振動障害(読み)しんどうしょうがい(英語表記)Occupational vibration-induced disease

六訂版 家庭医学大全科 「振動障害」の解説

振動障害
しんどうしょうがい
Occupational vibration-induced disease
(中毒と環境因子による病気)

どんな病気か

 削岩機(さくがんき)チェーンソーなど、振動を手・腕に伝える手持ち振動工具を使用することによって起こる健康障害をいいます。手腕を介して伝搬する手腕振動(局所振動)による障害をいい(手腕振動(しゅわんしんどう)障害、局所振動障害、職業性振動障害)、通常、全身振動による障害は含みません。

 振動障害は、主として寒冷時に発作的に現れる手指の白色化現象(レイノー現象)を特徴とする末梢循環障害、手指のしびれ、感覚鈍麻を主体とする末梢神経障害、肘関節より末梢の関節症状(疼痛、可動域制限)や握力の低下などによる運動器障害の3つから構成されます。

 日本ではかつて白ろう病といわれ、山林労働者に多くみられ社会問題になりましたが、近年では建設業など、障害を起こす産業職場も次第に広がってきています。

原因は何か

 主たる原因は振動ですが、障害の発生には個人差があります。工具の振動レベル、連続使用時間、使用期間などの曝露(ばくろ)条件に、騒音、寒冷を含む環境条件、加齢、喫煙習慣などが発症に関係しています。

症状の現れ方

 レイノー現象主徴とする末梢循環障害、末梢神経障害、骨・関節障害の3つからなります。

 振動病の最初の訴えは、手指のしびれです。次いで腕のだるさ、脱力感、しばしば作業後や夜間に腕の強いしびれと痛みが起こります。特徴的な所見は手指のレイノー現象で、全身に冷えを覚えた時に発症します。

検査と診断

 診断は振動工具使用に関する職歴問診、末梢循環障害ではレイノー現象を確認することが極めて重要です。末梢循環障害の有無に関する診断法は、安静時および冷水負荷(10℃で10分)、皮膚温検査、爪圧迫(つめあっぱく)検査、サーモグラフィー指尖容積脈波(しせんようせきみゃくは)などが一般的に行われています。

 近年、新しい方法(手指収縮期血圧%)の導入が検討されています。

治療の方法

 労働省(当時)により「振動障害の治療指針(基発第585号、昭和61年10月)」が示されていますが、早期に発見し、初期に治療することが重要です。

 理学療法として、温熱療法、運動療法を組み合わせて行います(手指のパラフィン浴、ホットパック、温水・冷水の交替浴、マッサージ)。

 薬物療法では、末梢循環改善薬、末梢神経賦活(ふかつ)薬、精神安定薬を使います。

 日常生活の指導では、キャッチボールなど手指への振動刺激のあるものを避ける、保温禁煙する、などが重要です。

予防対策はどうするか

 根本的な治療法がないので、予防が最も大切です。軽量かつ低振動レベルの工具の使用、工具の低振動レベル保持のための保守管理、使用時間規制の遵守(じゅんしゅ)防寒・保温を含めた作業管理、暖房設備が整った休憩設備の利用などの作業環境管理、生活指導での寒冷期の保温・禁煙・体操などが大切です。日本産業衛生学会の手腕振動許容基準があるので、それに沿うようにします。

松井 寿夫

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「振動障害」の意味・わかりやすい解説

振動障害 (しんどうしょうがい)

振動が身体に与える障害は,全身振動によるものと局所振動によるものに大別される。振動障害は振動数と振幅によって起き方が規定される。全身振動による振動障害としては,自律神経系への作用によって脈拍数増加,血圧上昇,末梢血管の収縮,胃腸運動の抑制などが起こり,副腎皮質ホルモンの変化や性周期の乱れなどもある。物理的作用からの胃下垂,腎下垂や脊柱の変形異常なども頻度が高くなる。局所振動による障害としては,白蠟(はくろう)病の名で昭和40年代初めころから社会的にも関心がもたれるようになった職業性レイノー現象がある。振動障害によるレイノー現象は,必ずしも手指の末梢血管の機能障害だけにとどまらず,中枢神経系の機能障害にもとづく頭重感,頭痛,めまい,睡眠障害や,ひじ,頸椎,腰椎などの骨関節系の障害も伴う全身性の障害であり,振動病vibration diseaseという名称を適切とする意見が多い。全身振動についての許容基準は,国際音響機構(ISO),日本産業衛生学会から振動数,加速度,暴露時間に応じて勧告が出されており,局所振動については目下検討されている。ただし労働省は1975年,局所振動の代表的工具であるチェーンソーについて,鋸断時の振動加速度が3g以下,騒音が作業者の耳もとで100dB以下とするように製造・輸入業者に要請した。局所振動障害をひき起こす工具には削岩機,ブッシュクリーナー,タイタンパー,ピッチングハンマー,コンクリートブレーカーなどもあり,今後の注目が必要である。
振動公害
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「振動障害」の意味・わかりやすい解説

振動障害
しんどうしょうがい
vibration disease

振動病,振動症候群ともいう。振動によって生じる健康障害のこと。交通機関などでの全身振動によるものと,振動工具の局所振動によるものとがある。全身振動は交感神経緊張状態をもたらし,内分泌系にも影響を及ぼし,胃腸障害,胃や腎臓などの内臓下垂,脊柱の異常,月経障害,眼圧上昇,一時的聴力損失などの障害を起したり,これらの誘因となる。局所振動障害としては骨や関節の障害,しびれや知覚障害などの神経・感覚器の障害,運動機能の障害などがある。手指が蒼白やチアノーゼになるレイノー症状はチェーンソーを使う林業労働者に多発し,白ろう病と呼ばれた。局所振動障害の治療としては温熱療法があるが,症状の進行した状態では振動工具の使用禁止が必要であり,寒冷に身をさらさないことも予防上重要である。

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世界大百科事典(旧版)内の振動障害の言及

【白蠟病】より

…ヨーロッパでもVIWF(vibration induced white finger)と呼ぶ。今では,末梢循環系,末梢神経系,運動器系に現れる障害などをまとめて振動障害と呼んでいる。振動が主原因で,その加速度と周波数によって症状が異なる。…

※「振動障害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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