翻訳|dowry
婚姻に際し、花嫁の父または親族から、婚出する花嫁ないし花婿または花婿の親族に対し贈られる財を称して持参財という。入り婿のときは婿に持たせるものをいう場合もある。金銭の場合を持参金という。同じ機会に土地、衣類、家具、装飾品など金銭以外の財をも含めて分与する習慣は世界各地にみられるので、財産一般をも含めて考察することが必要である。花婿方から花嫁方に渡す婚資とよばれる財が、花嫁のもつ出産力ないし労働力の代償であるという指摘はしばしばなされるが、それに対して持参財は、父親から花嫁への生前の財産相続としての性格をもつといわれている。というのも、持参財は新夫婦が安定した夫婦生活を送るための資産の一部を形成するが、持参財の管理運用は夫に任せられていても、その最終的な所有者は妻であり、妻の死後は子供たちのものとなる、という習慣を多くみることができるのである。
持参財はまた嫁入り先での妻の地位を安定させ、夫と離別、死別したときの生活保証となるという機能をももっている。しかし、夫婦が独立した単位として新家庭をつくるのではなく、もっと親族関係の網の目が強く作用している社会では、持参財は二つの姻族間において、花婿方の出す婚資に対する返礼として花嫁方から花婿方に贈られる互酬的な財の交換の一部となっていることも多い。このときにも持参財は安定した夫婦関係をつくりだすことに変わりはないが、財は妻の所有ではなく、夫ないし夫の親族のものとなってしまう。
[山本真鳥]
日本では、女性の労働力が低く評価された武家社会に発達し、金銭に限らず、食料、牛馬、また化粧田畑などといって不動産をもっていくことがあり、江戸時代以後は、財産のある町家や農家にも流行した。この慣行は、親の愛情や見栄(みえ)にもよるが、両家に家格差や財力差のあるとき、また嫁の欠点を補うためにも利用された。1877年(明治10)に司法省が印行した『民事慣例類集』や、80年にそれを補充した『全国民事慣例類集』には、嫁資の項を設けて次のような記述がある(第一篇(ぺん)人事、第二章婚姻ノ事、第三款嫁資)。およそ新婦たる者が入嫁のとき、富家では箪笥(たんす)、長持など数荷の嫁具を運び込み、貧家では風呂敷(ふろしき)包み一つを携えるなど、品数に多い少ないはあるが、衣類や日用の道具を持参するのは一般の通例である。嫁具のほかに金円を持って行くのを持参金と称し、地所の場合を持参田畑・化粧田といい、その所有権を夫に移すものもときにはあるが、多くは体が不自由だったり顔の醜い場合の償いにしただけである。だから100人に1人くらいは例があるが、夫の家の恥だとして内密にしたもので、慣例というほどのものではない、という内容である。
[井之口章次]
『風早八十二解題『全国民事慣例類集』(1944・日本評論社)』
…その意味で,女性が一般的な財産相続権を失うのに伴って成立する後世の化粧料等とは明確に区別されねばならない。古代に厳密な意味での持参財が存在しなかったことは,女性の身柄に対する代償という意味での〈婚資〉が未成立であったこととも対応し,いずれも女性が婚姻の前後を通じて生家の正規の一員としての資格を保持しつづけたという事情を背景としているのである。【義江 明子】
[中世]
貴族の世界では,平安時代以降私領(荘園)が財産の対象に加わっても,それは家地・動産類とともに婚姻の有無にかかわらず女子に男子と量的差別なく譲られ,後の処分も女性の意志にゆだねられ,妻となった女性はそれを依然しばしば夫と別財とし,独自の政所(北政所)の下に経営することが多かった。…
※「持参財」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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