戦争犠牲者援護(読み)せんそうぎせいしゃえんご

改訂新版 世界大百科事典 「戦争犠牲者援護」の意味・わかりやすい解説

戦争犠牲者援護 (せんそうぎせいしゃえんご)

恩給法をはじめ戦傷病者戦没者遺族援護法,戦傷病者特別援護法など戦争犠牲者を国家補償の精神に基づいて援護する制度。明治初期から存続した軍人恩給は第2次大戦後の占領軍指令に基づく勅令68号(1946年1月公布)により廃止されたが,サンフランシスコ条約(1951締結)発効契機に戦傷病者戦没者遺族等援護法が制定された(1952公布)。軍人恩給の復活(1953)により軍人とその遺族は恩給法の対象に移行し,援護法の対象は,軍属準軍属(旧軍部内の雇傭人,満鉄職員,動員学徒,徴用工,防空監視隊員等ならびにその遺族)に拡大され,20回に及ぶ改正の積重ねによりその給付内容,公務の対象範囲,遺族の範囲が改善された。援護の種類としては,障害年金,障害一時金(障害の程度や原因となった傷病の別により異なる),遺族年金,遺族給与金,弔慰金,の5種がある。対象者の老齢化に伴い援護の質と量の両面での拡充が要請されている。

 戦傷病者に対する所得保障を規定する戦傷病者戦没者遺族等援護法と並んで,戦傷病者に対する医療保障については,戦傷病者特別援護法(1963公布)が制定されている。本法は,前述の戦傷病者戦没者遺族等援護法や未帰還者留守家族等援護法(1953公布)などにより戦後行われてきた戦傷病者の援護のための諸法令における医療保障部分を統合したものである。この法律による医療保障については,軍人,軍属または準軍属が公務上の傷病によって一定程度の障害(恩給法別表所定)を有する場合および公務上の傷病により療養の必要があると認定された場合には,戦傷病者手帳が交付され,以下の7種類の医療などの給付が与えられる。それは,(1)療養の給付,(2)療養手当,(3)葬祭料,(4)更生医療,(5)補装具の支給・修理,(6)国立保養所への収容,(7)日本国有鉄道(現JR)への無賃乗車であり,これらの援護は全額国庫負担で行われている。

 戦傷病者戦没者遺族等援護法による援護の給付実績の概要は,障害年金の受給者数4469人,遺族年金の受給者数3万8603人,遺族給与金1万8491人,弔慰金約208万人(累計)である(以上,1996年版《厚生白書》による)。

 戦争犠牲者を救済・援護するこれらの法制国家補償の精神に基づく手厚い援護を内容とするが,国家との身分関係の存在を前提条件として構成され,一般民間人は法制による救済の範囲外におかれている。援護の対象とされる軍人軍属等であっても,国との身分関係の強弱,勤務年限・俸給によって現実の給付内容が異なる。軍人軍属に対して準軍属,引揚者は劣位におかれ,軍人軍属のなかでも階級が上位であるほど給付は有利となり,その格差は著しい。一般市民の戦争傷害者の典型ともいうべき原爆被災者(被爆者)については〈原子爆弾被爆者の医療等に関する法律〉(1957公布)と〈原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律〉(1968公布)が制定せられ,その適用をめぐり原爆起因性認定訴訟も提起されてきた。しかし高齢化の進行など被爆者をとりまく環境の変化に伴う総合的対策として,原爆2法を一本化する〈原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律〉が第131国会で成立した(1995年7月施行)。同法は被爆後50年を迎え核兵器の廃絶への決意を新たにし国の責任において被爆者に対する保健,医療および福祉にわたる総合的な援護対策の一環として,(1)広島,長崎で被爆した者の遺族(配偶者,子,父母など)に対し10万円の特別葬祭給付金を記名国債により支給する,(2)平和を祈念するため平和祈念館の設置などの事業の実施,(3)従来からの健康管理手当などの所得制限の撤廃による福祉施策の充実等をその内容としている。
恩給 →原爆被爆者
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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