政治発展論(読み)せいじはってんろん(その他表記)political development theory

改訂新版 世界大百科事典 「政治発展論」の意味・わかりやすい解説

政治発展論 (せいじはってんろん)
political development theory

第2次大戦後の世界は,西欧近代理念を全世界に拡大し定着し,それに向けて限りなく近代化していくことで人間の世界を完成することを起点とした。さらに,その完成への過程民主主義によって実践される,ということが前提とされていた。その価値観に立つ限り,自由主義型民主主義も社会主義型のそれも,第三世界の新興諸国に対する準拠モデルとして,それぞれがより真なる民主主義として自己主張をなしえたのである。その場合,人間とその社会が,伝統的社会から近代的社会に接近していく過程を政治発展と考えていたのだった。つまり,〈近代〉はプラスの価値,〈伝統〉はマイナス価値とされ,より多く近代的か,より少なく近代的かで,発展度が評価されたのである。

 この評価の尺度は,近代的社会の特性を明確化する作業をともないつつも,それを量的に測定しうる形に規定しなおすことを要求する。たとえば,リプセットS.M.Lipset(1922- )は,富,工業化,教育,都市化の4指標をもってそれに当てている。この種の量的評価を基礎に,発展を段階的にとらえる思考様式がさまざまに展開された。その代表例として,ロストーW.W.Rostow(1916-2003)の経済成長五段階論があげられる。そこでは,伝統的社会→離陸準備期→離陸期→成熟への前進期→高度大衆消費期の5段階が識別されている。こうした発展段階論には,唯物史観に対抗して自由主義的近代史観の実質的卓越性,ひいては自由主義型民主主義の優位性を立証しようとするイデオロギーが秘められていた,というべきであろう。

 だが,1960年代のベトナム反戦運動,黒人問題,青年反乱は,この近代化史観の基礎であった〈豊かさ〉が人間を社会から疎外する機構であることを明らかにした。第三世界の後進性は,むしろ文化的には疎外からの解放状態だとする認識が高まった。人間の現代的課題は,政治体制のいかんを問わず,この疎外からの解放でなければならなかった。この状況は,公害,環境,資源といった問題に触発されて,さらに進展した。こうした課題に対決し,それを克服するためには,政治的不安定が人間に創造性を与え,そこから生ずる政治変動こそが人間と社会の常態だ,とする考え方が確立される。政治発展論は,したがって,この課題に対決する,人間とその社会それぞれの内在的価値体系ならびに内発的方法の多元性を前提としつつ,人間の歴史的創造力の可能性を積極的に承認し,それを理論的対象とすることをもって,その特性としているのである。その意味で,政治学は分析科学として,戦後的性格の前提であった〈民主主義〉そのものを非画一化することができたと同時に,価値と歴史への関心をふたたび組み込む契機を発見した,といえるのである。
近代化 →経済発展
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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