し終わるも、残り5巻は94年その死により未完となった。本書の内容は、田制、税制をはじめ普請方(ふしんかた)や度量衡など農政・民政全般にわたっている。村方統治の実務的事項が体系的に叙述されており、『民間省要(せいよう)』などと並び江戸時代の地方書としてもっとも優れた著作の一つである。今日まで諸種の異本が流布するが、(1)徳川林政史研究所、早稲田(わせだ)大学所蔵の「筆写流布本」、(2)老中水野忠邦(ただくに)の要請で東条耕(琴台(きんだい))が改正・補訂を加えた「東条本」、(3)南総の大倉儀なる人物が校訂し、1866年(慶応2)に刊行された「大倉本」、の3系統に大別でき、項目名や項目数、振り仮名の有無などに若干の差がみられる。瀧本(たきもと)誠一編『日本経済大典』第43巻、同編『日本経済叢書(そうしょ)』第31巻所収。
[飯島千秋]
『大石慎三郎校訂『地方凡例録』上下(1969・近藤出版社)』
江戸時代の代表的な地方書。著者は高崎藩の郡奉行大石久敬(ひさたか)で,領主松平右京亮輝和の命をうけて執筆・献上し,書名も領主の命名という。全16巻を計画したが,11巻の献本を終えたところで病気がひどくなり,11巻の末に跋文を加えてもらったのが1794年(寛政6)11月である。その意味では未完の書であるが,地方に関することは11巻までにほぼ尽くされており,内容は地方総論から始まって石高之事,検地之事,新田切添之事,検見仕法之事等々,江戸時代の地方のこと全般に及んでいる。筆写流布本,東条耕本など諸種の異本があるが,今日一般に知られているのは大倉本《校正地方凡例録》である。《日本経済大典》《日本史料選書》所収。
執筆者:斎藤 洋一
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江戸後期の地方書。寛政年間に上野国高崎藩郡奉行を勤めた大石久敬(ひさたか)著。1791年(寛政3)藩主の命により,94年8月6日までに11巻分を書きあげ献本したが,病気のため当初予定の16巻のうち3分の1が未完のまま,11月26日に跋文を書いて提出し完了とした。現在わかるかぎりで本書には筆写流布本・東条本・大倉本の3系統があり,内容・構成ともに同一ではない。「日本経済叢書」「日本経済大典」では大倉本,大石慎三郎校訂「地方凡例録」(近藤出版社刊)では東条本を採用。地方実務の手引書として最も完備されたもので,明治初期の地租改正など実務上で活用された。
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…また小農生産力の上昇は手作大経営を縮小させ,その分を小作に出して,いわゆる第2次名田小作の形態を発生させた。【安孫子 麟】
[近世小作制度の諸相]
近世の小作については最も体系化された地方書である《地方(じかた)凡例録》では,〈自分所持の田畑を居村・他村たりとも他の百姓へ預け作らせ,又は田畑を質地に取り,元地主にても別人にても小作させ,年貢の外に余米又は入米などゝと云て,壱反に何程と作徳を極め作らするを云,元来は佃と云ものなれども,世俗小作と唱へ来る〉と述べており,預作,下作,掟作,請作,卸作,掛け放ちなどとも呼ばれた。小作地の大部分は田畑であるが,屋敷地,山林などの地目も対象となり,一部の地域では牛馬などの家畜も小作の対象となっている。…
…一方,領主も,みずからの経済的基盤である農民の経営を維持する必要から,夫食種貸を行わざるをえず,領主の〈御慈悲〉に基づく〈御救〉すなわち〈御仁政〉という名目でそれを貸与した。18世紀末の《地方凡例録(じかたはんれいろく)》によると,その貸与方法は次のようである。農民が夫食貸を願い出た場合,まず役人を派遣して村内の家ごとに米穀家財などの蓄えの有無を細かく調査し,そのうえで,農具のほかに売り払う品もなく,かつ助け合うべき親類縁者もいない者にのみ貸付けを認める。…
※「地方凡例録」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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