拾う(読み)ヒロウ

デジタル大辞泉 「拾う」の意味・読み・例文・類語

ひろ・う〔ひろふ〕【拾う】

[動ワ五(ハ四)]
落ちているものを取り上げて手にする。「ごみを―・う」⇔捨てる
他人の落とした物を手に入れる。拾得する。「財布を―・う」
多くの中から必要なものを選び取る。「関係事項を―・ってみる」「活字を―・う」
職のない人や不遇な人を取り立てる。引き上げる。「彼に―・われたのが出世糸口となった」

㋐思いがけなく手に入れる。「勝ちを―・う」
㋑失うはずのものを失わずにすむ。「危ないところで命を―・った」
車などで出かける途中で人を乗せて一緒に行く。「駅前で友人を―・って目的地に向かう」
乗り物を呼びとめて乗る。つかまえる。「タクシーを―・う」
テニス、バレーボールなどの球技で、打ち返すのがむずかしい球をなんとか打ち返す。「ネット際のボールをやっと―・う」「―・いまくる」
マイクロホンなどが音を取り入れる。「マイク下駄の音を―・う」
10 徒歩で行く。
態々わざわざ夜道を―・うて来たは何ぞ急の用か」〈露伴五重塔
11 株式などを、安値になるのを待ちかまえて買う。「内需株を底値で―・う」
[可能]ひろえる
[下接句]命を拾う火中のくりを拾う小爪こづめを拾う骨を拾う

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「拾う」の意味・読み・例文・類語

ひろ・うひろふ【拾】

  1. 〘 他動詞 ワ行五(ハ四) 〙
  2. 地上などにある物を、取り上げる。落ちている物や捨ててある物などを取り上げて手にする。
    1. [初出の実例]「信濃なる千曲の河の細石(さざれし)も君し踏みてば玉と比呂波(ヒロハ)む」(出典:万葉集(8C後)一四・三四〇〇)
    2. 「タキギヲ firô(ヒロウ)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
  3. 他人の落とした物を取り上げて自分の物とする。落ちている物を取って、自分の物として用いる。納める。
    1. [初出の実例]「今黔首(おほむたから)、富み饒(ゆたか)にして遺(おちもの)(ヒロハ)ず」(出典:日本書紀(720)仁徳七年九月(前田本訓))
    2. 「弊故の衣を拾(ヒロヒ)て、僧伽梨に作りて畜せり」(出典:小川本願経四分律平安初期点(810頃))
  4. 多くの物の中から選び取る。必要なものだけを選び出して利用する。
    1. [初出の実例]「長安に到りし自り、又、随ひて詢採(ヒロフ)(〈別訓〉さいす)」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)一)
    2. 「自分の分だけを拾って読んだ」(出典:何処へ(1908)〈正宗白鳥〉九)
  5. 没収する。
    1. [初出の実例]「得人 内山方と申し合せ、彼が家を符し資具を拾ひ、在所之百性并玉田方によみ預け了」(出典:鵤荘引付‐永正三年(1506)正月一六日)
  6. 失うはずのものを、失わないですむ。「命をひろう」
    1. [初出の実例]「医者殿へゆきて『此たびはおかげでむす子めを一人ひろいました』」(出典:咄本・聞上手(1773)親分)
  7. ( 歩くとき、ぬかるみなどのない歩きよい所を選ぶ意から。自動詞的に用いることもある ) 乗り物を用いずに徒歩で移動する。「歩く」の丁寧な言い方。
    1. [初出の実例]「是よりはちと徒歩(かち)を拾ふべい」(出典:歌舞伎・参会名護屋(1697)二)
    2. 「静かに花壇の前をひろひ」(出典:ありのすさび(1895)〈後藤宙外〉三)
  8. 「する」「言う」の意で、動作主を侮っていう語。
    1. [初出の実例]「げび斗りひろいますげな」(出典:洒落本・一事千金(1778)三)
  9. 年を一つ一つ積み重ねる。また、もれなく一つ一つの駅にとまる。
    1. [初出の実例]「年拾ふに随て威(おどし)はきかず」(出典:滑稽本・古朽木(1780)一)
    2. 「汽車は御丁寧に各駅を拾(ヒロ)ってゆく」(出典:湯ケ原ゆき(1907)〈国木田独歩〉一)
  10. 手助けをして救い上げる。助ける。
    1. [初出の実例]「イヤモ呑太夫が所を拾(ヒロッ)てくれた」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前)
  11. 出かける途中で人をさそう。
    1. [初出の実例]「誰かに会ったら、拾っていっしょに行かう」(出典:寝顔(1933)〈川端康成〉)
  12. タクシーを、乗るためにつかまえる。
    1. [初出の実例]「タキシーを拾(ヒロ)ふから」(出典:物質の弾道(1929)〈岡田三郎〉)
  13. 能楽で、短くはやめにうたう。
    1. [初出の実例]「惣じて、音曲をば、いろは読みには謡はぬ也。真名の文字の内をひろいて、てにはの字にて詰め開きて謡ふべし」(出典:花鏡(1424)音習道之事)
  14. 雅楽の用語。調子の中にある笙の奏法の一つ。鉦鼓の一連の奏法をいう。
    1. [初出の実例]「鞨鼓に阿令声を打て生をば早く拾(ヒロイ)てうちとどむるなり」(出典:教訓抄(1233)一〇)
  15. 活字ケースの中から必要な活字を選び出す。文選(ぶんせん)をする。
    1. [初出の実例]「漢字は字数多くして活字を拾ふ事等に不便なり」(出典:病牀譫語(1899)〈正岡子規〉四)
  16. 文字を一つ一つぽつりぽつりと読む。
    1. [初出の実例]「少し字を知ると、仮名を拾って昔話草紙ものを読んだ」(出典:黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉七)
  17. 音を感じて取り入れる。
    1. [初出の実例]「官房長官の法務大臣に話しかけている声をマイクが拾っている」(出典:吉里吉里人(1981)〈井上ひさし〉三)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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