音楽書。奈良興福寺の楽人狛近真(こまのちかざね)撰述。現伝本は近真が自筆本を1233年(天福1)6月から10月の間に書写したとする奥書の本を原本としているから,成立はそれ以前。10巻。雅楽,特に舞楽全般についてまとめた日本最古の総合音楽書。その孫狛朝葛の《続教訓抄》,豊原統秋の《体源鈔》,江戸時代安倍季尚の《楽家録》の先駆をなす楽書の第一で,鎌倉時代初期の舞楽の実態を伝えている点,歴史的価値が高い。歌舞口伝5巻(第1公事曲,第2大曲等,第3中曲等(以上嫡家相伝舞曲物語),第4他家相伝舞曲物語・中曲等,第5高麗曲物語)と伶楽口伝5巻(第6無舞曲楽物語六十八,第7舞曲源物語,第8管絃物語,第9打物部(口伝物語),第10打物案譜法(口伝記録))とからなる。前半には公事曲として《振鉾(えんぶ)様》《万歳楽》《賀殿》《羅陵王》と乱声の事,大曲等として《案摩(あま)》《皇帝(おうだい)破陣楽》《団乱旋(とらでん)》《春鶯囀(しゆんのうでん)》《蘇合香》《万秋楽》,中曲等として《玉樹後庭花》《秦王破陣楽》《散手破陣楽》他18曲の計31曲等が左舞(さまい)の狛家伝業の芸として,以下他家伝業の《胡飲酒》《採桑老》《抜頭(ばとう)》他13曲の舞楽と伎楽の主に楽,高麗楽(こまがく)のほとんどである35曲が解説されている。後半は楽人の教養に属する楽や舞楽一般,楽器の心得,打物および打物譜等の口伝を記している。内容が近真自身の伝承した家の口伝を主とすることは無論であるが,他に貴族日記,古記録,旧譜を先例として記してあり,後世の者の典拠とするに足る配慮がされているが,それは成立当時57歳にして家芸を継承できるほどの子孫をもたなかった近真が,家芸の廃忘を危惧して撰じたと述べる序文の意図にかなっている。雅楽研究の基本的文献として必読書である。《日本古典全集》2期に山田孝雄校合本の複製が,《続群書類従》管絃部(大正刊本は別本),日本思想大系23《古代中世芸術論》に活字翻刻が収められており,後者には頭注も付され便利である。
執筆者:磯 水絵
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鎌倉時代の雅楽の書。南都興福寺の楽人(がくにん)、狛近真(こまのちかざね)(1177―1242)著。1233年(天福1)成立。全10巻。近真は養父光真、外祖父光季(みつすえ)らの狛氏一族の伝承を一身に受け「舞曲の父、伶楽(れいがく)の母」と称されたが、長男・次男が家業を継がず、三男近葛(ちかかず)も幼年であったため、伝承の廃絶という危機感から書かれたのが本書である。「歌舞口伝」と銘打つ前半5巻は狛氏の伝承口伝など、「伶楽口伝」という後半5巻は舞楽の心得および楽器について述べられ、楽曲にまつわる伝説にも富む。雅楽に関する最古の書で、後の楽書の規範となり、近真の孫狛朝葛(ともかず)(1247?―1333)は『続教訓抄』(1322成立)を著した。
[橋本曜子]
『植木行宣校注「教訓抄」(『日本思想大系23 古代中世芸術論』所収・1973・岩波書店)』
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…江戸時代には,狛氏(こまうじ)が興福寺のために4月8日に伎楽曲を奏したが,舞はすでに滅びていた。 伎楽の演出は《教訓抄》(狛近真,1233)巻四にくわしい。当時伎楽(妓楽とも書く)は4月8日の仏生会,7月15日の伎楽会で演ぜられていた。…
※「教訓抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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