十二支の戌にあたる日をいい,吉凶さまざまな俗信がある。妊婦が妊娠5ヵ月目の戌の日に岩田帯をする風習は広い。これは犬が多産で産が軽いと信じられたためだが,戌の日にお産をすれば安産だとか,この日に夫婦が交われば妊娠するともいう。また麦作地帯では,戌の日に麦まきすると〈犬食わず〉といい,その麦を食えずに死ぬ者が出るといって嫌う。この禁忌が穀物将来説話と結びつけて語られる場合も多くみられる。昔,弘法大師が唐に行った時,麦を竹の杖の中に隠して持ち出そうとした。その時,犬がこれに気づいて,弘法大師にほえかかったが,杖の中の麦が見つからなかったため,犬は無実の罪で殺されてしまった。この日がちょうど旧暦10月の戌の日だったことから,この日には犬の毛もさわるなといわれ,麦まきもするものでないとされたのである。このほか,戌の日に着物を裁つと着物がふえるといい,また牛馬商がこの日を凶日としているところもある。
執筆者:菊池 健策
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報