皮膚感覚(読み)ひふかんかく(英語表記)cutaneous sensation

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

皮膚感覚
ひふかんかく
cutaneous sensation

皮膚をはじめ,口腔,鼻腔,角膜などの粘膜にある感覚受容器によって起る感覚の総称触覚圧覚温覚冷覚痛覚の5つに分けられ,それぞれが独自の受容器をもつ。受容器は皮膚などに点状に分布し,感覚点と呼ばれる。振動感,かゆみ,くすぐったい感じ,しびれ感も皮膚感覚に含まれるが,これらは独自の受容器をもたず,上記5種の感覚の複雑な組合せによって成り立つとされている。

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百科事典マイペディアの解説

皮膚感覚【ひふかんかく】

体表面に接触する各種の物理的刺激に対する感覚。触覚,圧覚,温覚,冷覚,痛覚があり,それぞれの感覚器は,マイスネル小体,触小体,ルフィニ小体,クラウゼ小体,自由神経終末とされる。これらの感覚器は別個の感覚点(触点,温点,冷点,痛点)として点在するが,その分布は均一ではなく,体の部位によっても異なる。痛点が最も密度が高く,1cm2に100〜200。触点は約25,冷点6〜23,温点0〜3ほど。感覚点の密集する部位ではその感覚が鋭敏である。
→関連項目皮膚

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世界大百科事典 第2版の解説

ひふかんかく【皮膚感覚 cutaneous sensation】

皮膚を刺激したときに生じる感覚をいう。体性感覚の表面感覚に属し,触覚,圧覚,痛覚,冷覚,温覚などの異なった感覚がある。哺乳類では触覚感覚器はマイスネル小体,圧覚感覚器は触小体,冷覚感覚器はクラウゼ小体,温覚感覚器はルフィニ小体,痛覚は自由神経終末であるといわれている。触覚と圧覚は触点(圧点)への機械的刺激により生じるが,前者は順応が速く,後者は順応がおそい。ヒトが触覚で皮膚上の2点を識別できる能力は体の部分によって異なり,口唇部や指先の識別能力が最も高い。

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大辞林 第三版の解説

ひふかんかく【皮膚感覚】

皮膚およびこれに接する粘膜で感ずる感覚の総称。冷覚・温覚・痛覚・触覚・圧覚に分けられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

皮膚感覚
ひふかんかく

皮膚とこれに接する粘膜、および角膜や鼓膜などにおこる感覚で、触圧覚(触覚と圧覚。振動感覚を含めて動き受容感覚という)、温度感覚(温覚と冷覚。ここでは二つを分けて説明する)、痛覚、くすぐったさ、かゆさなどがこれに属する。これらのうち触圧覚、温覚、冷覚、痛覚の四つはそれぞれ独立した感覚であるが、あとの二つ(くすぐったさ、かゆさ)は前の四つの感覚が複合したものとされる。四つの感覚は体表上に点状に分布している皮膚感覚点からおこる。この感覚点は身体部位によって異なるが、平均すると1平方センチメートル当り触圧点は25、温点は0~3、冷点は6~23、痛点は100~200である。
 これらの皮膚感覚を受容器からみると、触圧覚では毛根神経冠、マイスネルMeissner(触覚)小体、メルケルMerkel触覚盤、ファテル‐パチニVater‐Pacini小体、温覚ではルフィニRuffini小体、冷覚ではクラウゼKrause(棍状(こんじょう))小体、痛覚では自由神経終末(特殊な形態をもたない無髄の神経線維末端)が該当するというのが従来の考え方であった。しかし近年、ファテル‐パチニ小体を除き、他の特有な形態をもつ受容器は組織標本作製時の人工産物であるとされるほか、これらには相互に移行型がみられたり、年齢とともに変形したり、さらには神経終末しかない皮膚部位からでも各種の皮膚感覚がおこることが判明してきた。こうしたことから、現在では、皮膚感覚受容器は自由神経終末、被覆性神経終末、非被覆性神経終末の3種類に大別されている。自由神経終末は痛覚受容器、被覆性神経終末はファテル‐パチニ小体をさし、触圧覚の受容器であると認められているが、非被覆性神経終末に総称されるその他の受容器には、感覚特異性が立証されていない。
 皮膚感覚の求心性神経線維(繊維)はAβ(触圧覚)、Aδ(痛覚、冷覚、触圧覚)、C(痛覚、温覚、冷覚、触圧覚)線維である。これらの神経線維は脊髄(せきずい)に入ると、大別して二つの伝導路を上行する。一つは後索、他の一つは前外側索で、前者は触圧刺激の精密な空間的・時間的情報を伝えるのに対し、後者は局在の悪い、大まかな触圧覚と温覚、冷覚、痛覚を伝える。これら二つの伝導路は、視床で三次ニューロンに連結して大脳皮質に達する。大脳皮質では、体性感覚野(中心後回)と体性感覚野(シルビウス裂溝(または大脳外側溝ともいう)の壁)に身体各部位が厳密に対応するように投射されている。[市岡正道]

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精選版 日本国語大辞典の解説

ひふ‐かんかく【皮膚感覚】

〘名〙 皮膚に受容器をもつ感覚の総称。触・圧・温・冷・痛の諸感覚を含み、下等動物では皮膚光覚などもある。〔人体の機能(1952)〕

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最新 心理学事典の解説

ひふかんかく
皮膚感覚
cutaneous sensation

皮膚感覚は,皮膚に与えられた刺激により生じる感覚で,圧覚,振動覚,温覚,痛覚などを含む。触覚sensation of touch,tactile perceptionと同義とする場合もあるが,圧覚と振動覚を狭義の触覚と分類する場合もある。触覚は,haptic perceptionの訳としても使用される。hapticはギリシア語起源で,元々は「つかむ」という意味合いがあり,haptic perceptionとは物に触って,それが何で,どこにあるのかといった,能動的な触覚を意味する。したがって,この項では触覚を触運動知覚と称し,皮膚感覚と区別する。

 皮膚感覚と対比して,四肢の位置や動きを知らせる内的な感覚である運動覚kinesthesiaや筋肉や関節などの痛みの感覚としての深部痛deep painは深部感覚deep sensationとよばれる。皮膚感覚と深部感覚とは,併せて体性感覚somatic sensationに分類される。

【皮膚感覚受容器】 視覚や聴覚,味覚,嗅覚などの感覚系は,感覚器官(感覚受容器と感覚神経)が身体の特定部位に局在している。一方,皮膚感覚は他の感覚系と異なり,感覚器官が全身に分布している。それらの感覚器官に与えられた刺激は電気信号となって感覚神経上を伝わり,主として脊髄を通り,脳の頭頂葉に送られる。

 皮膚感覚は,基本的には皮膚に与えられた刺激により生じる。皮膚はすねのような有毛皮膚と手のひらのような無毛皮膚に分けられる。両者ともに,その構造は外層としての表皮epidermisと内層としての真皮dermis,およびその下の皮下組織subcutisから成る。皮膚感覚の受容器が分布しているのは,表皮と真皮である。

 刺激による皮膚上の変形によって圧覚や振動覚が引き起こされるが,この機械的な情報を検出するセンサーの役割をするのが皮膚感覚受容器であり,刺激の特性から機械受容器mechanoreceptorとよばれる。機械受容器は無髄の神経突起の周りを覆うように形成されている(図1)。機械受容器は,受容野(皮膚上の感受領域)の大きさと順応特性(刺激に応答する時間的特性)とから,4種に分類できる。受容野の大きいパチニ小体とルフィニ終末は,ともに真皮に分布する。パチニ小体Pacinian corpuscleは直径1mmくらいで,裸眼で見えるほど大きい。順応が速く,刺激のオンとオフに反応する。高周波数の振動(50~700㎐)の検出を担う。一方,ルフィニ終末Ruffini's endingは,順応が遅く,持続的な圧力や物を握るときなどに生じる横方向への皮膚の伸縮に反応する。受容野の小さいマイスネル小体Meissner's corpuscleとメルケル盤Merkel's diskは,皮膚の比較的浅い所に分布する。マイスネル小体は,指紋の隆起部のような無毛皮膚に見られ,順応が速く時間的な皮膚変化に反応する。振動に関しては,低周波数の振動(5~50㎐)の検出を担う。一方,メルケル盤は,順応が遅く,持続的な圧力や低周波数の振動(5㎐以下)に反応する。皮膚の空間的な変形に反応するので,肌理の知覚や形態知覚に関連すると考えられる。

 温覚,冷覚に関連する熱受容器thermoreceptorは表皮および真皮に分布し,皮膚の温度変化を知らせる。熱受容器は大きく分けて,暖かい物や大気に接したときに活性化する温線維warmth fiberと,冷たい物や大気に接したときに活性化する冷線維cold fiberとから成る。われわれの体は体温を一定に保つように働いており,したがって通常の状態では,皮膚温は30℃から36℃程度に保たれている。この状態では,温線維も冷線維もあまり活動しない。この温度範囲から外れた放射熱や暖かい物や冷たい物に触れたとき,両線維群は活性化する。

 痛覚に関与する受容器は,侵害受容器nociceptorとよばれる。侵害受容器は自由神経終末から成る受容器であり,真皮などに分布し,強い機械的刺激や極端に熱いあるいは冷たい温度刺激など,組織の損傷やその可能性のある刺激に対して活性化する。このように多様な刺激に対して働くので,多様侵害受容器polymodal nociceptorともよばれる。侵害受容器にはAδ線維やC線維などがある。Aδ線維は,薄い髄鞘に覆われた線維で伝導速度が速く,強い圧力や温度に反応する。C線維は,無髄神経線維でより強烈な刺激(圧力,温度,化学物質など)に対して反応するが,伝導速度は遅い。多くの痛覚は,一般に急激な鋭い痛みとその後のズキズキする痛みの2段階から成る。前者はAδ線維,後者はC線維が関与している可能性がある。侵害受容器は皮膚だけでなく,骨や筋肉,内臓器官など,ほとんどの体内組織に分布しているが,脳の内部にはない。なお,侵害受容器が活性化しても,必ずしもつねに,あるいは一様に痛覚が生じるわけではない。

 痛覚は一種の警報器であり,生体にとって回避したいと思う感覚である。しかし,痛覚がないと生存すら危うくなる。糖尿病などのある種の病気では,痛覚が低下する。また,生得的に痛覚がない例が報告されている。食事をしながら舌をかんだり,ストーブで手を焦がしたりしても,気がつかなかったというケースである。

【皮膚感覚経路】 顔に分布する皮膚感覚受容器からの信号は,主として脳神経の一種である三叉神経trigeminal nerveを通り,視床thalamusを経由して,頭頂葉の体性感覚野に至る。顔以外の全身に分布する皮膚感覚受容器の軸索は,それぞれ束となって,脊髄を通り脳へと向かう。脊髄からの経路は,主として,脊髄後索-内側毛帯経路dorsal column-medial lemniscal pathwayと脊髄視床経路spinothalamic pathwayとに分けられる。脊髄後索-内側毛帯経路は,機械受容器からの信号を伝える。この経路の神経軸索は太く,またシナプス結合も少ないので,伝導速度が速い。これらの信号は,視床の後腹側核(VP核)に至る。視床は,視覚や聴覚からの情報も受け取る感覚情報の中継部分であり,睡眠中は活動が抑制される。したがって,比較的強度の弱い機械的刺激に関しては,睡眠中は感受されなくなる。VP核の神経は頭頂葉の体性感覚野に投射する。また,大脳皮質からの調整も受ける。脊髄視床経路は,進化的に古い経路であり,主として熱受容器や侵害受容器からの情報を伝える。脊髄内で多くのシナプス結合がある。したがって,伝導速度は遅い。脊髄内で多くのシナプス結合が存在することは,他の侵害受容器や機械受容器あるいは大脳皮質からの信号間の相互作用を引き起こし,痛みを抑制するメカニズムを提供する。視床からの神経も頭頂葉の体性感覚野に投射する。

【体性感覚野somatosensory area】 皮膚感覚情報は,大脳皮質頭頂葉の体性感覚野(体性感覚領野)で精密に処理される。体性感覚野は,前頭葉と頭頂葉を分ける中心溝のすぐ後ろ(中心後回postcentral gyrus)に位置し,ブロードマンの脳地図における1野,2野,3a野,3b野に相当する。1野は物体の材質・手触りに関する情報,2野は物体の幾何的特徴(大きさ,形など)に関する情報の処理を担当している。体性感覚野で特徴的なことは,体部位局在somatotopyである。体部位局在とは,視覚系における網膜部位局在retinotopyと同様に,身体表面の刺激部位と,その信号を処理する体性感覚野の部位とが対応しているというものであり,その対応関係から,一種の地図が描ける。652ページ図2は脳の冠状断面(左脳)で,このように,大脳半球間の内側では足や足指,引き続いて上半身から腕,手に至り,中心後回の下部では,顔や舌からの刺激に対応している。ただし,全身が連続的に対応しているわけではない。さらに注意することは,体部位局在地図は,身体と相似ではないという点である。手の指,顔,舌に相当する部分は異様に大きく,体幹や腕は小さい。この非相似形は,身体各部位における皮膚感覚情報の精度および使用頻度を反映している。指は,圧覚・振動覚および後述の触運動知覚の処理に重要であり,唇や舌は食物の出入り口として,生存に必須なものである。したがって,そのような部位からの情報を処理する神経組織は相対的に大きくなる。視覚において,網膜中心窩に対応する視覚皮質の部位が大きいのと同じである。ところで,もう一つ注意すべきことは,体部位局在は,固定的なものではなく,適応的に変化するという点である。つまり可塑性が見られる。身体の一部が事故などによって失われた場合,それに対応する体性感覚野の領域は,萎縮したり活動を停止したりするのではなく,他の身体部位からの情報を処理するように再構築される。また,身体各部位の使用頻度は,学習環境によっても変化する。たとえば,バイオリニストは一般の人間と比較して,左指を多く使用する。それによって,左指に対応する脳部位が広がることが知られている。

【皮膚感覚の精神物理学】 精神物理学psychophysics(心理物理学ともいう),とくに外的精神物理学は,刺激強度と感覚の大きさの判断との関係を扱う領域である。皮膚感覚においても,19世紀より多くの精神物理学的研究が行なわれている。フライFrey,M.vonは,当初,ウマや人の毛を利用して,機械的圧力に対する感度を測定した。最近は,さまざまな直径のナイロン糸が利用されている。その結果,検出に必要な最小の圧力(絶対閾)は,身体の部位によって大きく異なることがわかった(Weinstein,S.,1968)。基本的には,顔の部分は感度がよく,足の裏やふくらはぎの部分は感度が低い。この傾向に男女差はないが,感度自体は女性の方がよい。温覚,冷覚,痛覚の感度も身体部位による差が大きい。このほかに,空間的な凹凸に関する感度も測定されており,ヒトはわずか1μmの凹凸も検出可能である。この検出には,順応の速い機械受容器,マイスネル小体やパチニ小体が関与していると考えられている。

 機械的圧力の時間的な変化に関する感度は,触覚的振動tactile vibrationの絶対閾を求めることで得られるが,振動刺激への感度は,振動数によって異なる。そこで横軸に振動数,縦軸に絶対閾を取れば,感度曲線が得られる。研究によれば,200㎐付近の振動数に対して最も感度が良いが,感度曲線は滑らかではない。これは,固有な範囲の振動数を検出する複数の機械受容器が存在することを意味する。

 圧覚に関する絶対閾の測定は,視覚における光点やフリッカー光の検出と類似する。一方,視力の測定に相当するのは,2点閾two-point touch thresholdの測定に代表される空間的解像度の測定である。2点閾は,刺激点が1点ではなく2点と感じられる最小の幅を測定することで得られる。圧覚の空間的解像度も,体の部位によって異なる。手の指先や唇などで解像度が優れ,腕や背中などでは劣る。男女差はない。圧覚の空間的な解像度は,視覚より低く聴覚より高い。解像度を高くするためには,受容器の分布密度が高く,受容野が小さく,さらに受容器から大脳皮質へ至る経路上で,神経系の収束の度合いが高くないことが条件である。空間的解像度に関与する機械受容器は,受容野が小さいマイスネル小体やメルケル盤であると考えられている。ところで,古典的な2点閾測定にはいくつか問題点がある。2点が1点に感じられる場合と単一の刺激が与えられる場合とでは,圧覚が異なるというのがその一つである。そこで,空間的解像度を測定する他の方法も考案されている。たとえば,線分がつながっているかどうかのギャップ検出や,視力検査と同様な空間周波数を変えたグレーティング刺激の方位識別などである。

 皮膚感覚の時間的な解像度の測定としてよく使われるのは,機械刺激が皮膚に同時に接触したか逐次的に接触したかの識別課題である。ゲシャイダーGeschider,G.A.(1974)によれば,時間的に5ミリ秒ずれると逐次的な接触と知覚される。この時間的解像度は,視覚(25ミリ秒)より良いが聴覚(0.01ミリ秒)より劣る。時間的解像度に関与する機械受容器は,順応が速く一過性の反応を示すマイスネル小体やパチニ小体であると考えられている。

 痛覚は医学や心理学上重要な感覚であるので,痛覚を引き起こす,あるいは痛覚の違いを引き起こす,最小の刺激強度の測定が試みられている。識別閾に関する研究では,かなり広範な強度幅で,ウェーバー比Weber ratioが約0.04という結果がある。つまり強度が4%違えば,痛みの違いがわかるということである。刺激強度がかなり大きくなると痛覚のウェーバー比は大きくなるという報告があるが,他の認知的要因や倫理上の問題もあり,信頼性は低い。また,閾値の測定ではなく,より直接的な痛覚尺度を構成する手法として,マグニチュード推定法magnitude estimationを用いた測定も試みられている。電気刺激を用いた痛覚のマグニチュード推定法では,ベキ関数の指数が2~3.5になると報告されている。これは,痛覚の上昇は刺激強度の上昇を上回るという意味である。

【触運動知覚haptic perception】 皮膚感覚の中でも,触れられるという受動的な触覚ではなく,触って識別するなどの能動的な触覚を触運動知覚という。したがって,能動的な触運動知覚は動作actionと切り離すことができない。そして,動作と触運動知覚には,二つの相補的関係が考えられる。一つは,動作を有効にするために触運動知覚が活用されるという関係である。物体を握ったり操作したりする場合には,皮膚感覚が重要な役割を果たす。機械的受容器は,物体がいつ皮膚上をスリップするのかの情報を供給するからである。もう一つは,触って識別するために適切な動作が利用されるという関係である。たとえば,物体の硬さや肌触り,あるいは温度を探るためには,手や指の形がそれぞれ異なる。

 さて,触運動知覚の主な役割の一つは,物体の材質的な特徴(硬さや肌触りなど)と幾何的な特徴(大きさや形態など)を検出することである。視覚になぞらえれば,物知覚システムwhat systemの機能である。クラツキーKlatzky,R.L.ら(1985)は,日常品を手で触らせ,それを識別させた。その結果,触運動知覚における物体知覚では,視覚の場合と異なり,物体の形態や大きさなどの幾何的な特徴より,肌理や温度などの材質的特徴が重要な役割を果たすと報告している。また,2次元平面上に線画で描かれた物体は,視覚を用いれば簡単に識別できるが,輪郭線部分を盛り上げた2次元状の線画を手でなぞらせても,識別は困難である。触運動知覚で幾何的特徴を利用するには,かなりの学習を要する。さらに,レーダーマンLederman,S.J.とクラツキー(1997)は,視覚探索と類似なパラダイムとしての触運動知覚探索課題において,材質的特徴と幾何的特徴の探索に違いを見いだした。材質的特徴をターゲットとして探索する課題では,妨害項が増えても探索時間があまり変わらない効率的探索が行なわれるが,一方で方位などの幾何的な特徴をターゲットとして探索する場合には,非効率的探索が見られたのである。

 触運動知覚によって物体の幾何的特徴を識別するのが困難なのは,その逐次的な情報抽出によるところが大きい。しかし,点字パターンのような小さく指先で一度に検出できるパターンを用いれば,逐次性の要因は排除できる。このような小さなパターンを用いた,指先でのパターン知覚は,ボケblurのかかった視覚パターンの認知に類似している。また,たとえば「は」と「ほ」の混同のように,視覚パターン認知における混同と,触覚パターン認知における混同とが類似しており,このことは感覚様相に依存しない共通の決定プロセスが関与している可能性を示唆している。

 物知覚システムのほかに,触運動知覚には場所知覚システムwhere systemの機能もある。暗闇の中,手探りで物を探す場合,それが何であるかだけでなく,どこにあるかを知ることは重要である。触運動知覚における場所知覚システムの機能は,触覚的定位課題によって調べられた。たとえばハガードHaggard,P.ら(2000)は,閉眼で,テーブルの表(右人差し指)と裏(左人差し指)で位置のマッチングをする課題を行なわせ,いわゆる触覚的なエゴセンターegocenter(自己中心)の知覚に,運動覚など他の体性感覚情報からのバイアスがかかることを示した。場所や空間を知覚するためには,参照枠reference frameが必要であり,その中心がエゴセンターである。触運動知覚の場所知覚システムは,したがって,参照枠が変動してしまうようである。

【感覚間の相互作用】 われわれの五感は,独立して働いているものではなく,それらが協調して,信頼ある外部世界を脳内で復元している。皮膚感覚,とくに狭義の触覚に関していえば,主として視覚との相互作用が重要であり,研究も進んでいる。ロックRock,I.とビクターVictor,J.(1964)の古典的な研究では,レンズを用いて視覚的形状を操作し,幾何的特性(大きさ,太さなど)に関して視覚と触覚の関係を検討した。その結果,視覚の優位性dominanceが示された。その後の研究では,幾何的特性に関しては,視覚優位であるが,表面の粗さなど,材質的特性に関しては触覚優位であると報告されている。現在では,視覚と触覚のどちらが優位かという二分法的考え方ではなく,各感覚モダリティからの情報が,どの程度信頼がおけるかによって,重みづけが行なわれると考えられている。それは,学習によって得られる場合もあるだろうし,進化プロセスによって獲得された場合もある。

 また,身体イメージという観点からも,視覚と触覚との相互作用が研究されている。われわれの身体が空間内のどこにあるかという感覚は,視覚と触覚の情報を統合して得られる。今,目の前に人工の手を用意し,観察者の手を隠す。人工の手と観察者の実際の手とに同時に触覚的刺激(刷毛でなぞる,軽く叩くなど)を数分与えると,自分の手が,人工の手の位置に感じられる。これは,ラバーハンド錯覚rubber hand illusionとよばれ,身体イメージの拡張現象の一つとして知られている。

【皮膚感覚研究の応用】 ブライユ点字法Brailleは,触覚パターン認知の典型的な応用例である。この名前は考案者のブライユBraille,L.に由来する。この点字法は,基本的には縦3×横2の六つのドットパターンで表わされ,個々のパターンがアルファベットに対応する。日本語の場合には,五十音に対応した点字パターンのほかに,記号類(濁音,撥音などを含む)も同様に3×2のドットパターンが用意されている。最近では,ブライユ点字法を応用した点字ディスプレイが開発され,コンピュータ画面上のテキストが点字で読めるようになった。

 点字法は,基本的には,視覚に障害がある場合の触覚による代行である。一方,タドマTadomaは,話者の唇に指を当て,触覚を利用して,話者の話しことばを理解する方法であり,視覚と聴覚の両方に障害がある場合の触覚による代行である。タドマを応用したものにTactuatorとよばれる機器があるが,話者の発話に伴う振動を手に与えるものである。

 最近のコンピュータ技術の進展により,さまざまな空間環境を仮想空間として提示できるようになった。その中には,視覚や聴覚だけでなく,嗅覚や皮膚感覚の研究成果を生かし,まさにリアルタイムで生きた人間の行動がシミュレートされる。人間の仮想的な皮膚環境も提案されており,自分のアクションに応じて,圧力や振動のフィードバックが与えられる。これらの活用は,居住環境や自動車の内装のデザイン,楽器演奏や外科手術のシミュレーションなど多岐にわたっている。 →身体感覚 →精神物理学 →体性感覚領野
〔石口 彰〕

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