母指や手掌(手のひら)などで体表の一定部位を圧迫することによって生体の変調を矯正したり、健康の増進や疾患の治療を図る手技療法のことで、指圧法、指圧療法ともいう。現在の指圧の成立は、大正年間とされ、次の三つが加味されたものである。まず、日本に古くから伝わる「あんま」の手技に柔道の活法および導引(どういん)(治療や養生法)が加わり、さらにアメリカから移入された療術(オステオパシー、カイロプラクティック、スポンディロテラピー)の理論と手技が取り入れられたのである。指圧の手技としては、脊柱(せきちゅう)の矯正、手指による圧法操作、および各関節の運動操作の三つがある。
[芹澤勝助]
まず、足を伸ばしてうつむけに寝た相手の人の脊柱(両肩の位置)から尾骨までを手掌で数回なでる。次に右手に左手を重ね、1か所につき3~4秒間ずつ通常圧法による掌圧(緩圧(かんあつ)法)を行う。この間に、脊柱の凹凸や屈曲などの有無に注意し、異常があれば両手首や両母指などでこれを押し、整復する。この手技は、とかく神経痛などが脊柱の軽いひずみやゆがみによっておこりやすいということから、これを矯正しようというものであるが、熟練を要するため、素人(しろうと)は避けたほうがよい。
[芹澤勝助]
手掌や母指などで体表部位を押す手技であるが、ただ押せばよいというものではない。術者の体全体の重みがかかるようにしなければならない。また、相手の人の体の堅さに応じて、かける圧力を加減することも必要である。圧力の度合いに軽重、緩急、順増、順減、衝撃などの変化をもたせると、圧反射による生体反応はより効果的となる。なお、押す方向は相手の人の体の中心に向かうようにし、つねに垂直圧の原則を守るように心がける。圧法を行う場所の間隔はだいたい3~5センチメートルで、中央から末梢(まっしょう)へと向かうようにする。
[芹澤勝助]
高血圧、不眠症、神経痛、リウマチ、胃腸病のほか、肩こり、頭痛、疲労など指圧の適応範囲は広いが、ひどく弱っているとき、38℃以上の熱があるとき、化膿(かのう)性疾患や湿疹(しっしん)のあるとき、悪性腫瘍(しゅよう)のあるとき、虫垂炎などの急性症のときなどは避けなければならない。
また、指圧を行う際には、相手の人の体質や肥満の程度などを十分に考慮し、負担をかけないようにすることもたいせつである。腹部や腰部の指圧は食後30分以上経過してから行うようにし、できれば排便後が望ましい。また、ベルトや帯などは外し、気楽な状態にさせてから行うようにしたい。術者は爪(つめ)を切り、手を清潔にしておくこともたいせつである。
[芹澤勝助]
指圧を業とするには、「あん摩マツサージ指圧師免許」を受けなければならない。免許は、文部科学大臣の認定した学校または厚生労働大臣の指定した養成施設で3年以上、解剖学・生理学・病理学・衛生学その他の必要な知識、および技能を修得した者のうち、厚生労働省認定の東洋療法研修試験財団が行う国家試験に合格した者に対して上記の財団が与えることになっている。なお、指圧師は「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の規制を受ける。
[芹澤勝助]
『芹澤勝助編著『指圧の理論と実技』(1957・医歯薬出版)』
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