持参金(読み)じさんきん

精選版 日本国語大辞典 「持参金」の意味・読み・例文・類語

じさん‐きん ヂサン‥【持参金】

〘名〙
① 嫁または婿が、結婚の時に実家から持って行く金。
御触書寛保集成‐四四・元祿一五年(1702)閏八月「覚 〈略〉一、養子并妻持参金出入、父方より養子相返し候か、夫之方より妻に暇とらせ候はば、持参金相返し可申候」
② 江戸時代、金公事(かねくじ)に属する債権の一つ。妻または養子が、夫または養父から離婚または離縁された時、縁組したときに持参した金の返還請求権。
※禁令考‐後集・第二・巻一五・寛保元年(1741)七月「金銀出入御触之儀に付申上候書付 一養子 縁女持参金 右は、養父并夫より致離縁候分は、三十日限済し方申付候」

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デジタル大辞泉 「持参金」の意味・読み・例文・類語

じさん‐きん〔ヂサン‐〕【持参金】

嫁・婿などが縁組をするとき、実家から持っていくまとまった額の金銭。

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改訂新版 世界大百科事典 「持参金」の意味・わかりやすい解説

持参金 (じさんきん)

持参金とは,一般に女子が嫁入りに際して生家より持参する財産のことであるが,これを婚姻に伴う財産の移動という広い視野からとらえるならば,日本では,男子主導の婚姻・相続形態の形成に伴って,身分による偏差をはらみながら,現代用いられている女性婚資という意味での持参金が生成してきたのは,中世である。

日本古代には嫁入婚は未成立であったから,〈持参〉という概念は文字どおりにはあてはまらない。また当時の主要な財は奴婢・宅(やけ)等であって,奈良時代の戸籍にも戸主母・戸主妻等が奴婢を所有する例が数多く見られる。また光明皇后が父不比等の宅を相続したのをはじめとして,平安時代の貴族女性にも邸宅相続の例は多い。これは妻方に婿を迎えるという婚姻の方式とも関係があろう。法令としては,当時の財産相続法たる戸令応分条に〈妻家所得〉,つまり妻家より将来の財物についての規定がある。これは中国法の用語・概念に基づいた規定だが,中国法が妻家の権利を否定して,夫の財に混合し一つの家産を形成せしめるのとは異なり,あくまでも妻の実の子孫によって相続され,夫や継子によっては相続されない。相続者のない場合,あるいは離別の際には,婢の生んだ子まで含めて妻家に返還される定めであった。大宝令応分条は原理的には〈氏〉の財産の相続法であるので,これはつまり妻方の〈氏〉に返還することを意味している。このように〈妻家所得〉なるものも実は女性が自分の属する〈氏〉の一員として分有している財のことであって,婚姻に際してとくに分与される特殊財産ではない。その意味で,女性が一般的な財産相続権を失うのに伴って成立する後世の化粧料等とは明確に区別されねばならない。古代に厳密な意味での持参財が存在しなかったことは,女性の身柄に対する代償という意味での〈婚資〉が未成立であったこととも対応し,いずれも女性が婚姻の前後を通じて生家の正規の一員としての資格を保持しつづけたという事情を背景としているのである。
執筆者:

貴族の世界では,平安時代以降私領(荘園)が財産の対象に加わっても,それは家地・動産類とともに婚姻の有無にかかわらず女子に男子と量的差別なく譲られ,後の処分も女性の意志にゆだねられ,妻となった女性はそれを依然しばしば夫と別財とし,独自の政所(北政所)の下に経営することが多かった。しかし,平安時代後期以降私領への依存の高まりや,政治的地位と私産の継承の父系的統一など,中世的な家の形成が活発になると,それに伴って,まず女子への処分の量が一般的に減少し,処分後の財産に対してもたとえ当人が結婚していても一期ののち生家に回収する一期知行の方式が成立する(一期分(いちごぶん))。やがて南北朝ごろを境として男性優位の嫡子単独相続と嫁入婚が確立する時期になると,庶子・女子は一般に財産相続の対象とならなくなり,その結果家長および嫡子に扶養される存在に転落するのと引換えに,女子の婚姻にさいして生家が女子にかつて一期分として与えていた調度・身回品等動産や若干の私領を化粧料等の名で持参させ,身柄を嫁として夫の家に与える物的支えないし代償にするという慣行がしだいに成立することとなった。ここにおいて婚資としての持参金がはじめて本格的に成立したといってよいのであるが,この化粧料は,以上の経緯から本来妻の生家の潜在的発言権の強いものであり,したがって家長としての夫の管理のもとに置かれてはいたが,その使途は妻の自由裁量にゆだねられていたと考えられる。

 武家とくにその大多数を構成する地方の武士領主の場合は,中世的な家の形成が貴族よりもややおくれるのと不可分な形で,処分の絶対量は少ないにもかかわらず,鎌倉時代中期ごろまで女子への一期処分が確立しておらず,婚姻後も妻が生家から譲与されていた財産は,夫の管理下に服していない例が多い。しかし鎌倉時代後期以降,社会的成長に裏付けられて武士の家父長制的な家が本格的に登場するようになると,急速に女子一期知行が一般化し,貴族と同じく南北朝ごろを境として嫡子単独相続・嫁入婚が成立する下で,やがて婚資としての化粧料(持参金)へ転化していったのである。

 一般庶民について持参金成立の経緯を一般的にトレースすることは現状ではほとんど不可能である。しかし,庶民において南北朝・室町時代ごろまで農村を中心に女子の名主職・田畠相続が広く見いだされ,父系に世襲する社会単位としての家の成立が中世末期をさかのぼらないと考えられること,近世初頭においても婿入婚が各地に少なからず残っていたことなどから考えれば,女子への財産処分が男子と質的に差別されるようになるのは一般的にはおそらく中世末期のことであり,婚資としての化粧料(持参金)が成立するのも早くて中世末期と考えられる。
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執筆者:

かつての日本の村落社会では持参金の制度はなかった。まれに金銭を持参することは,おもに富有者層に見られ,女方と男方のいずれかに,ある種の劣位が存在することが多かった。日本の婚姻は,地域内婚的傾向が強く,妻の夫方への従属を容易にするため〈嫁はひくい方からもらえ〉という言葉があるが,階層の別を意味せず,ほぼ同じ家格の者どうしという考えが一般的で,持参金をもって行くという形は考えにくい。また従来の財産相続は,長男子相続が卓越し,諸子への分割相続がとられる場合も多くは男子のみで,女子に対して分与することはほとんどなかった。しかし,婚姻に際し嫁入道具をもつのが普通で,婿入婚においては,わずかな衣類や身回品という程度であることが多かったが,嫁入婚では,嫁の引移りが重要であったので,その際嫁の荷物送りが盛大に行われる傾向があり,嫁荷(嫁の荷物)の種類や量を競うことも行われた。しかし,地域によっては婚出してもなお嫁の荷物を長く生家にとどめおく風があり,全国的に見られる出産を生家ですることや,たびたびの里帰りによって衣料を調達したりするように,生家の負担はさまざまに継続し,嫁が生家のために働くという慣習とともに,婚出しても女性が長く生家に多くの権利や義務を保留していることを示している。
執筆者:

前近代中国において日本語の持参金に相当する言葉が定着したのは新しい。古代の買売婚のなごりからか,古くはそれにあたる言葉はない。しかしその事実はすでに《後漢書》にも見ることができる。唐代では,もともと化粧箱を意味した語〈粧奩(しようれん)〉を嫁入道具として用い,宋代になるとこれが持参金としての意味をもつに至り,持参財産としてもってくる土地を〈粧奩田〉ともいうようになった(《清明集》)。時代が下ると〈賠贈〉という言葉が使われている(《儒林外史》)。

 いずれにせよ,持参金,持参財産が行われたことは,古代の買売婚の要素がうすれてきたことを意味する。すなわち,女家では男性からの結納を女子の両親への礼物とは考えず,仕度金と考えるようになったのである。そして女子に持参金,持参財産をもたせることで,男家に対して嫁の父としての義務を果たしたことを宣言し,女子の〈家〉の存在を明らかにしようとしたのである。もし,結納を懐中におさめてしまってそれにみあう持参金をもたせなかった場合,その父親は,わが娘を売ったと非難され,以後,男家との交わりを絶たれることになる。また,家族を社会の基礎と考えた中国では,持参金をふくむ大金を結婚に費して,次の世代の〈家〉の社会的地位を確保してやり,〈家族主義〉の更新を願ったのである。ただし持参金,持参財産には財産分与の性格があるため,相当の資産家のはなしであって,一般的な風習ではない。

 これらは通常,結婚すると夫婦の共通財産とされたが,離婚のときには,原因が妻にある場合は夫家に留保され,逆に妻に原因がなく一方的に離婚された場合は,妻はそれらをすべて妻家に持ち帰ることが許された。しかし,たとえ妻の方に非があったとしても,その非を立証することは大変困難であったため,実際には原因のいかんにかかわらず妻家に返される場合が多かった。
執筆者:

ヒンドゥー教徒には,古来シュルカśulkaと呼ばれた持参金があり,妻の特有財産として認められていた。大きな社会問題となったのは,婚礼の直前に花嫁の家から花婿の家に現金などを支払う慣習で,英語ではダウリdowryと呼ばれ,上層と中層の人々の間で広く行われた。その額は家族の収入に比べて莫大であって,婚礼費用とともに,多額の債務をつくる原因となり,このため,ダウリを心配した娘の自殺やダウリの少ない妻への虐待などの悲劇が生まれた。1961年にダウリ禁止法が制定され,ダウリの支払者と要求者に刑罰が科されることになったが,この慣習はなお残っているといわれる。
執筆者:

娘の婚姻に際して,父親が持参財産(持参金)を与える慣行は西欧でも古くから存し,また,それは父親の義務でもあった。最初,持参財産としては,娘の使う日用品や装飾品の類であったが,7世紀以後,その範囲が拡大され,金銭や奴隷,土地・建物などがその対象になった。

 持参財産が高額になれば,父親が生存中に婚姻した娘は多額の財産をもらうのに対し,父親が死亡すれば,未婚の娘は持参財産をもらえないだけでなく,相続権もない。こうして持参財産の額が多くなればなるほど,不公平が増大していった。この不公平を是正するため,持参財産が相続分以外の取得物という性質を失い,女子に対して相続権を認めることを促すようになった。フランク時代,643年のロターリ王の告示Edictum Rothariは,初めて女子に相続権を認めたが,別に,持参財産をもらった女子はそれをもって満足すべきで,それ以上を請求すべきではないとし,持参財産でもって女子の相続権を決済する旨を宣言した。

 夫は妻の持参財産を管理し,用益することができ,妻の装飾品を除いて動産を譲渡する権利をもった。17~18世紀の西欧の農村社会の婚姻では,妻の持参財産の多寡がきわめて重視された。父親は祖先から継承した財産を減らさないためにも,跡取の長男に多額の持参財産をもってくる嫁を迎えるように腐心した。ローマ法でも,持参財産は当初は婚姻が成立すると夫の所有になったが,離婚の場合には,妻が不利な立場になるため,後期には,妻に持参財産返還請求権が認められるようになった。

 西欧の近代民法典では,妻の持参財産については,妻の所有に属するけれども,夫の管理・用益に服するものとされた。西欧の民法典上,妻の持参財産が名実ともに妻の所有・管理に属するようになったのは20世紀の半ば以後になってからである。
執筆者:

婚入者が,婚姻にあたってみずから持参したり,相手に贈る財貨を持参財という。ふつうは女子の持参財のみを指すが,厳密に字義にしたがえば男子の持参財をも含めるべきであろう。たとえば,初生子相続をとるパイワン族(台湾)では,男女とも婚入者の方が持参財をもって行く。一般に花嫁代償が女性の父親や親族に与えられるのに対し,女性の持参財は本人または夫婦単位内の財産として維持されるので,女子の相続財産とみなすこともできる。後者はユーラシアの諸民族に多くみられ,アフリカを中心とした花嫁代償の分布と対照をみせている。持参財は,女子の婚家での地位を高める機能をもち,また場合によっては配偶者選択にも有利な条件となるが,花嫁代償のように一定の相場といったものは明確ではない。とくに年齢や身分など一定の条件をみたす男子の少ない場合,額がつりあげられることもある。階層との結びつきが顕著で,花嫁代償が,その財の移動や分配を通して富を分散し,平均化させるのに対し,持参財は当事者を中心とした富を集中させる傾向をもつ。
婚姻 →相続 →花嫁代償
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「持参金」の意味・わかりやすい解説

持参金
じさんきん
dowry

嫁資ともいう。結婚に際して,配偶者を与える側が,配偶者をもらう側に対して与える金銭財物をいう。婿入り婚の場合や一妻多夫婚制をとる社会の場合,婚入者の労働力提供ということが価値をもっているため,持参財産はほとんどないが,嫁入り婚の場合,婿方から,嫁をもらう代償として婚資を支払う一方,ことに婚姻を単に嫁と物品や金銭との交換に終らせず,嫁の地位や嫁の親族の地位を確保するために,嫁入りに際して嫁資をもたせるというようなことが行われた。これは一夫一婦制をとる社会に多く見受けられる習俗で,古代ギリシア・ローマ時代にもその記録があり,現在でも婚姻締結者同士の一つの身分保障として歓迎されている社会は多く,嫁を与える側に地位や財産がある場合特に顕著である。嫁資は,すべて婿方に渡る場合もあるが,日本の場合は法的に妻の所有権が確保されている。

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世界大百科事典(旧版)内の持参金の言及

【養子】より

…百姓・町人の場合は当事者間の契約によって結ばれ,武家に比べはるかに自由であった。なお一般に,養子入りにあたって持参金がやりとりされ,なかには持参金目当ての養子縁組もみられた。幕府は再三にわたってこれを禁止する法令を発したが,あまり効果はなかった。…

※「持参金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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