感情知能(読み)かんじょうちのう(英語表記)emotional intelligence

最新 心理学事典の解説

かんじょうちのう
感情知能
emotional intelligence

自己や他者の感情を認識あるいは理解したり,自己や他者の感情を制御したりする能力を表わす概念である。EIと略称する。人間が集団生活を営むために必要な基本的知的能力の一つとされており,さまざまな感情知能のモデルや定義が提唱されている。一方では,知能として認められるかどうかについては疑問視する研究者も少なくない。EQ(emotional quotient)とは感情知能を測定した指標であり,認知・行動的知能を示すIQ(知能指数intelligence quotient)と対比させて使用されることが多い。EQに関しては,測定方法や妥当性についての検証が不十分という批判がある。

 感情知能の構成要素である情動の理解やその表出については,さまざまな視点やことばを用いて古くから論じられてきた。たとえばアリストテレスAristotelesは,紀元前4世紀の状況に応じた適切な感情表出の用い方について記載しているし,ダーウィンDarwin,C.(1872)は,進化論的立場から感情表出は生存のために必要な社会的行動としている。心理学においては,ソーンダイクThorndike,E.L.(1922)が,他者を理解し管理するスキルとして「社会的知性」の重要さを提唱し,情動知能の研究の端緒となった。WISCやWAISなどの知能検査を作成したウェクスラーWechsler,D.(1940)も,知的行動の非知性的側面を測定する重要さを指摘している。またガードナーGardner,H.(1983)は多重知能理論において,対人的知能と内省的知能の概念を提唱している。前者が他人の意図や動機・欲求を理解して,他人とうまくやっていく能力,後者は自己の感情や動機を評価する能力である。1980年代後半ごろに,サロベイSalovey,P.とメイヤーMayer,J.D.(1990)は感情知能の概念を提唱し,1995年にゴールマンGoleman,D.が『Emotional Intelligence』という著作を発表し,感情知能ということばを一般の人びとに普及させた。彼は感情知能の主な下位概念として自己の自覚,自己の制御,社会的自覚,他者との関係の制御を挙げている。操作的定義や用語に関しては多くの論争があるが,感情知能を能力的EI(ability EI)と特性的EI(trait EI)に分類する考えが大勢を占めている。能力的EIは感情に関係する認知能力であり,感情の知覚,感情による思考の促進,感情の理解,感情の管理の四つに分岐している。能力的EIの測定には,メイヤーらが作成した141項目からなるMSCEIT(Mayer-Salovey-Caruso emotional intelligence test)が用いられる。MSCEITは知能テストに類似して実際の能力actual abilityに重きをおいて作成されているが,絶対的な正答が設定されていない点で異なる。特性的EIは,質問紙による行動傾向と感情能力の自己報告self-reportにより測定され,パーソナリティ特性として概念化されている。また既存の差異心理学モデルとの一貫性を重視する。特性的EIの測定には,TEIQue(Trait Emotional Intelligence Questionnaire)が国際的に最も広く用いられている。TEIQueは情動性,自己制御,社交性,ウェルビーイングの4因子と15の下位尺度より構成されている。日本ではエクス(EQS:emotional intelligence scale)が使用されることが多い。感情知能は社会的成功と結びつく能力であると提唱されたことから,職場やビジネスでEQを活用しようとする動きも盛んである。 →気分障害 →シャイネス →知能
〔坂本 正裕〕

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