翻訳|dogma
一般に宗教的真理を表明した命題を意味する用語。教理ともいい,哲学的・政治的信念や主張を指して使われることもあるが,とくにキリスト教において重要な意義をもつ。元来ギリシア語に由来し,新約聖書では〈勅令〉〈取り決めた事項〉などを意味する語として使用され,古代後期のギリシア哲学では一般に特定の哲学的傾向を持った学派の見解を意味し,たとえば〈ストア派のドグマ〉というように使用された。この後者の意味での〈ドグマ〉がキリスト教会の用語として取り入れられ,4世紀ごろから使用された。教会の〈宣教(ケリュグマ)〉が種々の形態を取るとき,それらに一貫する真理命題が〈教義〉として求められたわけである。したがって教義は,教会のいろいろな宣教がその点では一致しなければならない最小限の事項を意味し,そこに教義の拘束性が主張されることになる。教義が哲学的な学派の見解と異なるのは,それが〈理性〉よりもむしろ〈啓示〉に関係している点である。その内容はしたがって,普遍的な理性的公理や一般的原理ではなく,歴史的な啓示のできごとからくるキリストの人格,神,救いについての命題であり,それらについての信仰告白である。教義は,その根底の教会的実存,その礼拝と信仰の生活から切り離されてはならず,主知主義的には理解されえないものである。
内容的には,三位一体論とキリスト両性論が中心であり,教会史,教理史の歩みとともにさらにそれに準ずるものとして贖罪論,義認論,サクラメント論などが加えられ,それらがさらに教会論や終末論とあいまって〈教義学dogmatics〉の主題を構成することになる。しかし厳密な意味での〈教義の発展〉をどこまで認めるかということになると,宗派によって立場は異なる。東方正教会は,787年の第2ニカエア公会議の決定を最後として,それ以後の教理命題を教義とは認めない。カトリック教会では発展を認め,〈マリアの無原罪の宿り〉〈教皇の無謬性〉などを19世紀以後に教義化した。福音主義プロテスタント教会では,教義を教会的信仰告白として理解し,霊的拘束性は認めつつもその〈無謬性〉は否定し,つねに新たな教義解釈や教理的表現の生産を承認する。近代において教義は,その拘束性や教会性のゆえに個人の自由や実存の強調と衝突するように見られてきた。しかし教義の形骸化とともに,近代の無制限の個人主義,主観主義の抽象性も避けられるべきであって,教義と真の自由や実存の確立は矛盾しない。教義に対する近代的誤解は,教義にとっても近代精神にとっても不幸であったと言うべきである。教義は忌避されるより,むしろ解釈されるべきであって,聖書を通し,キリストとその救済的現実を指し示すものとして,教会的自由と教会的実存によって解釈されつづけなければならない。教義学は,弁証学,倫理学とともに組織神学の一部をなし,教義内容の不断に新たな解釈と表現を課題としている。
執筆者:近藤 勝彦
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