定義・概念
慢性リンパ性白血病(CLL)は,成熟小型リンパ球が末梢血に増加する疾患である.CLLはB細胞腫瘍の一種であるが,本来はT細胞マーカーであるCD5が陽性となる.B細胞マーカーではCD19,CD20,CD22,CD23,CD79,CD23,表面免疫グロブリンIgM±Dが陽性である.CD20,CD22,CD79,表面免疫グロブリンなどB細胞受容体関連のマーカーの発現が弱いことが特徴で,後者は検出されないことも多い.
診断には,末梢血中に5000/μL以上のCD5,CD23陽性B細胞の増加を認めそれが3カ月以上継続することが原則である.CLLに伴う血球減少や疾患関連症状(発熱,盗汗,全身倦怠感など)があれば5000/μL以下でもCLLとしてよい(Muller-Hermelinkら, 2008).小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma:SLL)は,非白血化例で,組織像がCLLに一致するものであり,リンパ節腫脹は必須で骨髄浸潤による浸潤による血球減少はない.
分類・予後因子
CLLの病期分類はmodified Rai分類とBinet 分類(表14-10-12)が用いられる.
CLLはナイーブ(naïve)B細胞のマーカーのCD5陽性であるが,遺伝子プロファイルからメモリーB細胞であることが明らかにされた.さらに免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域(IgVH)の体細胞突然変異の有無によって2病型に分けられ,変異のない症例の予後が不良である.IgVH変異の代替因子として細胞質内ZAP70,細胞表面CD38がありそれぞれの陽性例の予後が不良である.FISH法による染色体分析では17p-,11q-の予後が悪く13q-の予後がよい(青木, 2007). 疫学,病因
欧米に多く成人白血病の20~30%を占める.日本ではわずかに2~3%ときわめてまれである.発症に遺伝的因子の関与が考えられている.発症の中央値は65歳,性差はわずかに男性に多い.病因は不明であるが,肺炎球菌などの外来抗原や自己抗原による刺激が発症に関与していると考えられている.
臨床症状・治療
症状なく検診でリンパ球増加を指摘されることがある.貧血,感染,リンパ節腫脹,脾腫による腹部圧迫症状などが初発のことがある.
治療適応はNCIの基準による(Hallekら, 2008).①6カ月以内の10%以上の体重減少,強い倦怠感,盗汗,発熱などの疾患関連症状がある,②骨髄不全による症候性貧血や血小板減少,③著明な脾腫,リンパ節腫大,④2カ月で50%をこえるまたは6カ月で2倍をこえるリンパ球増加. 鑑別診断
鑑別は末梢血に腫瘍細胞が出現するほかのB細胞腫瘍であるが,特徴的なマーカーと形態によって典型例では診断が可能である.マントル細胞リンパ腫ではCD5陽性であるが,CD23陰性,サイクリンD1陽性である.
治療 治癒をもたらすことは困難であり,無病生存期間や全生存期間の延長を目的とした治療が行われる.フルダラビンを中心にした治療が第一選択である.リツキシマブやシクロホスファミドを併用したほうが生存期間の延長をもたらすという成績があるが,有害事象が多い.17p-例ではこれらの治療は無効であり海外では抗CD52抗体が用いられている.11q-例ではアルキル化薬の使用が不可欠である.[青木定夫] ■文献
青木定夫:慢性リンパ性白血病:最新の知見.臨床血液, 48: 1378-1387, 2007.
Hallek M, Cheson BD, et al: Guidelines for the diagnosis and treatment of chronic lymphocytic leukemia: a report from the International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia updating the National Cancer Institute-Working Group 1996 guidelines. Blood, 111: 5446-5456, 2008.
Muller-Hermelink HK, Montserrat E, et al: Chronic lymphocytic leukemia / small lymphocytic lymphoma. In: WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. (Swerdlow SH, Campo E, et al eds), pp180-182, WHO Press, Lyon, 2008.