知恵蔵 「技術流出問題」の解説
技術流出問題
近年、日本の企業の先端技術が、不正に海外に流出するケースが問題となっている。経済産業省が2012年、国内企業を対象に行ったアンケート調査では、過去5年間で「情報の漏えいがあった」「恐らくあった」と回答した企業は、回答した約3000社の13.5%に上った。技術流出の原因としては、主に、(1)研究・開発データなど機密情報の不正取得、(2)取引先や合併の相手先企業などへの情報開示に応じる、(3)退社や移籍に伴う人材の流出などが挙げられている。日本の先端技術の海外流出は、企業の国際競争力低下などを引き起こし、流出した技術によっては国の安全保障が脅かされる可能性がある、などと指摘されている。
近年の技術流出の主な事例には、14年、東芝と提携する米半導体大手、サンディスクの元技術者が、不正に持ち出した「NAND(ナンド)型フラッシュメモリー」(東芝が世界で初めて開発に成功した半導体の記憶装置)の研究データを、転職先の韓国半導体大手、ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)に渡したという疑いで逮捕された事件がある。NAND型フラッシュメモリーは、スマートフォンやデータセンター向けに需要が高まっており、東芝のシェアは、当時も現在も世界2位を誇ることから、注目を集めた。東芝は事件の発覚後、ハイニックス社とデータを持ち出した元技術者に対して損害賠償を求める民事訴訟を起こした。そのうちハイニックス社とは14年12月、東芝に和解金約330億円を支払うなどの条件で和解が成立している。
他には、12年、鉄鋼大手の新日本製鉄(現・新日鉄住金)が保有する、特殊鋼板の製造技術が元従業員らによって不正に取得され、韓国鉄鋼大手、ポスコに流出したとして、ポスコと元従業員らに損害賠償などを求める民事訴訟を起こしたケースがある。新日鉄住金によると、1980年代半ばから約20年にわたり、元従業員がポスコに秘密を提供していた。ポスコとは2015年9月、新日鉄住金に約300億円を支払うことなどを条件に和解、元従業員らからも謝罪や解決金を受け取り、17年3月までに和解が成立した。
技術流出防止策としては、企業の従業員らに対する秘密保持契約など知的財産の規制・管理の厳格化や、新技術を開発した際の確実な特許取得などが挙げられるが、完全に防ぐのは難しい。また国は、不正競争防止法の罰則強化を進め、15年の改正では、企業の営業秘密を海外に漏らした場合の個人や法人への罰金の上限を、国内に流出した場合よりも高く設定した。同年、特許法も改正され、会社の職務として達成した発明の特許を取得する権利を、一定の条件を満たす場合に限り、会社が所有できるようにすることなどが盛り込まれた。
(南 文枝 ライター/2017年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報