最新 心理学事典 「性格の素人理論」の解説
せいかくのしろうとりろん
性格の素人理論
lay personality theory
普通の人(素人)の理論は素朴であり,客観性の視点から重視されない傾向があったが,その人の実際の行動に与える影響の大きさや,パーソナリティのユニーク性を重視する動向の中で評価されることとなった。またハイダーHeider,F.(1958)は,人が他者との相互作用を効果的に展開する過程を「素朴な心理学者」とみなし,後の帰属理論研究の展開を促すこととなった。さらに素人の理論や考えの影響について,日常生活上の問題に心理学の関心が広がるにつれて,この素人理論lay theoryが研究されるようになった。ファーナムFurnham,A.(1988)は人びとの心理学の知識の素人理論を整理し,さらに日常的な法律,経済や教育でのこの理論の特徴を取り上げているが,行政や司法制度などに一般人の参加が行なわれる現在,多くの可能性のある分野である。
また,個人的でナイーブな理論やそれによる対人認知は,客観性に欠け歪みがあり不正確なものであるという指摘がなされる。個人の認知的な枠組みに沿って対象人物を単純化し紋切り型の判断をするステレオタイプstereotypeや,自分にとって不適切な対象を過度に否定的に評価する偏見prejudiceなどが特徴的である。暗黙の性格観はこうした偏向をもたらすとみなされる。しかし,人の評価が正確であるか歪んでいるかを決めることは,社会構成主義social constructionismの立場では伝統的なパーソナリティの見方とされる(Burr,V.,1995)。人の見方は,人がおかれた状況や関係の中から現われた必然的なものなのである。
最初に暗黙の性格理論を紹介した研究者はブルーナーBruner,J.S.とタジウリTagiuri,R.(1954)であり,クロンバックCronbach,L.J.(1995)やケリーKelly,G.A.(1955)などにより同様なアイデアが開発された。その後,この研究は暗黙の性格理論の一般性を探るものと,個々人の理論を明確化し個人理解に努めようとするものの2方向で展開した。一つはガーラGara,M.とローゼンバーグRosenberg,S.(1981)や林文俊・大橋正夫・廣岡秀一(1983)などの研究で,とくに主要な共通3次元(個人的親しみやすさ,社会的望ましさ,活動性と意志の強さとが融合した力本性)が確認されている。しかし,近年この3次元は時代的な違いが現われていることが明らかにされており,またビッグ・ファイブBig Five(性格の5大因子)との関係も改めて研究されている。しかし,暗黙の性格観の一般性を探究する試みは,この概念の本来の趣旨と矛盾することになり,その位置づけに工夫が必要となる。もう一つはローゼンバーグとジョーンズJones,R.(1972)が手がけた研究が端緒とされており,作家の暗黙の性格観をその作家の小説の記述から推測するというユニークな方法が取られた。
パーソナリティ研究において,普遍的なものと独自なものとの調和は早くからの課題である(Allport,G.W.,1962)。これを克服しようとする工夫として,ケリーの個人的構成体理論personality constructs theoryに基づく役割構成レパートリーテストrole construct repertory testがすでにある。また,内藤哲雄(1997)のPAC(personal attitude construct)分析などの方向も同様である。暗黙の性格理論研究では近年その中間的形態としての特有な文化集団,職業集団の性格観を一般的な性格観と対比して探究する研究も少なくない。本来暗黙の性格理論はこの調和をめざしたものであるが,研究手法上の困難性から十分な発展を遂げないでいる。こうした中で,対象者の個別的なデータを即時的に評価の尺度に使う手法がITの進展で可能となってきており,Web上で処理できるIIPT式暗黙の性格検査が開発され,教育や産業場面で応用されている。 →対人認知 →偏見
〔細江 達郎〕
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