海上物品運送契約において,運送人が,運送品の受領を証明し,かつ,目的港において,この証券の正当な所持人に対してその運送品を引き渡すことを約束した証券。船荷証券は,運送人に対する運送品引渡請求権を表章しており,この権利を行使し,または移転するためには,必ずこの証券の占有または移転を要する有価証券である(商法776,573,574,584条,国際海上物品運送法10条)。陸上運送における貨物引換証(商法571条以下)に相当する。
12世紀ごろ,地中海における海上運送において,荷送人は,運送品を海上運送人に引き渡したことの確実な証明をうるために,公証人の役目をする船舶書記から,船積みのあった運送品につき作成した船舶帳簿の謄本の交付を受けた。この謄本が,船荷証券の起源とされている。その後,13世紀になると,船舶所有者が公正証書の形式で作成したマルセイユ文書といわれるものが出現した。これには,船舶所有者が荷送人に対して運送品の受取りを証し,かつ目的港において契約の相手方またはその被用者にその運送品を引き渡す義務を負担する旨が記載され,同時に,運送賃や運送人の責任など運送に関するその他の内容も記載され,なお,運送品不受領の抗弁,悪意の抗弁などを放棄することも約束されていた。こうして,船荷証券は,その初期においては,運送品を受け取ったことの単なる証拠証券にすぎなかったが,17世紀ごろまでには,証券の記載に従って運送契約上の債務を負担する効力や,証券の引渡しが運送品の引渡しと同一の効力があることなどが認識されてきて,しだいに有価証券としての性質を帯びるようになった。このことは,船荷証券の所持人が,目的港において確実に運送品の引渡しを受けることを期待できるから,遠隔地の買主に商品を売却するためにはなはだ便利であり,また海上運送中の積荷を担保として金融をうるにも都合がよかった。
現在,貿易取引の実際では,船荷証券がきわめて重要な機能を果たしている。たとえば,海を隔てた売主と買主の間で売買契約が成立すると,売主は目的物の船積みをした後,海上運送人から船荷証券の交付を受ける。そして,買主を支払人とする為替手形を振り出し,先の船荷証券とともにこの手形を銀行へ持参し,割引を受ける(荷為替手形の取組とその割引)。銀行は,この船荷証券が担保として機能するから,安んじて手形の割引に応ずるのである(この際,通常は信用状が開設される)。これにより,売主は,商品が自己の手もとを離れた直後に売買代金を回収することができる。買主は,銀行へ手形の支払をなしてから船荷証券の返還を受け,これを運送人のところへ持参し,積荷の引渡しを受けることになる。なお,買主は,みずから積荷の引渡しを受けることなく,船荷証券を裏書して他人に譲渡することにより,積荷を転売することも可能である。このように船荷証券は,海上物品運送契約の局面においてのみならず,海上売買の面において,FOB-CIF売買(〈FOB-CIF〉の項参照)や荷為替取引,信用状取引などには,つねに,大きな役割を果たしている。
商法に存在する船荷証券に関する規定は,内航船にのみ適用がある。外航船について発行される船荷証券に関しては,国際海上物品運送法(1957公布)に特別な規定があるほか,商法の規定も準用されている(国際海上物品運送法10条)。同法は,1924年の船荷証券条約(略称)を批准して国内法化したものである。
また船荷証券は有価証券として,法律上当然の指図証券性(国際海上物品運送法10条,商法776,574条),要式証券性(国際海上物品運送法7条1項,商法769条),要因証券性,文言証券性(商法776,572条),引渡証券性(国際海上物品運送法10条,商法776,575条),処分証券性(国際海上物品運送法10条,商法766,573条),受戻証券性(国際海上物品運送法10条,商法776,584条)を有している。
船荷証券には,法律上,一定の事項(運送品の種類,荷受人の氏名または商号等)の記載が必要とされている(国際海上物品運送法7条1項,商法769条)。かかる法定記載事項のほかに,実際には,多数の事項が任意に記載され,とくに,各種の免責約款が挿入されている。
船荷証券は,その所持人が海上運送人に対し運送契約上の債務の履行を請求し,かつ,その不履行の場合に損害賠償の請求をなしうる効力をもっている。これを債権的効力という。そして,証券所持人と運送人との間では,運送に関する事項は,船荷証券の定めるところによって決する(商法776,572条)。なお,船荷証券は,海上運送契約に基づく運送品の受取りを原因として発行される証券(要因証券)であるところから,証券の記載と現実とに齟齬(そご)を生じた場合(品違い,空券など),証券の記載にどの程度の効力を認めるかをめぐって学説は分かれている。船荷証券は,また,証券の引渡しだけで,運送品自体の引渡しと同じ効力を有するという物権的効力をもっている(国際海上物品運送法10条,商法776,575条)。船荷証券にこの効力があるから,売買の目的物はまだ運送人の手中にあって運送中であるにかかわらず,売主は,荷為替手形の取組などの方法により,いちはやく代金の回収ができるのである。証券の引渡しが,物の引渡しと同一の効力を有することの法的構成については学説が分かれている。
執筆者:佐藤 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海上物品運送において、その物品の引渡請求権を表章している有価証券をいう。通常、B/L(ビー・エル)(Bill of Lading)といわれる。
種々の態様があり、たとえば、その発行時期が船積み前のものを受取船荷証券といい、船積み後のものを船積船荷証券という。また、運送されている物品について、なんらかの異常が記載されているものを故障付船荷証券、そのような記載のないものを無故障船荷証券という。このほか、陸上運送と海上運送というように、異種類の運送手段や、複数の運送人による運送などにおいて利用される通し船荷証券などといわれているものもある。コンテナによる運送などにおいてのコンテナB/Lなどは、その一つである。船荷証券は、送り状、海上保険証券などとともに船積書類の一つであり、荷為替(にかわせ)取組に必要とされる書類である。
[永井和之]
『大崎正瑠著『詳説 船荷証券研究』(2003・白桃書房)』
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