大脳皮質の中で感覚伝導路を介して末梢の感覚器(または感覚受容器)から直接的に投射を受けている場所を第一次感覚野または感覚投射野といい,狭義の感覚野はこれを指す。そのまわりに二次的な投射を受ける感覚周辺野があり,広義の感覚野はこれを含む。最近では感覚周辺野がそれぞれ数個の独立の領域に分かれていることが知られている。
五感のうち,視覚,聴覚,体性感覚の投射野は小さな顆粒細胞が密集して特有の細胞構築をしていて,顆粒皮質または塵皮質と呼ばれている(エコノモのOC,TC,PC野に相当)。第一次視覚野は後頭葉の内側面の烏距溝の周辺にあり,第一次聴覚野は側頭葉の側頭裂に埋もれた横側頭回が,第一次体性感覚野は中心溝のすぐ後ろにある中心後回がそれにあたる。また味覚野は,体性感覚野の顔面域につづく外側部と前頭弁蓋の2ヵ所にあることが知られている。嗅覚(きゆうかく)系は側頭葉内側部の釣回の前梨状皮質が投射野であるが,前頭眼窩(がんか)皮質に二次的な嗅覚野がある。
第一次感覚野は一般に末梢の皮膚や網膜や蝸牛基底膜などと精密な点対点の対応関係を保っているのが特徴で,これを部位的局在機構topographic organizationという。その結果,体性感覚野には身体の各部分を表す体部位地図,視覚野には視野上の位置を表す網膜部位地図,聴覚野には音の高さを表す周波数部位地図が大脳皮質の表面にできあがっている。
第一次体性感覚野は中心溝を挟んで運動野と接しており,感覚野というと体性感覚野を指す場合もある。ヒトの体性感覚野の体部位局在は,フェルスターO.FoersterとペンフィールドW.Penfieldが手術中に大脳皮質の表面を刺激して調べた。その配列は運動野とほぼ対称的で,いちばん外側から顔面,手および上肢,体幹,下肢の順序に配列し,足の領域は内側面にある。その順序は,およそ脊髄の分節(皮節)の順序になっているが,手や足の領域では一部入れかえがある。各領域の面積は,それぞれの部位の神経支配の密度を反映して,口唇や舌,手指でとくに広くなっている。動物の感覚野の体部位局在はエードリアンE.D.Adrianがネコで誘発電位を記録して調べたのが初めで,そのさい第一次体性感覚野(SⅠ)に続いてもう一つ,第二次体性感覚野(SⅡ)があることがわかった。サルでもウールジーC.N.Woolseyらによって体部位地図がつくられ,SⅠよりさらに外側の頭頂弁蓋部にSⅡがあることが確認された。ヒトでもほぼ同じ位置にSⅡがある。SⅠは対側の半身からの投射しかないが,SⅡには両側性の投射がある。
→感覚 →大脳皮質
執筆者:酒田 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大脳皮質において感覚のインパルスが最初に到達する部分をいう。外界あるいは体内からのさまざまな感覚に関する情報は、嗅覚(きゅうかく)を除いては、すべて視床に中継されたのち、感覚野(感覚領)あるいは知覚野(知覚領)ともよばれる部位に送られる。この部位は、感覚情報を受容する大脳皮質の特定な領域で、感覚の種類によって局在性がある。たとえば、皮膚からの感覚(触覚、温覚、痛覚)や深部感覚(圧覚、筋覚)を受容する部分を体性感覚野といい、ヒトでは中心溝のすぐ後方の頭頂葉にある中心後回がこれにあたる。また、視覚、聴覚、味覚を受容する大脳皮質の部分をそれぞれ視覚野、聴覚野、味覚野とよび、大脳皮質のなかではおのおのの機能の局在性がはっきりしている。視覚野は後頭葉の鳥距溝を囲む領域、聴覚野は側頭葉の外側溝のところにある横側頭回の部分、味覚野は体性感覚の領域の後下部に接した部位にある。
これらさまざまの感覚情報は大脳皮質で感受されると意識に上ると考えられるが、嗅覚の場合は、その受容部位が大脳辺縁系のいわゆる嗅脳とよばれる部分で、新皮質ではないとされる。しかし、高度な嗅覚情報(においの好みなど)は大脳辺縁系から視床を経由して前頭葉前野に送られ、ここで処理されることが判明した。
さらに、ヒト以外の哺乳(ほにゅう)動物においても感覚野の局在性が大脳皮質に証明されており、ヒトと相同の領域がそれぞれの感覚野に相当している。感覚情報を直接受容する大脳皮質を一次感覚野というが、その近くには二次、三次の感覚野があり、感覚情報の統合を行うと考えられている。
[新井康允]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…大脳皮質(新皮質)の中で感覚野と運動野のいずれにも属さない領野をいい,高次の精神機能に関係すると考えられている。フレクシヒPaul E.Flechsig(1847‐1929)が髄鞘発生の研究から見いだした区分である。…
※「感覚野」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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