放線菌症(読み)ホウセンキンショウ

デジタル大辞泉 「放線菌症」の意味・読み・例文・類語

ほうせんきん‐しょう〔ハウセンキンシヤウ〕【放線菌症】

嫌気性放線菌のアクチノミセスによって起こる病気。首・胸・腹などに板状しこりができ、化膿かのうして瘻孔ろうこうを生じ、菌塊を含む膿汁を排出する。抗生物質が有効。アクチノミコーゼ。

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精選版 日本国語大辞典 「放線菌症」の意味・読み・例文・類語

ほうせんきん‐しょうハウセンキンシャウ【放線菌症】

  1. 〘 名詞 〙 嫌気性の放線菌による疾患。藁や穀物の穂により媒介され、口腔粘膜、咽頭食道、胃、腸より侵入する。気道感染もある。病変部は非常に硬いしこりとなり、また、その一部が軟化して多発性膿瘍(のうよう)を生じることもある。アクチノミコーゼとも。

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内科学 第10版 「放線菌症」の解説

放線菌症

定義・概念
 ヒトの常在細菌叢に存在する嫌気性Gram陽性桿菌であるアクチノマイセス属細菌による慢性化膿性感染症である.本菌の病原性は低いが,粘膜などの生体防御能の破綻に伴い生体内に侵入し,遅進行性の感染症の原因となる.頸部・顔面に病巣を形成することが多く,ときに胸・腹部にみられることもある. 膿汁あるいは瘻孔分泌物中に硫黄顆粒(sulfur granule)とよばれる径0.2~2 mmの特徴的な菌糸塊を認める.
 放線菌症(アクチノマイセス症)の原因菌としてはActinomyces israeliiが最も重要であるが,その他のアクチノマイセス属細菌(A. naeslundii,A. odontolyticus,A. meyeriなど)による感染症も報告されている.本菌はフィラメント状で分岐形成を示す嫌気性Gram陽性桿菌で,健常人の口腔(特に齲歯,歯周,扁桃窩など),膣,腸管などから高率に分離される.感染部位からはその他の細菌とともに混合感染菌として分離されることも多い.
 アクチノマイセス症の発症には皮膚・粘膜バリアの破綻が不可欠である.常在菌として生息する菌が生体内に接種された場合,一時的な急性炎症ののち本菌感染症の特徴である慢性炎症へと移行する.化膿性病変を取り囲む線維性変化が特徴であり,典型的には“木のように硬い(woody)”と形容される硬結がみられる.中心部の膿瘍には好中球を主体とする炎症細胞浸潤と前述した硫黄顆粒が観察される.病状が進行するに伴い隣接組織に炎症が波及し,皮膚・骨などに瘻孔を形成する.臨床的に悪性腫瘍との鑑別が問題となることも多い.異物の存在は本症の危険因子の1つであり,特に子宮内避妊器具と関連した放線菌症が多数報告されている.
臨床症状
 人種,年齢,職業などとの相関はみられないが,男性に多く発症する傾向がみられる.その理由として,口腔内の衛生状態,口腔・腹腔内外傷の既往との関連が指摘されている. アクチノマイセス症は「最も見逃されやすい,あるいは誤診されやすい感染症」として知られている.本症の半数以上が口腔・頭頸部にみられる.抜歯や口腔外科手術後に発症することが多く,頬部の板状硬結,腫脹・腫瘤形成などがみられる.放置することにより中心部の膿瘍が自潰して難治性の瘻孔を形成することもある.
 胸部アクチノマイセス症は,口腔内の放線菌を吸引することにより発症する.感染初期の気管支炎・肺炎様症状から始まり,進行するに従い肺膿瘍,膿胸,空洞形成などもみられる.胸壁への瘻孔形成,隣接骨の融解・増生像などがみられることもある.
 腹部アクチノマイセス症は,腹部手術,憩室炎・虫垂炎,異物穿孔などの誘引ののち数カ月~数年ののちに発症することが多い.回盲部の限局性膿瘍としてみられることが多いが,腹腔内液の流れ,あるいは原発病巣からの直接浸潤により後腹膜,横隔膜下,肝臓などに病変を形成することもある.腹腔内ではしばしば直下の組織に固定した腫瘤病変としてみられるため腫瘍との鑑別が重要になる.再発性・難治性膿瘍,あるいは腹壁への瘻孔形成を認めた場合には本症を疑う必要がある.また前述したように,子宮内避妊器具を装着した女性に骨盤腔内膿瘍を認めた場合にも本症を鑑別することが重要である.
 上記の臨床的特徴に加え,膿汁中の硫黄顆粒,あるいは分岐形成を示すGram陽性桿菌の存在により本菌感染症を疑う.硫黄顆粒は,顕微鏡的にアクチノマイセスの菌糸が密に網状に絡み合った塊として観察されるが,肉眼的に膿汁中にその存在が確認されることもある.アクチノマイセスの培養には嫌気培養で通常5~7日(長い場合には2~4週)が必要であるが,前述したように本菌はヒトの口腔・腸管などの常在菌であることに注意しなければならない.
治療
 ペニシリン系抗菌薬が第一選択薬であり,通常6~12カ月の長期治療が必要となる.その他の抗菌薬としてはマクロライド系,テトラサイクリン系抗菌薬が有効である.[舘田一博]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「放線菌症」の意味・わかりやすい解説

放線菌症
ほうせんきんしょう

アクチノミセス・イスラエリーActinomyces israeliiなどの放線菌によっておこされる病気で、アクチノミセス症、アクチノミコーゼともいう。おもなものは胸部、頸部(けいぶ)、腹部の各放線菌症で、全身に広がることもある。菌は口腔(こうくう)や消化管内の常在菌で、酸素があると発育しない嫌気性である。抗細菌抗生物質剤がよく効くので、最近は減少し、重症はみられなくなった。胸部放線菌症は咳(せき)、痰(たん)、血痰、発熱など肺炎様症状がみられ、亜急性あるいは慢性に経過する。胸膜に波及すると胸痛や胸膜浸出液がみられ、皮膚面に破れて瘻孔(ろうこう)をつくり、ここから排出される膿(のう)中には特有の菌塊(ドルーゼ)がある。すなわち、直径2ミリ程度の灰白黄色の顆粒(かりゅう)状で、菌糸の集合からなり、この証明によって診断が確定する。頸顔部放線菌症は顎(がく)部に始まり、皮膚は暗紅色となる。軟部組織が板のように硬くなり、破れて瘻孔をつくるが、このため口が開かなくなることもある。腹部放線菌症は右下腹部(回盲部)に多く、初めは虫垂炎様であるが、腫瘤(しゅりゅう)をつくり、皮膚に波及しやすい。治療としてはいずれの場合も、ペニシリンGをはじめ多くの抗生物質剤が有効である。

[福嶋孝吉]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「放線菌症」の意味・わかりやすい解説

放線菌症
ほうせんきんしょう
actinomycosis

放線菌類の感染症である。わらや穀物の穂などに媒介されて,放線菌が舌,虫歯,扁桃などから侵入し,主として口腔,咽喉,胃腸,肝臓などに病巣をつくる。特に下顎によく出現し,炎症が表面に及ぶと皮膚は発赤し,やがて赤紫色となり硬度を増す。ついには軟化し,膿が排出される。他の化膿菌と混合感染すれば,多発性の膿瘍と瘻孔を生じる。化膿巣中には,粟粒大顆粒状の菌塊がみられるのが特徴である。治療にはペニシリンの長期大量投与が行われる。

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