日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治発展」の意味・わかりやすい解説
政治発展
せいじはってん
political development
発展途上国における政治社会が望ましい方向に変動することをいう。この概念は政治的近代化の概念の延長線上にある。近代化論においては、社会ダーウィニズムと西欧デモクラシー・モデルとが前提になっており、非西欧社会も西欧型政治システム・モデルのゴールに向かって単線的に発展するというものであった。しかし、現実の政治社会の発展は多元的な方向性を有するとする批判がおきたことから、政治発展という概念が近代化にとってかわった。
比較政治学の立場から政治発展を論じたG・アーモンドやL・パイなどは、政治発展の要素として〔1〕政治システムの能力の増大、〔2〕機能・構造の増殖、分化、平等化、〔3〕政治文化の世俗化、法律の普遍化、をあげている。第1点は、政治システムの物的、人的、文化的資源を調達、配分する能力のことであり、経済力や文化水準などの高度化を意味する。第2点は、社会においてより多くの機能が専門化した構造によって担われる社会的分業のことである。発展度の低い社会では、遂行されている機能が限定的であるばかりではなく、特定の構造によって多くの機能が担われている。たとえば、福祉とか教育とかの機能が不十分であったり、1人または一つの機関によって立法、行政、司法の機能すべてが遂行されているような社会は伝統型の政治社会である。第3点は、政治的志向や態度の宗教性や神聖化した伝統からの解放と立憲主義の確立である。伝統型社会では、政治権力を非日常的権威に由来させたり、伝統を神聖化して社会の流動性を弱めたりする。人民はそれらの社会秩序を当然のものとして受け入れ、自分自身を政治における主体的存在とは考えない。発展した社会においては、ルールも権力者の恣意(しい)によらず、適切な手続を経て作成された法律によって規定されるために、社会関係が予測可能となる。それによって人民にも判断の基準が与えられ、全面的に伝統に支配されることなく、合法・非合法、損得いずれの観点であるかはともかく、自ら政治に対して判断を下し、自己を政治への参加主体と位置づけるようになる。しかし、1960年代後半に多くの先進国において社会的混乱が生じ、これらの先進社会に対しても多くの問題が提起されたのを契機に、政治発展の方向にも見直しがなされた。独自性を有している個々の政治システムを一元的モデルで考えるのは無理があり、それぞれに適合した発展の道が模索されなければならない。
[大谷博愛]